映画「スキャンダル」:セクハラ現場シーンをあそこでとどめた理由
ハーベイ・ワインスタインの有罪判決を受け、アメリカで「#MeToo」支持者が祝福ムードに浸る中、日本では、その先駆けとなった出来事を語る「スキャンダル」が、ようやく公開となった。FOXニュースの元キャスター、グレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)が、自分にセクハラをしたCEOロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)を訴訟すると決めるのが、この物語。彼女がその策を練る間にも、エイルズは次の獲物を探す。
その罠にかかってしまったケイラ(マーゴット・ロビー演じるこの女性は、複数の人物を参考に作られたフィクションのキャラクター)が、エイルズのオフィスでふたりきりになるシーンは、この映画で最も強烈に印象に残るシーンだ。しかし、エイルズが女性たちに肉体関係も迫ってきたことを考えると、あのセクハラは、まだ初歩と言えなくもない。
ジェイ・ローチ監督は、あのシーンについて、「製作準備段階からポストプロダクションまで、ずっと考え続けた」と語る。それでも、世の中に大勢いるセクハラ被害者たちのために「あれが一番良かったのかどうか、今でもまだ悩む」そうだ。
彼と脚本家チャールズ・ランドルフがあれで行こうと決めた理由のひとつは、「日常的に起こりえるレベルにしたかった」からだった。また、過激にしすぎて、いやらしいと感じさせてしまうと、「男目線だと思われてしまう」との危惧もあったという。ローチとランドルフにとって、女性の視点から語ることは、最初から重要視していたことだ。
「あのシーンはセックスについてではない」とも、彼は主張。「あのシーンは、パワーについてだ。あそこで彼は権力を盾に、彼女に言うことを聞かせる。彼女の威厳を砕く。それを見せるのに、あれよりソフトではダメだった。どれだけ長く見せるかも、いろいろ試したよ。もう1台カメラを回し、ワイドショットで顔と全身像をとらえることもした」。
スカートの引き上げ方も、いくつも違ったバージョンを撮影している。だが、ケイラがどんな下着を身につけているのかについては、まったく悩まなかった。
「衣装係がいろいろ持ってきて、これはどうでしょう、こんなのもありますよと見せてくれたが、僕は白だと言った。特別でない下着。彼女は、楽だからそれをはいている。それがなおさら屈辱的なんだ。セクシーなものであってはいけないのさ」。
セクハラはグレーゾーンに生息する
ロビーも、あのシーンはとても現実的だと思っている。
「あのシーンで、ケイラは混乱し、それがセクハラだと気付いてもいない。一方で、ロジャーは手馴れたもの。彼のような男たちは、どこまでいけるかちゃんと見極める。次はもう一歩先に踏み込み、やりすぎたなと思ったらちょっと引く。そうやってどんどんひどくなっていくの。そんな経験談は、いくつも聞いたわ。そこに巻き込まれてしまった被害者女性は、『自分にも落ち度があったんじゃないか』と思ってしまう。だから、声を上げるのに躊躇するのよ」。
プロデューサーと主演を兼任したシャーリーズ・セロンも同感だ。
「いかにも悪魔のような人から見え見えの悪いことをされたら、誰だってすぐにその部屋から逃げるわよね。でも、そうじゃないことが多いの。現実の状況の多くは、白黒はっきりしていない。グレーの部分が大きい。被害者女性がその後も加害者にメールを送ったり、普通に接したりするのも、そのせいよ。今になって、ようやく、そういった複雑さについて語られるようになってきた。セクハラというのは、グレーの部分に生息するの」。
そのグレーゾーンを謳歌してきたのが、エイルズやワインスタインである。
「ふたりには共通点が多い。どちらも、実は劣等感だらけ。一方で、白人の男である彼らは、自分たちが一番上と思っている。なんでも許される階級なのだと。それは、最も危険な組み合わせなのよ」とセロン。
あのシーンにも、そのニュアンスはしっかりと感じられる。この映画は、複雑な問題の表面だけでなく、核心まで見つめようとした人たちによって作られたものなのだ。
写真:Hilary Browyn Gale/ Lionsgate