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3900湯を巡った温泉ライターが教える「湯船は狭いほどよい!」と言える意外な理由3つ

高橋一喜温泉ライター/編集者

先日、ある大型の温泉旅館に泊まったときのこと。旅館の大浴場は一度に100人以上が入れそうな大きな湯船。宿のホームページにも、名物湯船として写真付きで大きく掲載されていた。

しかし、筆者が入浴時間のほとんどを過ごしたのは、ひとり用の小さな壺湯(釜風呂とも言う)だった......。

写真はイメージ
写真はイメージ

温泉の醍醐味といえば、自宅の風呂よりも広々とした湯船で思う存分に湯浴みを楽しむことだろう。開放感のある露天風呂などは非日常体験を味わえる。

しかし、3900を超える温泉につかってきた温泉ライターである筆者の経験からいえば、「狭くて小さな湯船こそ正義」だ。小さな湯船につかる「ソロ湯船」が最高である。

1つめの理由は、湯船が大きいと定位置が決まらず、落ち着かないから

湯船の深さ、景色、座り心地などベストポジションが見つかるまで時間がかかる。居心地のよい場所が見つからないと、本当の意味ではリラックスできない。

また、これは個人的な好みとなるが、大きな湯船は開放感がある一方で、広すぎてかえって心が不安定になり、ソワソワしてしまうのである。その点、小さな湯船はそうした気苦労がない。

2つめの理由は、小さい湯船のほうが新鮮な湯を堪能できるから

これは、温泉を使い回さわない「源泉かけ流し」の湯船が条件となる。当たり前だが、湯船の容積が小さいほうが、どんどん湯があふれ出て入れ換わる。湯船が大きければ大きいほど、湯が滞留する時間が長くなる。

そもそも湯船の中の温泉は、均等に入れ替わるとは限らない。湯船の構造にもよるが、どうしても古い湯は湯船の底のほうに滞留し、水面の新しい湯が先に湯船からあふれていく。

入り組んだ形の湯船ほど、その傾向が強くなる。隅っこの落ち着く場所ほど「ここの湯はずっと流れずにとどまっているのではないか」と心がざわざわしてくる。

温泉も食材と一緒で鮮度が命。酸素に触れることによって酸化し、本来の成分の濃度が薄まってしまう。なにより不特定多数の人が入浴する湯船の湯が入れ替わらない、と考えるだけで居心地が悪い。

湯船の容積が大きければ、温泉が入れ換わる時間は長くなるので鮮度は落ちる。一方で、湯船は小さいほど湯が新鮮で、気持ちがいい。湯船からあふれ出ていく湯の量が多いほど、贅沢で幸せな気分になれる。

だから、よく温泉施設などで見られる、壺湯などひとり用の湯船は最高である。かけ流しという条件付きとなるが、体を沈めたときに「ザバーッ」と湯があふれ落ちる瞬間は快感ですらある。

3つめの理由は、自分だけの時間を満喫できるから。

筆者のように、ひとりでの温泉旅(ソロ温泉)を好む人にとって、ひとりを満喫できる時間は貴重である。浴場でも、たくさんの人が出入りするような大きな湯船よりも、もともとキャパシティが小さく、出入りが少ない湯船のほうが、心安らかな時間を確保しやすい。ひとりで無心になったり、ゆっくり考えごとをしたりするには小さな湯船が最適である。

最後に注意点をひとつ。小さい湯船だと同時に入浴できる人数が限られるので、混雑しているときはお互いに譲り合って利用したい。特にひとり用の壺湯などは、長時間独占するのはご法度。長湯しすぎるのは湯あたりにもつながるので、常識的な時間で湯船から出るようにしよう。

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3900超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)のほか、『有吉ゼミ』『ヒルナンデス!』『マツコ&有吉かりそめ天国』『スーパーJチャンネル』『ミヤネ屋』などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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