「低気圧で頭痛」なぜ起きるか医師が解説;不調を軽減する方法は?
「台風が近づいている」とか「雨が降りそう」というとき、なんとなく調子が悪く感じることがあります。
特にもともと頭痛持ちだったり、ケガ・手術の傷跡があったりすると、頭痛がひどくなったり、傷痕がうずいたりします。
このような痛みは「気象関連痛」とか「天気痛」と呼ばれます。
「天気痛調査2020」という16,482人を調べた調査(インターネット調査)によると、女性の78%、男性の47%に「天気痛がある」「天気痛を持っている気がする」と返答しており、多くの人が 天気の変化によって何らかの痛みを感じていることが分かります[1]。
また、この調査では、痛みを感じる半数の方が「頭痛」を上げており、天気の変化によって起こる頭痛は、”非常によくある”頭痛だと言えます。
実際に慢性頭痛のある方に、ご自分の頭痛のパターンを知ってもらうため、頭痛日記を付けてもらうことがありますが、頭痛とともに天気や気圧を記録してもらうと、気圧・気温が痛みに関係していることがしばしばあります。
つまり、湿度が高くてジメジメしているから調子が悪いというよりは、低気圧が来たり、気温が大きく変化したりすることが、頭痛と関わっているようです。
天気痛、なぜ起こる?
この天気の変化や低気圧が引き金となる頭痛は、なぜ起こるのでしょうか?
実は、天気痛がなぜ起こるのか、詳しいことは分かっていません。
梅雨の時期など、雨が降る前からカエルの鳴き声が聞こえてくることがありますが、カエルは雨が降ることを予測できています。
進化の過程で、雨を予測して移動することは、乾燥に弱い両生類などにとってはまさに死活問題であり、雨降りと関係する気圧の変化に敏感な個体の方が、生き残るのに有利だったでしょうが、私たちのからだにも 気圧の変化をとらえるセンサーがあると考えられます。
実は、耳の奥に内耳という器官があり、音や平衡感覚をモニターしていますが、気圧のセンサーにもなっていると考えられています。
ネズミでは この内耳が機能しないようにすると、気圧の変化による痛覚過敏が起こらなくなるという研究がありますが、天気痛がある人では、このセンサーが敏感なのかもしれません。
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一方、漢方の世界では、気圧の変化は外界から受ける刺激の一つで、当然、体調を左右する原因になると考えます。
飛行機に乗って上昇していくと、地上で買ったペットボトルがパンパンに膨らむのが分かります。
これは中の空気が膨らんでいるためですが、私たちの身体も気圧の変化に応じて変化します。
天気痛には自律神経のアンバランスや、心理的な要因もあるといわれています。
特に普段からストレスをため込んでいたり、胃腸が弱っていたりする方では、この気圧の変化にうまく対応できず、結果として頭痛のほか、むくみや疲れなどのトラブルを生じるのでしょう。
低気圧で起こる頭痛にはどう対処すればいいの?
低気圧が来ることは避けられませんが、予測することはできます。
実際、慢性的に頭痛に悩まされている方は、頭痛の予兆(前ぶれ)を感じている方も多いです。
経験的にご自身の判断で実践されている方もいますが、「これは頭痛が来るな...」という段階で、先手を打つことが有効な場合があります。
頭痛持ちの方の中には、いつも”めまいと一緒に頭痛が起こる”という方もいますが、このような方に、予兆の段階で“めまい止め”の薬を内服してもらうと、7割以上の方で痛みが軽減したという報告があります[2]。
最近ではスマホアプリなどで、天気・気圧の変化を細かく予測することが可能になっているので、このアプリを組み合わせて、予兆段階で対応することで、ひどい頭痛を改善できる可能性があります[3]。
*その際、一般的な痛み止め(鎮痛薬)を使っていると、薬剤誘発頭痛という、鎮痛薬の飲み過ぎによる頭痛を起こすことがあるため、注意が必要です。
一方、漢方では、このような気圧が下がって調子が悪くなる状態は、全身の水の循環・分布が悪くなって起こる水滞という状態と考えられます。
この水滞という状態を改善するためには、水分の巡りを良くして、分布を改善する利水剤という薬が用いられます。
漢方薬の五苓散は、この利水剤の一つで、典型的な低気圧頭痛の患者さんによく用いられます。
近年、頭の中の余分な蛋白や炎症物質を取りのぞいて、脳を保護するグリンパティック系という仕組みがあることが分かってきていますが、五苓散はこのグリンパティック系を活性化し、炎症物質を取りのぞくことで、効果を出しているのではなか、という説があります。
薬以外に方法はないの?
漢方でいう水の巡り・分布を整えることが、低気圧頭痛にも良い影響を与えると考えられます。
私たちは飲んだり食べたりして、水分を摂取しているわけですが、胃腸が弱っていると、この水分の分布に影響を及ぼします。
水分を摂り過ぎないようにするとともに、油っこくて味の濃いもの、甘いお菓子、冷たい飲みものや生もの、濃い味の食事などを避け、さっぱり味で温かいものを腹八分目にするのが良さそうです[4]。
また、良質な睡眠をとり、疲れをためないことも大事です。
睡眠中に、成長ホルモンなどのはたらきで、身体の痛んだ部分が修復されることが知られていますが、睡眠中に脳の老廃物の除去も行われることが分かってきています。
先ほどの脳のグリンパティック系も睡眠・運動によって、そのはたらきが活発になると言われていますが、老廃物をためない生活習慣が大事なようです。
*頭痛という症状は、日常診療では比較的よくある症状ですが、稀に重大な脳の病気のサインのこともあります。
頭痛が長く続いている・悪くなってきている気がするという場合は医師に相談してください。
参考
[1]ロート製薬 Weathernews, “天気痛調査2020,” 2020/07/18, 2020. https://weathernews.jp/s/topics/202007/070165/
(accessed Sep. 23, 2021).
[2]郭泰植, “天候の変化に対する片頭痛予兆療法,” PAIN Res., vol. 34, no. 4, pp. 324–335, 2019, doi: 10.11154/pain.34.324.
[3]佐藤純 et al., “気象関連痛(天気痛)の疫学,臨床的特徴と発症予測情報サービス,” PAIN Res., vol. 36, no. 2, pp. 75–80, 2021, doi: 10.11154/pain.36.75.
[4]櫻井大典, “低気圧と体調,” 2021.09.14, 2021. https://www.543life.com/shun/post20210914.html
(accessed Sep. 22, 2021).
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】