「おカネをただで配りましょう」ベーシックインカム実験の結果はどうなった フィンランドからの報告
就労状況は改善されず
[ロンドン発]最低限度の生活を保障するため市民全員に現金を配りましょうというベーシックインカムの社会実験が世界で初めてフィンランドで開始されたのは2年前のことです。
フィンランドの国民年金機構Kelaと社会保健省は2月8日、実験が行われた2年間のうち1年目の調査結果を発表しました。2年目の結果は来年早々に発表される予定です。
それによると、参加者の就労状況はそれほど改善されなかったものの、自分で感じる健康状態やストレス度は他のグループよりも良かったそうです。
ベーシックインカムの実験参加者の年間雇用日数は49.64日で、それ以外のグループの49.25日に比べてわずか0.39日多いだけでした。自営業では実験参加者の年収は4230ユーロ(約52万6000円)でそれ以外のグループの4251ユーロ(約52万8600円)より21ユーロ(約2600円)少なくなっていました。
幸福度は増す
自分で感じる健康状態は実験参加者では「とても良好」15%、「良好」41%の計56%。一方、それ以外のグループでは「とても良好」10%、「良好」36%の計47%でした。
自分で意識するストレスは実験参加者では「全くない」22%、「少しだけ」33%の計55%。それ以外のグループでは「全くない」20%、「少しだけ」26%の計46%でした。
月額560ユーロ支給
実験は2017年1月から2年間にわたって実施されました。25~58歳の失業者の中からランダムに2000人、性別では男性52%、女性48%、年齢別では25~34歳30%、35~44歳30%、45~58歳40%を選びました。
従来の基礎失業給付や労働市場補助金を停止する代わりに月額560ユーロ(約7万円)のベーシックインカムを支給しました。
実験の狙いは(1)社会保障システムの刷新(2)就労意欲を高めることができるか(3)官僚システムを簡素化できるか――の3点です。
ベーシックインカムは受給者の幸福度を増すことはできても、就労意欲を高めることは難しいようです。
ノキアの携帯電話の凋落
かつては欧州連合(EU)の優等生だったフィンランドは世界金融危機と、アップルやサムスンによるスマートフォンの登場でノキアの携帯電話が凋落し、低成長に苦しんでいます。
ベーシックインカムの社会実験には人工知能(AI)やロボット化による労働市場の変化に対応しようという狙いもあります。
工業社会の時代に作られた社会保障システムを脱工業化に向けて一から再構築するにはどうすれば良いのかを考える社会実験です。
英国でも自営業というワークスタイルが増え、筆者のように50代になるとフルタイムで働く人が目に見えて少なくなってきます。
疲弊する南欧諸国
その一方でEU域内ではギリシャやスペイン、イタリア、フランスのように仕事がなくて疲弊している国が増えています。
ベーシックインカムを導入するにしても「稼ぐ力」が前提になるのは言うまでもありません。
次世代の教育に投資を惜しまず、効率的な職業訓練によって労働市場のミスマッチを解消していく必要があります。
AIやロボット全盛の時代が到来する前に、働き方と生き方を軸にして税制、社会保障システム、教育、医療、年金を一から考える時期に差し掛かっているのは間違いありません。
(おわり)