Yahoo!ニュース

所得階級別子どもの数の推移に見る「少子化対策が少子化を促進する皮肉」

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

半減した「児童のいる世帯」

改めて言うまでもなく、長く続く少子化で児童のいる世帯(18歳未満の子がいる世帯)の数は年々減少している。それこそ、夫婦と子ども二人の世帯が「標準世帯」と呼ばれていた頃の1970年代と比較すれば、ほぼ半減している。

国民生活基礎調査から、数字のわかる1975年以降の長期推移を表したのが以下のグラフである(但し、1976-1979年、1981-1985年、2020年はデータなし)

しかも、この世帯数とは、18年前に末子を産んだ世帯も含まれているので、乳幼児のいる世帯だけに限ればもっと減っていることだろう。

「貧乏子沢山」なんてない

さて、減り続ける児童のいる世帯ではあるが、世帯の年収階級別にその分布の推移を見ると、大きな変化が起きている。

かつて「貧乏子沢山」なる言葉があったが、今ではむしろ逆で「裕福な世帯の方が子沢山」となっている。より正確に言えば、ある一定の所得以上の世帯でなければ子も持てなければ、そもそもその前段階である夫婦世帯となることもできなくなっている。

なぜなら、結婚も出産も高価で贅沢な消費と化してしまったからであり、当連載でも「お金がないから結婚できない」という話を何度もしている通りだ。

だが、そのたびに「金がないから結婚できないとか子どもを持てないなんてことはない」という反応をするおじさんがいるのだが、いい加減に情報をアップデートしてもらいたいものである。

そもそも「貧乏子沢山」という時代が本当に存在していたかどうかも怪しいものだ。

貧乏であろうとなかろうと、終戦直後の第一次ベビーブーム期までは、合計特殊出生率も4.54もあり、一人の女性が4-5人の出産をすることは通常であった。しかし、それはまだ乳幼児死亡率も高い時代でもあり、戦争直後の栄養・衛生環境もあいまって、生れてきた多くの子どもたちが子どものうちに亡くなる可能性が高いがゆえの多産である。

日本に限らず、全世界的に乳幼児死亡率が低くなればなるほど、出生率は下がるという出生メカニズムがあり、少子化の時代とは「生まれてきた子どもが子どものうちに死ななくてよくなった時代」ということでもある。

厳密にいえば、「貧乏子沢山」というよりも「子どもを死なせてしまう貧困家庭であればこそ、そのリスク回避のために多産する必要があった」ということでもあろう。

参照→なぜ昔の日本人は、4人も5人も出産したのか?出生数を見るだけではわからない自然の摂理

潮目が変わった2015年

さて、「裕福でなければ子どもを持てない」という傾向が顕著になってきたのは2015年頃以降である。以前もお伝えしているが、その頃から「児童のいる世帯数は減っているのに、児童のいる世帯の平均年収だけはあがっている」からだ。

国民生活基礎調査から、所得五分位階級別に、児童のいる世帯の子どもの数の違いを比較してみよう。

所得五分位階級とは、全世帯を所得の低いものから高いものへと順に並べて5等分し、所得の低い世帯群から第一・第二・第三・第四・第五と分けたもので、簡単にいえば、第一階級とは所得下位20%以下、第五階級とは所得上位20%以上ということになる。なお、階級分けの母数は全世帯であり、児童のいる世帯だけではない。

2005年から2023年までの推移(2020年は調査未実施)を所得階級別の平均子ども数で表したのが以下である。

それによれば、全体的に子どもの数は減っているのだが、所得上位層の第四・第五階級の減りよりも、所得階層の第一・第二階級の減りが大きいことがわかる。特に、所得階級でいえば「中の下」にあたる第二階級の減少がもっとも大きい。

直近の2023年の各階級の子ども数を比較しても、所得上位層の子どもの数は多く、所得下位層の子どもの数は少ない、その格差も2005年と比較しても開いている。

少なくとも2005年あたりまでは、所得の多寡でそれほど子どもの数の差はなかった。分布の形が変わったのは2015年からである。

所得上位の裕福層だからといって、子どもをバンバン産むわけではない。所得が増えるにこしたことはないのは上位層も下位層も同じだが、さりとて、今の児童のいる世帯の減少(=子どもを産む夫婦の数の減少)とは、所得下位40%層が以前より子どもを産めなくなったためであることは明らかである。

やがて、それは今減少を堪えている第三階級のド中間層にまで波及するだろう。なぜなら、すでに所得中間層の若者の婚姻減が進んでいるからだ。

金配りによる結婚・出産コストのインフレ

なぜ、こうしたことが起きたのか。それこそ政府の少子化対策の的外れのせいでもある。

写真:代表撮影/ロイター/アフロ

政府の少子化対策は子育て支援一辺倒でずっときている。具体的には児童手当の支給などがあるが、確かに、これらの支給は、子育て世帯にとって助かるものかもしれないが、そうした現金給付をすればするほど、その資金は今いる子の教育費や成長のための投資に回されてしまい、新たな出生増につながらないばかりか、子育てコストのインフレを引き起こし、「子どもを育てるには金がかかる→産むにはこれだけ所得が必要」という謎の刷り込みがされることになる

しかも、政府は児童手当給付の裏で、これもまた「社会全体で子育て」という名目で社会保険料の増額や各種控除の廃止を進めるという愚策を続けており、子育て世帯にとっては「配られるけどそれ以上に持っていかれる」状態でもあろう。

そんな状態では、所得中間層はおろか上位層であってもさらなる出生を抑制することにもなる。

少子化対策として現金支給をすることが、かえって結果として「結婚と出産の贅沢消費」化を促進することになり、中間層以下の出生を抑制し、さらなる少子化を推進しているとはなんという皮肉だろうか。

関連記事

貧困でなくても子どもを持てない高いハードル「900万円の年収の壁」の現実に必要な視点

「子どもにお金がかかりすぎ」少子化が進む日本と韓国だけ異質な教育費負担

「異次元の少子化対策」を検証する~子育て支援は出生率に影響するのか?

-

※記事内グラフの商用無断転載は固くお断りします。

※記事の引用は歓迎しますが、筆者名と出典記載(当記事URLなど)をお願いします。

※記事の内容を引用する場合は、引用のルールに則って適切な範囲内で行ってください。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

荒川和久の最近の記事