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花壇のパンジー、ビオラを食い荒らす毒々しい毛虫は、きれいな蝶(ツマグロヒョウモン)に変身。

天野和利時事通信社・昆虫記者
毒毛虫のようなツマグロヒョウモンの幼虫(下)と美しい成虫(上)。

 花壇のパンジー、ビオラの葉の上で時々、毒々しい毛虫を見かけることがある。黒い体に赤い筋、トゲだらけの姿は、どう見ても毒毛虫だが、見掛け倒しで毒はない。

 恐ろしげな毛虫の多くは蛾になる。しかしこの毛虫は、醜いアヒルの子が白鳥になるように、いずれきれいな蝶になる。その蝶の名は「ツマグロヒョウモン」。

 数十年前にはツマグロヒョウモンを東京で見かけることはなかったが、近年急速に生息域を拡大し、東京を含め、関東の都会でも爆発的に数を増やしている。

ムカデのような毒々しさのツマグロヒョウモン幼虫。蛹化前に道路を歩いていることがよくある。
ムカデのような毒々しさのツマグロヒョウモン幼虫。蛹化前に道路を歩いていることがよくある。

 ツマグロの大繁栄の理由は幾つかある。まずは温暖化。1980年代までは、ツマグロの生息域は近畿以西とされていたようだが、温暖化で北方へと勢力を拡大した。なので、この蝶は気候変動調査に重要な生物と考えられている。

 繁栄の二つ目の理由は幼虫の餌。ツマグロ以外のヒョウモンチョウの仲間のほとんどは、野生のスミレしか食べないので、都会で目にすることはめったにない。しかしツマグロの幼虫は、パンジーなど栽培種のスミレの葉もバリバリ食べる。

 つまり、パンジーやビオラが花壇にたくさん植えてある都会は、ツマグロにとって天国なのだ。また、他のヒョウモンチョウの仲間の大半が年1回の発生なのに対し、ツマグロは、気候次第で年に何回も発生する。こうしてツマグロは、東京など大都会を代表する蝶の一つになった。

ツマグロヒョウモンのメスの黒い紋は、光の当たり方で青く見えることも。
ツマグロヒョウモンのメスの黒い紋は、光の当たり方で青く見えることも。

ツマグロヒョウモンのメスは羽の裏側も南国風で美しい。
ツマグロヒョウモンのメスは羽の裏側も南国風で美しい。

 ツマグロの名の由来は、メスの成虫の前翅の先が黒いこと。この黒っぽい部分は、光の当たり方によって青く見えることもある。メスの姿は、南国の蝶「カバマダラ」に良く似ていて、ヒョウモンチョウの仲間の中では特筆すべき美貌だと言える。昆虫記者が若かりし頃、ツマグロのメスを初めて見つけて「な、な、なんでカバマダラがこんなところにいるのか」と、興奮して虫捕り網を持つ手がブルブルと震えた覚えがある。

ツマグロヒョウモンのオスはちょっと地味。オスメスの違いが目立つ蝶の代表でもある。
ツマグロヒョウモンのオスはちょっと地味。オスメスの違いが目立つ蝶の代表でもある。

ツマグロヒョウモンのオスとメスのデートの風景か。
ツマグロヒョウモンのオスとメスのデートの風景か。

ビオラを食害するツマグロヒョウモンの幼虫。
ビオラを食害するツマグロヒョウモンの幼虫。

(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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