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【PC遠隔操作事件】逮捕の辛さを分かっていながらなぜ、と問う被害者(第11回公判傍聴メモその1)

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

6月20日に行われた第11回公判では、まず、検察側証人2人の証人尋問と「真犯人メール」を送ったいきさつについての被告人質問が行われた後、被告人質問がなされた。また、心理鑑定を行いたいという弁護側の主張に対し、検察側反対意見を述べた。

「私たちにも家族がいる」と訴える被害者

伊勢神宮
伊勢神宮

1人目の証人は、伊勢神宮への破壊予告などで三重県警に誤認逮捕された男性。氏名を明かさないだけでなく、遮蔽板とアコーディオンカーテンで、出入りや証言する姿が傍聴席には全く見えない遮蔽措置が行われた。証言の内容は次の通り。

平成24(2012)年9月13日に警察官が来て警察に同行した際には、面倒なことに巻き込まれたな、と思った。2ちゃんねるの板で秋葉原の件で”IDかぶり”になったのか、と思った。14日に逮捕された時には「何かの間違いだろう」と思った。頭が真っ白で、何も考えられなかった。留置場の中では、家族に迷惑がかかる、と思い、「どのブラウザから書き込みがあったんだろう」と考えていた。

8日間勾留された。勾留質問、検事調べ、DNAや指紋の採取など、(同房の)他の人は呼ばれないのに、私は毎日呼び出され、理不尽な思いをした。布団が薄くてぺらぺらで、腰が痛くて寝付けなかった。食事がまずくてほとんどのどを通らなかった。

自分の無実を証明する方法は全く思い浮かばないので、認めてしまった方が早く家に帰れるのかな、と思ったこともある。当番弁護士や(同房の)他の人から、(認めれば)略式裁判になると言われたので、認めてしまおうか、と思った。

ただ、取り調べをしている刑事が、日に日に口調が弱くなって、葛藤しているように見えた。私が「認めれば早く帰れるのか」と尋ねると、「それで動機を言ってくれるのか」と聞かれ、思いとどまった。家族が面会に来て、本当のことを言うようにと言ってくれて、(否認を)貫くことができた。

家に戻ってから、家族は普段と変わらないように接してくれた。親に心配をかけてしまった、と思った。(逮捕当時は)無職だったので、早く働いて安心させたい、と思った。

その後も遠隔操作事件で進展があるたびに、マスコミがたくさん来て、犬が吠え、近所迷惑になるんじゃないか、と思った。当時の辛い気持ちを思いだして、また辛くなった。不安になっている時も、家族がそばにいるだけで安心できた。大切な存在だな、と思った。

証言をしようと思ったのは、これだけ大きな事件だし、他に誤認逮捕された人もいる。誰かが出て、こういう被害があった、と言わなきゃならない、と思った。福岡の人はカップルが分かれているので難しい、大阪の方は仕事のことで被害を受けたので難しい、神奈川の方は若くて精神的に辛い思いをした(ので証言に消極的と聞いた)。それならば、私が行こう、と思った。

被告人は過去に脅迫罪で逮捕されて捜査機関に恨みがあったのかな、と思う。でも、逮捕・勾留される辛さは身をもって分かっているはずなのに、なんで第三者をおとしめるやり方をしたのかな、と思う。

(最近の被告人についての報道を見ていて)私も似たような状況だったので、家族を安心させたい気持ちは分かる。でも、私たちも同じように家族がいて、家族は心配していた。自分の家族を安心させたいというなら、私たちにも心配する人がいると認識して欲しい。

処罰については判例に沿った処罰をして欲しい。(刑罰の軽重など)具体的な希望は特にないです。私の発言が被告の罪の重さに影響するなら、安易には言えません。

誤認逮捕されるなどの被害を受けたのに、警察に対しても、被告人に対しても、感情的にならず、落ち着いた証言を行った男性。ことさらに重い処罰を求めなかったのは、片山被告の母を思う気持ちや、息子を見捨てずにいる母の心境を思いやってのことだろう。そういう想像力を持って欲しい、という被告人に訴えていたように思えた。

「2度とこういうことがないように」

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2人目の証人は、日本航空への爆破予告があった同年8月1日にニューヨーク行きの航空機を操縦していたパイロット。シルバーのアタッシェケースを足下に置き、機長らしく落ち着いた口調で証言をした。その要旨は以下の通り。

離陸後4時間ほどした頃、地上とメールのように連絡をとるエーカーズというシステムで、爆破予告があったので会社に連絡するように、と知らせがあった。衛星電話で電話をして詳細を知った。社内でカテゴリー2(信憑性が高い、もしくは信憑性は低いものの何らかの措置を行う)と判断したと報告を受けた。メールの内容を読んでもらったが、本当かもしれないが、いたずらのようにも思えた。会社のオペレーションコントロールセンターと相談し、カテゴリー2なので、このままNYに行くという選択肢はないが、近くの空港に緊急着陸をするということでもない、となった。燃料の残量を伝え、フライトプランの再作成をしてもらい、アメリカの管制官に引き返す許可をとった。最大着陸重量を超えていたので、途中で燃料を投棄した。

乗客への説明で「爆破予告」という言葉を使うとパニックになるのではと迷ったが、引き返すという重要な決断をしたので、言わなければならないと思った。「信憑性は低いものの安全のために引き返す」とできるだけ落ち着いた単調な声で伝え、パニックにならないよう最大限の配慮をした。マニュアル通り、不審物がないか、機内の捜索も行った。

着陸してお客様が降機されたあと、ほっとした。一番影響が大きかったのはお客様。予定通りにNYに到着できず、5時間も不安の中で、人によっては恐怖の時を過ごした。乗務員も、何らかの不安を感じていた。臨時便を出すなど、当社も相当な被害を受けた。こういうことはあってはならない。二度とこういうことが起きないように、と思う。

検察側は心理鑑定に反対

主に弁護人から今回の「真犯人メール」についての被告人質問が行われた後、弁護側は、PC解析を行った検察側証人に対する反対尋問権を放棄。また、弁護人が被告人の心理鑑定を行うように求めていることについて、検察側が「必要性も相当性もない」として反対意見を述べた。検察側によれば、「被告人の行動は、何とかして罪を逃れようとする卑劣な行動として十分理解可能」「心理鑑定を行わなくても、裁判所は再犯や更生可能性について判断できる」などとしてしている。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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