垂直避難 有効な時とそうでない時
今から2年前の2019年10月12日、大型で強い台風が日本列島を直撃しました。のちに「令和元年東日本台風」(台風19号)と命名されたこの台風は、関東~東北地方に記録的な大雨をもたらし、各地で土砂災害や河川の氾濫が発生。関連死を含め100人以上の方が亡くなりました。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々には改めてお見舞い申し上げます。
「垂直避難」ありきは危険
近年、大雨による災害は激甚化し、毎年のようにどこかで、いまだかつて経験したことのないような大雨災害が発生しています。そんな中で、ますます注目度が上がっているのが、避難行動のあり方です。今年は、避難勧告の廃止(避難指示に一本化)や、線状降水帯に関する情報(顕著な大雨に関する情報)が新たに始まるなど、避難行動に関わる情報がいくつか新設・変更され、その重要性は増すばかりです。
避難行動の中で、最近取り上げられることの多いものに「垂直避難」があります。垂直避難とは、建物の上階へ避難すること、文字通り垂直方向へ移動するという避難方法です。最近は天気予報でも頻繁に、「建物の2階以上へ避難してください」などと言われ、一般にも浸透してきています。ただ、同時に、何でもかんでも垂直避難になっていないだろうか、と心配しています。
垂直避難は、有効な時とそうでない時があります。垂直避難ありきで避難行動を考えるのは、大変危険です。
垂直避難が有効な時、そうでない時
避難の方法には、大きく2種類があります。先ほどの垂直避難の他に「水平避難」と呼ばれるものです。これも、文字通り水平方向へ移動する避難方法で、「立ち退き避難」と言われます。危険な場所から完全に離れて、安全な避難所や知人宅などに行くという避難方法です。避難は、この「立ち退き避難」が大原則になっています。
今年5月、国がまとめた、避難情報に関するガイドラインには、次のようなことが書かれています。
まず、洪水や高潮、いわゆる浸水害の場合は、立ち退き避難を前提としながらも、浸水のおそれがない建物の上階へ避難すること(垂直避難)は、避難方法の一つとして容認されています。浸水に関しては、住宅の高層化や、浸水想定がある程度明らかになってきており、計画的に身の安全を確保することが可能な場合があるためです。ただし、家屋が激しい水の流れによって流されることがない(家屋倒壊等氾濫想定区域に指定されていない)など、いくつか条件はあるため、その点は注意が必要です。
一方で、土砂災害の場合は、立ち退き避難が原則とされています。土砂災害は突発的に発生することが多く、発生してから避難することは困難であること。さらに、家屋を流失・全壊させるほどの破壊力があるため、屋内で身の安全を確保することができるとは限らないためです。
次に挙げるのは、今年8月、長野県岡谷市で起きた事例です。
当時、住宅には親族8人がいましたが、全員が2階で寝ていたそうです。しかし、その2階に土砂が流入し、山側の部屋にいた3人が亡くなってしまいました。2階にいても、安全を確保できるとは限らないわけです。
特に土石流は、時速20~40キロ程度の速さで、土砂や岩石などが一気に押し寄せてくる恐ろしい災害です。木造家屋などは丸ごと破壊されてしまうおそれもあります。
垂直避難は最終手段
土砂災害時の垂直避難は、どうしても立ち退き避難ができなくなった時の最終手段と考えてください。大雨の警戒レベルで言えば、レベル5の「緊急安全確保」に近い状況でとる行動です。その時も、できるだけ斜面から離れて、土砂が来る可能性が少しでも低い部屋に移動することが大切と言えます。
避難の基本はその場を立ち退くことというのを忘れないでいただきたいと思います。
※参考資料
内閣府「避難情報に関するガイドライン」