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百折不撓・木村一基九段(48)苦戦を耐えしのぎ、渾身の角打ちの果てに王座戦第1局を制す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月1日。宮城県仙台市・ホテルメトロポリタン仙台において第69期王座戦五番勝負第1局、永瀬拓矢王座(28歳)-木村一基九段(48歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 9時に始まった対局は20時18分に終局。結果は128手で木村九段の勝ちとなりました。

 第2局は愛知県蒲郡市「西浦温泉 旬景浪漫 銀波荘」でおこなわれます。

 両者の通算対戦成績は木村4勝、永瀬3勝となりました。

将棋は逆転のゲーム

 永瀬王座先手で戦型は角換わり腰掛銀。序盤からこれぞ現代将棋という展開で、両者ともに研究十二分を思わせるハイペースで進みました。

 78手目、木村九段はあたりになっている飛車を玉近くに逃げます。ここで永瀬王座の手が止まり、熟慮39分で自玉の上部に歩を成ります。79手まで進んで、昼食休憩。形勢は永瀬王座ペースと見られました。

 午後に入ってからはスローペース。木村玉は壁形で逃げ出すのが難しく、永瀬王座の側からは比較的わかりやすい攻めの順が見込まれています。

 苦境に追い込まれた木村九段。手段を尽くして永瀬玉に迫り、逆転のアヤを求めます。

 永瀬王座は自玉周辺に手を入れながら丁寧に相手の面倒を見る、容易に負けないスタイル。永瀬ワールド全開といった感がありました。しかし木村九段は自玉の壁になっていた飛車を形勢を端9筋に回す攻防の順も得て、次第に追い上げていったようです。

 103手目。永瀬王座は木村九段の攻めの拠点となっている香を取ります。しかしこれが永瀬王座らしからぬ疑問手。乾坤一擲、木村九段は駒音高く△9九角! 王手! ノータイムで角を打ち込みました。

 この角打ちは今年度を代表するクラスの妙手でしょう。▲9九同玉ならば△9七歩成▲同桂△7七角(王手金取り)で永瀬玉は一気に寄り形。▲8七玉と逃げれば△6六角成で、やはり網が破れた格好です。

 図の局面で持ち時間5時間のうち、残りは永瀬38分、木村24分。さすがの永瀬王座もこの手には参ったか、手が止まりました。苦吟19分。▲9九同玉と角を取る順を選びましたが、△7七角以下、木村九段が一気に優勢に立ちました。

 118手目。木村九段は自陣に香を打ち、冷静に受けに回ります。これで明快な一手勝ちコースに入ったかに見えました。

 しかし最終盤。両者ともに最善の順を逃したか、ソフトが示す形勢判断は一瞬、激しく揺れ動きました。ジェットコースターのように評価値が上下する中、再び勝勢に立ったのは木村九段でした。

 永瀬王座はマスクをしてスーツのジャケットを着ます。木村玉に最後の王手をかけますが、詰みません。128手目、木村九段が王手をしのいだあと、永瀬王座は投了を告げました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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