老親から「介護費用」としてお金を受け取ると「贈与」!? 「預り金」なら大丈夫 #令和の親 #令和の子
高齢の親から「介護が必要になったら、このお金を使って」とまとまったお金を渡されるケースがあります。もらった子からは、ほっとした表情が見られる反面、「贈与にならない?」と不安の声がもれることが少なくありません。
親自身での支払いが難しくなったとき
高齢の親の心身の具合が悪くなると、代わりに買い物に行ったり、病院の窓口で支払いをしたりと何かとお金が出ていきます。親を病院に連れていく際に、タクシー運賃を支払うこともあるでしょう。
心身の弱っている親に払うように促すこともためらわれ、自分の財布からお金やクレジットカードを出す機会は増えます。1回1回はそれほど大きな金額ではなくても、積み重なると負担に感じることもあるでしょう。それならと、まとまったお金を「介護費用」として親からもらうのはあり?
定期預金をもらっても……
Aさん(50代)の父親は実家で1人暮らし。最近は心身機能の低下が進み、帰省するたび、病院に連れて行ったり、代わりに買い物に行ったり。父親はAさんに対し、申し訳なく思ったのでしょう。「この定期預金を使いなさい。介護のお金にとためてきたものだ」と500万円の入った定期預金を差し出しました。
しかし、Aさんは困りました。定期預金を預かっても、満期まではだいぶあります。しかも、父親名義なのです。満期を迎えるころ、父親の心身機能はもっと低下しているかもしれません。委任状を書いてもらえなければ、現金化することが難しいでしょう。
「預り金」なら出金スムーズ
考えたすえ、Aさんは、父親に定期を解約してもらい(たいした利息ではなかったので)、「預り金」にすることにしました。
Aさんが父親の500万円を預かって、代わりにそのお金を管理するという手法です。
Aさんのお金と父親のお金を区別するために、Aさんは新たな口座を作成。父親には、定期預金を解約してもらって、Aさんの作った新たな口座に全額入金してもらいました。父親との間で、そのお金が(父親の介護や看護のためのみに使う)預り金である証拠として「覚書」を交わしました。
これで、Aさんは、父親のためにかかる費用をスムーズに出金することができます。もちろん、明細や領収書は残します。
「預り金」であれば、名義はAさんでも、父親のものですから、贈与税はかかりません。父親が亡くなった時点で残金があれば、相続財産となります。
原則「必要な都度・使い切り」
Aさんの父親は、自身の介護資金を事前に子に預けたのですが、逆パターンもあるかもしれません。
Bさん(50代)の母親は実家で1人暮らしをしています。「別居しており、日々の介護をできないから、せめて介護費用を出してあげたい」との思いから、3年間、母親にかかる介護の費用を負担してきました。しかし、月に1回の往復、介護サービスの費用、宅配弁当の費用と積み重なり、3年間で200万円以上の負担となりました。
そんな折り、Bさんの勤務先の業績が悪化。Bさんは転職しましたが、収入は大幅減に。家族で話し合い、今後は母親本人のお金を介護費用にあてることにしました。姉から、「この3年間にかかった200万円も返してもらえば?」と言われ、Bさんは受け取るかどうか迷っていました。
Bさんのパターンは注意が必要です。
原則、介護にかかる費用や交通費は、実費相当分であれば、もらっても贈与税の対象にはなりません。ただし、贈与税が課されないのは「必要な都度・使い切り」が大原則なのです。つまり、必要なときに、必要な額をもらって使い切るということです。ざっくり200万円を返してもらうと、贈与とみなされる可能性があります(どうしてもというなら、年間110万円の基礎控除内で)。今後は、「必要な都度・使い切り」で受け取ればいいでしょう。スムーズに進めるために、Aさんのように預り金を作るのも一案です。
長寿の時代となり、親の老後と子の老後は同時進行ともいえます。親が100歳になったころ、子の多くも高齢者です。親の介護が始まるころ、自分も75歳を過ぎた“後期高齢者”となり自身に介護が必要になるかもしれません。親の介護費用は、なるべく親本人のお金で。管理するにあたって、贈与とみなされないように注意しましょう。また、きょうだいがいる場合は、「親のお金を好き勝手にしているのでは?」など誤解されかねないので、事前にしっかり相談することも不可欠です。