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Bリーグの決算発表から見る B1・B2全36クラブの明と暗

大島和人スポーツライター
発表に臨む浜武恭生専務理事(左)と大河正明チェアマン(右):筆者撮影

合計売り上げは初年度から30%増

22日、Bリーグは2017-18シーズン(2017年度)のクラブ決算概要を発表した。対象はB1、B2が18ずつの合計36クラブ。収入、費用という“流れ”を見る損益計算書と、資産、負債、純資産などストックを示す貸借対照表(バランスシート)の2種類の概要が公開された。数字の発表にあわせて、大河正明チェアマンがその説明を行っている。

全クラブの合計営業収入はBリーグ初年度(2016-17シーズン)の150億円から、195億円と30.2%の増加を果たしている。営業収入が10億円を超えるクラブも昨年度の「2」から「6」へと増えた。トップチームの人件費も49億円から69億円へと41.8%上昇した。大河チェアマンが「日本人の人件費は30%近い増加。現場のスタッフが増えたり、外国人選手の報酬が日本人以上に上がっている」と説明するように、人材への還元も進んでいる。

営業収入トップ10はこうなっている。

1位 千葉ジェッツ:14億2704万円

2位 シーホース三河:13億4696万円

3位 大阪エヴェッサ:12億4404万円

4位 栃木ブレックス:12億66万円

5位 アルバルク東京:11億6391万円

6位 川崎ブレイブサンダース:11億2367万円

7位 琉球ゴールデンキングス:9億7347万円

8位 サンロッカーズ渋谷:7億8659万円

9位 名古屋ダイヤモンドドルフィンズ:7億2022万円

10位 横浜ビー・コルセアーズ:7億1259万円

(※千円以下は切り捨て)

トップ10のうち7クラブはチャンピオンシップの8強に残っており、収入と結果に強い相関関係があることも分かる。

琉球は「本当に理想的な経営」

スポンサー収入の上位は1位・三河、2位・A東京、5位・川崎、6位・名古屋D、7位・渋谷と旧NBLの企業系クラブが並ぶ。3位・大阪は旧bjリーグ所属だが、ヒューマングループがいわゆる“親会社”として支えている。

一方で大河チェアマンは収入の“中身”について、各クラブの努力を強調していた。

「三河は150社のスポンサーがいて、アルバルクもスポンサー確保に尽力している。親会社が膨らませているのでなく、地元のパートナー企業をしっかり取っている。大阪は400社を超えるパートナー企業を獲得し、数の上では断トツの営業力です」

大河チェアマンが挙げていた“成長株”は千葉、新潟アルビレックスBB、レバンガ北海道の3クラブ。北海道はB1でも2位の入場客を集め、6千万円近い黒字を計上。増資の効果もあり、債務超過の状態からも脱却している。

また大河チェアマンが“お手本”として称賛するのが琉球。大企業の支えがない中で、10億円近い営業収入を上げ、現場の強化も進んでいる。加えて資本が手厚く積まれていて、財務体質も良好だ。

大河チェアマンはこう述べる。

「琉球は純資産を2億400万円持っている。自己資本比率が60%あるけれど、Jリーグを見てもなかなかない。利益を出しながら選手に投資するという、本当に理想的な経営です」

B2は7クラブが債務超過状態

B2のスモールクラブに目をやると、シビアな状況もある。2018-19シーズンから、債務超過状態にあるクラブに対してB1ライセンスが発行されなくなった。上場企業なら話は別だが、債務超過でも資金繰りさえつけば存続は可能だ。ただしそういう状態が健全とは言い難い。

一方でB2には、債務超過状態のクラブが残っている。岩手ビッグブルズ(現B3)、福島ファイヤーボンズ、群馬クレインサンダーズ、金沢武士団、信州ブレイブウォリアーズ、バンビシャス奈良、香川ファイブアローズの7クラブだ。

「3年連続赤字」のクラブにはB1、B2とも原則として翌年のライセンスが発行されない。福島、群馬、金沢、奈良、西宮ストークス、島根スサノオマジックの6クラブが2期連続で赤字を計上している。福島、群馬、金沢、奈良の4クラブは、債務超過でなおかつ2年連続赤字という苦境だ。

B2ライセンスも、2年遅れでB1と同じ運用になる。2020年6月期までに債務超過状態を解消しないと、B2からの退会を強いられることになる。

経営難のクラブを支えるBリーグ

金沢は17年度に1億6360万円と巨額の赤字を計上し、債務超過も2億5千万円超。4クラブの中でも特に厳しい経営状況にある。B2は2017-18シーズンが初年度だったものの、Bリーグ準会員だった2016-17シーズンの赤字もカウントされるため、3期連続赤字の危機にある。

大河チェアマンはこのように言及する。

「担当がかなり頻度高く向き合っています。債務超過(の解消)を睨みつつ、とりあえず今年は黒字にしないといけない。一方で金沢市の近くにアリーナ計画を持っていて、ソフトとハードの一体運営を目指している。誰かが投資をするとか、そういったことが起きないといけない。アリーナの建設計画も合わせて、僕らも金沢のことを自分事化してやっていきたい」

金沢のアリーナ計画については先日こちらで紹介した通りで、コート外も含めて成長の種は撒かれている。ただしクラブの存続に向けて、Bリーグのサポートを得つつ、新たな投資を早期に呼び込む必要がある。

「Bリーグ金沢武士団・中野社長が語る 一石三鳥を目指す画期的な新アリーナ構想」

「喧嘩みたいな状態」から始まるやり取り

もちろん36クラブすべてが順調に経営されることはあり得ない。バスケ界でも旧NBL、旧bjリーグでいくつかのクラブがトップリーグから姿を消した過去がある。しかしJリーグは1998年に起こった横浜フリューゲルス合併(実質的には消滅)の悲劇を最後に、20年に渡って脱退が起こっていない。

大河チェアマンはJリーグが2012年にクラブライセンス制度を実施する前後に、キーマンとして力を尽くした人物だ。彼はBリーグでも経営体質が弱いクラブの“引き上げ”に大きなエネルギーを割いている。今回の会見でも、経営難にあるクラブに対する取り組みをこう述べていた。

「金沢や奈良、香川などに担当を派遣しますが、最初は喧嘩みたいな状態ですよ。だけど長く話をしていると変わるし、別に債務超過が怪しからんと言いに来たわけではないと伝わる。クラブが地域に根付いて、地域の財産になって、さらに成長していくためには、これが足りないと気づいてもらわないと変わらないです。そのために『何しに来た』と言われながら、何回も足を運んで、スタッフと面接しますし、色んなことをやります」

Bリーグがこだわる健全経営

Bリーグの“お手本”とも言えるJリーグは、昨年12月にクラブライセンス制度の運用を変更。3年連続で赤字のクラブに対してライセンスを発行しないという規定を撤廃した。経営者サイドからは、この規定が経営の手足を縛り、投資意欲を弱めるという反発もあったと聞く。

これに対して大河チェアマンはこう強調する。

「3年がいいのかどうかの議論はした方がいいと思います。ただいつまでも赤字でも、債務超過にならなければいいとやってしまうと、これはモラルハザードです」

Jリーグにも相次ぐ増資で、債務超過を逃れているクラブがある。大河チェアマンはそういう有りようについて、厳しく批判する。

「赤字を増資で埋めて、資本金と繰欠(繰越欠損金)がほぼイコールみたいなクラブが、健全かというと健全ではないと思っています。資本金は運転資金に当てるものではなくて、長期的に人に投資するとか、選手の寮を持つとか、グラウンドを整備するとか、そういう長期の固定資産や繰延資産を持つためにあるもの。それを運転資金に使うのは最悪の経営です」

バスケ界の発展に必要なB2クラブの引き上げ

ライセンス制度は「クラブを潰すため」「苦しめるため」のモノではない。例えば3年連続赤字によるライセンス剥奪も、決して杓子定規なものではない。東日本大震災レベルの大きな天災など、不可抗力による赤字は考慮する運用になっている。

B2クラブについては、運用を優しくしている部分もあるという。例えばスポーツクラブにはスポンサー料収入について先払いしてもらって黒字決算を“作る”手法がある。B1のクラブは監査法人によるチェックがあり、そういう手法を認めていない。しかしB2の債務超過状態にあるクラブに対しては、それを容認している。大河チェアマンはこう述べる。

「まずは2020年6月までに、今までのやり方でいいから債務超過を無くして欲しい。その後は会計監査が通る仕組みの中で(そういう運用を)無くしてくださいという二段階です」

B1のビッグクラブは間違いなく盛り上がっていて、収支のバランスも大よそ取れている。そういったクラブがBリーグ全体を引っ張っている現状はポジティブだ。一方で日本全国をバスケで元気にする使命、スポーツ文化の広まりを考えれば、経営難にあるクラブも引き上げていかなければいけない。クラブが仮に破綻すれば、その地域全体に金銭面に止まらない傷を残すし、バスケ界に対する信用も大きく損なわれる。

若く華やかで、新しい取り組みも多いBリーグだが、その裏で泥臭く地道な取り組みも行われている――。そこを強く感じた、今回の決算発表だった。

※決算概要はBリーグのホームページからダウンロードできます。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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