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阪神ボーアが左投手を苦手にしていることは入団前から周知の事実だった

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLB時代から左投手を打てなかったジャスティン・ボーア選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【開幕3連敗の戦犯扱いされたボーア】

 遂にプロ野球が6月19日に2020年シーズンを開幕した。無観客試合という異例の状態での試合となったが、すべてのチームが無事に3連戦を消化することができた。

 ただ6カードのうち巨人と対戦した阪神だけ全敗に終わり、シーズン初勝利を飾ることができなかった。すでにメディアが報じているように、幾度となく得点機に打席が回ってきた新入団のジャスティン・ボーア選手が凡退に終わったのがブレーキになったのは否めない。

 結局ボーア選手は3試合で12打数無安打、2三振に終わり、カード全敗の戦犯扱いを受けている。開幕前は「メジャー通算92発の大砲」や「バースの再来」と騒ぎ立て、周囲の期待値はかなり上がっていただけに、惨憺たるデビューに失望感も大きかったことだろう。

 練習試合で左投手相手に無安打に終わり、開幕カードでも左投手を攻略できず、ボーア選手に対し「左投手を打てない」というレッテルが貼られてしまったようだが、彼の名誉のために言っておくと、ボーア選手はMLB時代から左投手を苦手にしていたのだ。

 それは獲得に乗り出した時点で、阪神も把握していたはずだ。

【対左投手の通算打率は.215】

 現在はMLB公式サイト上で、誰もが選手たちの細かいデータを検索することができる。多少英語を理解できる人なら、日本からでも普通にアクセスできる。つまりボーア選手の入団が決まった段階で、誰でも彼のデータを入手できたはずだ。

 そもそもボーア選手のセールスポイントの1つだった「メジャー通算92発」だが、そのうち左投手から放った本塁打はたった8本でしかない。しかもMLB在籍6年間の通算打率は.253なのだが、左投手に限っては.215しか残していないのだ。

 それを物語るように、ボーア選手は左投手の時は先発から外れることが多かった。MLB時代は446試合に先発出場しているのだが、先発投手が左の時はわずか56試合に留まっている。

 説明するまでもなく、MLB時代も首脳陣からボーア選手は左投手を苦手にしていると判断され、そういう起用法を取られていたのだ。

 だが逆に言えば、MLB時代には左投手と対戦する機会が少なかったといえる。当然のことながら、日本に来てすぐに左投手を克服できるはずもないだろう。

【巨人のシフト守備もデータ通り】

 また開幕カードで巨人は、ボーア選手に対し左投手を多用しただけでなく、極端なシフト守備を採用していた。これも彼のデータを見れば、明らかなことなのだ。

 下記に掲載する表を見てほしい。これもMLB公式サイトで入手できるものだ。2019年のボーア選手に対する相手チームの守備位置を表したものだ。巨人のシフト守備とほぼ同じなのが理解できるだろう。

(出典元:MLB公式サイト)
(出典元:MLB公式サイト)

 巨人がこうしたデータをチェックして、ボーア選手の対策をしっかり練ってきた証拠でもある。

 その一方で、開幕カードで解説者の人たちがボーア選手を「引っ張り中心の打者」と評していたが、これは間違った認識だ。

 次の表を見てほしい。MLB時代にボーア選手が放った全安打の分布図だ。多少本塁打が右翼方向に集中している傾向があるとはいえ、全方向に打ち分けているのが理解できると思う。

(出典元:MLB公式サイト)
(出典元:MLB公式サイト)

 つまり現在のボーア選手は、まだ彼本来のバッティングができていないということではないだろうか。

【バース氏のMLB時代はさらに悲惨な成績】

 勘違いして欲しくないのは、こうしたデータを元にボーア選手が日本で活躍できないと言っているのではない。いきなり選手の能力以上のことを期待するのは酷だと言っているのだ。

 あのバース氏も、来日前のMLB時代の成績は悲惨なものだった、ボーア選手と同じ在籍6年間で、通算打率.212、9本塁打でしかなかった。それでも伝説の外国人選手になれたのだから、ボーア選手だってその可能性はあるはずだ。

 しかも来日1年目のバース氏は阪神在籍6年間で、唯一打率が3割を切っているのだ。やはりバース氏といえども、環境が変わる中で色々適応していくのは簡単ではなかったということだろう。

 開幕してたった3試合だけで、評価を下すのは愚かなことだ。ただ現在のボーア選手が左投手と対戦する経験値を必要としているのだけは間違いない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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