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アフターコロナ時代にフリーランスの働き方はどう変わる?【平田麻莉×倉重公太朗】第3回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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「人生100年時代」と言われるように、労働寿命が長くなっています。その一方、企業としては社員に終身雇用を約束することが難しくなってきました。そこで注目が集まっているのが、副業・兼業人材の活用です。会社の垣根を越えて、フリーランスとチームで仕事をしていくことも増えていくことでしょう。そうなってきたときに問われるのは、「○○会社の○○」という社名や肩書ではなく、「あなたは何者で、何ができるのですか?」ということなのです。

<ポイント>

・アフターコロナでもフリーランスとして働きたいか?

・「あなたは何者で何ができるのか?」が問われる世界になる

・雇用形態にとらわれない働き方を実現するには

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■コロナ禍での意識変容調査を実施

倉重:ウィズコロナ、ポストコロナという意味で、価値観が変わっていかざるを得ないと思うのです。働くことに対しても、いろいろな思いを持っている方が今も非常に多いのではないでしょうか。そんな中で、「これから独立してフリーランスになろうかと思っていたけれども、やっぱり怖いからサラリーマンのままのほうがいいかもしれない」と悩んでいる方もいるはずです。その辺りはどのようにお考えになりますか。

平田:ちょうどコロナ禍での意識変容調査を、フリーランスと会社員それぞれに対して行いました。

倉重:流石!早いですね。

平田:我々はせっかちなので、「非営利団体のくせに、すごくベンチャーっぽいよね」といつも言われます。

調査ではフリーランス1,746名、会社員648名からの回答がありました。

コロナの感染拡大によって87.2%、約9割の方が経済的な影響を受けていらっしゃる一方で、「アフターコロナに向けて、フリーランス、パラレルキャリアとしての働き方を継続したいか」という質問には、85.8%の人が継続したいと答えました。

12.1%は「分からない」で、なんと「継続したくない」という方は2.1%しかいません。

「大変だから会社員に戻りたい」という回答がもっと多いのかなと予想していたのですが、全然そうではなくて、やはり皆さん一時的な問題だと思っていらっしゃるのです。

一方、会社員のほうもほとんどの人が「意識の変化があった」と答えています。

中でも、副業を考えている方が66.0%、フリーランス(個人事業主)化を考えている方が46.4%、起業を考えている方が46.5%もいたのは驚きでした。

今回皮肉にも時間がたっぷりあったので、会社の中での存在意義を考えたり、自分のキャリアの棚卸しをしたりする方が多かったようです。「これからの働き方をどうしようか」と考えたときに、「会社員として雇用されていても安泰ではない」ということを改めて感じた方もいらっしゃると思います。それこそマッチングサイトなどは、登録者がものすごく増えているそうです。

今後の働き方については、フリーランスも会社員も、「時間や空間の制約から解放されるのではないか」と考える方が8割以上いました。

また、「企業の垣根を越えて自在に行き来する働き方が増加していくのではないか」「副業・兼業が一般化するのではないか」「働く目的が多様化して、社会貢献や自己実現の方向に振れていくのではないか」と考えている方も6割ほどいました。

倉重:リアルなデータですね。

平田:ちょっと収入が減ったり、残業や通勤時間が無くなって時間の余裕ができたりしたことで、「副業で補填したい」という意識もあるのだと思います。

倉重:働き方は変わるかもしれないけれども、そこで提供する価値は変わらないということでしょうか。

平田:企業側もテレワークを半強制的に導入させられています。それはフリーランス側からすると取引先の幅が広がるということなのです。これまで「リモートができないから外部人材は使えない」と言っていた企業が、その言い訳をできなくなるというか。

むしろ、「テレワークで働いてくれるのだったら全然OK」となると思います。

今回のコロナをきっかけに、霞が関と永田町全体でも、フリーランスの存在や課題がトップレベルで認識されたので、「ここの議論を加速させなくては」と私も言っていますし、皆さんにも共感して頂いていると感じます。

契約ルールやライフリスクのセーフティーネットなどが整備されていけば、より働き方を選択しやすい世の中になっていくと思います。

■「あなたは何者で何ができるのか」が問われる社会になる

倉重:おっしゃったように、会社員でもテレワークを実践するようになり、「結構いいのではないか」と言う方も見られます。仮に緊急事態宣言が解除になって、「はい、また今までどおり週5日で出勤してください」と言われると、「えっ」と思う人も出てくるのではないでしょうか。

私自身も「週5日も会社に行かなくていいかな」と、ちょっと悩んでいるのですが。

平田:そうですね。多分みんな「えっ」と思いますよね。

企業側の働き方改革と、フリーランスの就業環境の整備の両方が進んでいくと、境界がグラデーションのように曖昧になっていくと思います。

いずれにしても、私は日本の半分以上がフリーランスになるとは1ミリも思っていなくて、「どこかに帰属していたい」とか、「受動的に仕事をしたい」という人のほうがむしろ多いと思っています。会社員側の働き方改革が進んで、雇用システムに守られたまま柔軟な働き方ができるのがベストだと思います。

一人ひとりの働き方ということでは、多分「あなたはフリーランスですか」「会社員ですか」という会話自体がなくなっていくのではないでしょうか。

倉重:そこを聞く意味がなくなるということですね。

平田:会社員であっても、会社の垣根を越えたプロジェクトチームでお仕事をしていくこともありますよね。会社員なのかフリーランスなのかということではなく、「あなたは何者で、何ができるのか」ということが問われる社会になっていくと思います。

倉重:「私はこの会社にいます」ではなくてね。

そういう意味では、「これからフリーランスになる」という目標を立てた人も、やり方は変わるかもしれないけれども、恐れなくていいという話ですね。

平田:そう思います。

倉重:会社員も1社に終身雇用される時代ではなくなってきていますから、ライフステージによって、雇用かフリーランスかを選べるのがベストですね。

平田:おっしゃるとおりです。協会の掲げている「自律的なキャリアを築く」というのは、フリーランスになることでは決してないと思っています。協会の設立当初から言っていることですが、フリーランスだけに有利な社会にしたいとは1ミリも思っていません。

「人生100年時代」と言われるように、労働寿命が長くなっている中で、ライフイベントやキャリアステージに応じて、望ましい働き方は常に可変だと思うのです。

倉重:何がその時最適かは日々刻々と変わりますよね。

平田:一時期フリーランスになって、また会社に戻るなど、行ったり来たりできる選択肢が整備されていること。そのときセーフティーネットや、いろいろなことがポータブルであることがとても大事だと思っています。

■よくある取引上のトラブルとは?

倉重:ライフステージに応じて、適宜働き方を変えていくことが、本当の意味での働き方改革ではないかと思います。それに向けて、今フリーランスに関する議論が始まったと先ほどおっしゃっていましたが、現行法の中で不十分な点がたくさんあるのではないでしょうか。どういうところを変えていったら、あるいはどういう制度をつくっていったら、雇用形態にとらわれない働き方ができると思いますか。

平田:フリーランスの保護や支援に関する議論は実は2017年くらいから始まっていますが、ホットトピックとしては2月の未来投資会議で挙げられた「契約ルール整備」がすごく大事だと思っています。残念ながら、報酬の未払いや、支払い遅延、「言った」「言わない」という取引上のトラブルが絶えません。口約束が横行してしまっていることが問題なのです。そこはしっかりとルール整備をしていただきたいとずっと申し上げていて、お陰様で政府の成長戦略の一つの柱になりました。どこの省庁で、どういう法律やガイドラインでしていくのかは、まだこれからの部分もありますが。

倉重:例えば労基法では「労働条件明示義務」というものがあります。

フリーランスも契約条件を書面で明示することを義務化するということですか?

平田:おっしゃるとおりです。契約条件を明示して、エビデンスを残すことが一番大事だと思っています。

それを下請け法的な枠組みの中でするのか、労基法に準じる形で定めるのか。もしくは業務委託は民法ですから、民法の中で規定するのか、いろいろな選択肢があると思います。

私個人の見解としては、下請法や独禁法などは、「一方が強者で、一方が弱者」と規定しないと適用できません。

しかし資本金が1円でも強い企業は強いですし、個人間の取引もたくさん出てきています。SNSやマッチングプラットフォームを使って、個人で仕事を発注したり、事実上のあっせん行為をしている元締めのような存在がいたりします。

そういう人たちに、きちんと契約条件の明示のような法律を守ってもらおうとすると、どちらが強い弱いとは言えません。

契約条件を明示することは、受注者を守るだけでなく、発注者を守ることにもつながります。

倉重:コミュニケーションを円滑にさせるためにも必要ですね。

平田:エビデンスを残しておくのは双方にとって大事なので、民法などの契約法で規定してもらうのがいいのではないかと個人的には思っています。

倉重:恐らく独禁法や下請法は、製造業をイメージしているので、はなから違うと思います。先ほどの準労働者的な位置付けであれば完全に強弱がついた話になってしまうから、パートナーシップではありません。民法的な一般原則にするのか、あるいはフリーランス基本法的な位置付けにするのかということですね。

あと二つぐらい挙げるとしたら、何かありますか。

平田:立場に強弱があった場合には、きちんと支払いの履行確保や契約条件の変更ルールを定めるなど、下請法が規定しているところも引き続き大事だと思いますけれども。

倉重:団体的に交渉するのは、あまりニーズがないのでしょうか?

平田:フリーランスとしてはあまり聞かないです。一部、Uber Eatsのドライバーさんのような労組設立の動きはありますが。一般的に自身で値決めできるフリーランスは同業者が競争相手でもあるので、協力や情報交換はしつつも、「みんなで価格を決めていこう」というようなことにはなりづらいのではないかなと。

スキルによって値決めするので、「むしろ自由にさせてくれ」という感じのところもあります。自営業者のマインドで言うと、「価格は水物なので、最低報酬でさえ決めてほしくない」という声がすごく多いです。

倉重:「他のところは、こんなに低い額でもしているんです」ということを言われかねないですからね。

平田:発注主側もまだあまりリテラシーがなくて相場が分からないから、最低報酬が決まっていると「取りあえずそれでお願いします」となってしまう懸念もあります。スキルベースでお仕事をしていると、同じ業務でも本当に個人差があるのです。

倉重:できる人にとっては、余計なお世話ということになるかもしれません。

平田:そうなのです。戦略的に最初はすごく低い価格で受けて、徐々に上げていくことも、事業者のクリエーティビティーの範疇(はんちゅう)だと思います。そういうものが損なわれてしまうのではないかという心配もあって、最低報酬を求める声は大きくありません。

倉重:自律した個人による形態なのか、あるいは準労働者的に働くかによっても変わってくるということですね。

平田:おっしゃるとおりです。今のは、あくまで自律した自営業者としての話です。準従属労働者の方たちには労働法に準じた保護の検討が必要だという話は、別の議論としてあると思います。

■雇用の流動性を高めるためには?

倉重:先ほどの話で出たように、働き方改革を推し進めるという意味では、ライフステージに応じて就業形態を自ら選択できたほうがいいと私も常々思っています。そういう意味では、会社員からフリーランスになり、またフリーランスから会社員になるという流動性は、まだそこまで強くありません。これを高めていくためにはどうしたらいいのでしょうか。

平田:雇用形態レベルでの流動性を上げていくことは、まさに私もずっと考えていることです。会社側が柔軟な働き方を進めるのと並行して、フリーランス側のセーフティーネットが整備されていくと、流動性はもっと高まっていくはずです。それは結局、両輪だと思います。

倉重:働き方改革が進んでいけば、両者が接近していくということですね。

平田:そうです。赤に近いピンクか、白に近いピンクかというグラデーションになっていくはずです。

雇用保険の枠組みではカバーしきれない問題も増えてきています。

「雇用されている人の保険」ということではなく、「就業者の保険」という形にする選択肢もあるのではないでしょうか。そうすれば、先ほど言ったような育児休業給付金や介護休業給付金、失業保険や職業訓練給付金などもフリーランスに入ってきます。

倉重:そういう細やかなセーフティネットの制度設計が地味に大事ですね。

平田:雇用形態レベルで流動性が高まることを前提にした制度設計を、ゼロベースで議論をするタイミングにきているのかなと思います。

(つづく)

対談協力:平田麻莉(ひらた まり)

一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事

慶應義塾大学総合政策学部在学中の2004年にPR会社ビルコムの創業期に参画。Fortune 500企業からベンチャーまで、国内外50社以上において広報の戦略・企画・実働を担い、戦略的PR手法の体系化に尽力。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。同大学ビジネス・スクール委員長室で広報・国際連携を担いつつ、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程で学生と職員の二足の草鞋を履く。出産を機に退学、専業主婦を体験。

現在はフリーランスでPRプランニングや出版プロデュースを行う。2017年1月にプロボノの社会活動としてプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会設立。 政府検討会の委員・有識者経験多数。

日本ビジネススクール・ケース・コンペティション(JBCC)発起人、初代実行委員長。パワーママプロジェクト「ワーママ・オブ・ザ・イヤー2015」、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」受賞。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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