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<ガンバ大阪・定期便111>リーダーたちが漂わせた危機感と執着。ガンバは変わる。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
チームで崩し、奪い取った7試合ぶりの先制点だった。写真提供/ガンバ大阪

■リーダーたちが浦和レッズ戦で抱いた『危機感』。

 J1リーグ第31節・京都サンガF.C.戦を迎えるにあたり、今シーズンの主軸として戦ってきたリーダーたちが危機感を募らせていたのは、チームに流れる『雰囲気』についてだった。

「前節・浦和レッズ戦の途中にも僕なりに伝えたつもりですけど、負けている状況なのに覇気がないというか、どうにかしないといけない、という空気にならないというか。先制点を奪われたことで相手の守備がより堅くなったことを考えても、一人一人がそれまで以上にパワーを出さなくちゃいけないのに、どこかぬるいというか、ガッとギアが上がっていく感じがなかったなと。負けてしまったとはいえ、内容はそこまで悪かったとは思わないんですよ。リーグ戦は勝っていない流れがあったので、失点によってどことなく空気が重くなるのもわかります。でもそれを払拭するのはピッチに立つ自分たちに他ならないわけで、今やらなきゃいつやるんだ、っていう…。もちろん、失点のところは僕も含めて反省しなきゃいけないけど、あの空気は絶対に良くない。そこが京都戦に向けて、自分たちが一番、見直すべきところだと思っています(中谷進之介)」

「浦和戦の後半の飲水タイムの時にもシン(中谷)が『これでいいわけないよね!』ってハッパをかけてくれていましたけど、1点取られただけでめちゃめちゃ沈むというか。もちろん、守備を預かる一人として先に失点したことへの反省はありますけど、まだ試合は終わったわけじゃないのに、なんか空気が重い。0-1で負けているんやから、それまで以上に相手にぶつかっていかなアカンのに、貴史(宇佐美)が試合中に声を掛けても誰も反応しない、とか、行くぞ、ってプレーもなかなか見えてこなかったですしね。僕は、結果以上にその空気に危機感を覚えたというか。きっと去年はこれがズルズルと続いてしまったから結果が出なかったんじゃないかとも思う。この状況を断ち切るためにもそこをもう一回、みんながしっかり受け止めなきゃいけない(一森純)」

 そのために、自分たちが先頭に立ってその姿を見せなければいけない、とも言葉を続けていた。

「守備を預かる一人として浦和戦に限らず、ここ最近のリーグ戦は失点から始まっていることや、その最後の最後、際のところで自分が体を張れているかということも、もう一度見直さなきゃいけない。だからこそ、京都戦は、最後のところで体を張るのはお前だぞ、体を投げ出して何がなんでも体にボールをあてるのはお前だぞ、と自分自身にプレッシャーをかけて臨もうと思っています。プレーで檄を飛ばすというか、力を与えるようなプレーをしたいし、全体を引き締めつつ、最後は中谷が止めてるよね、って姿を僕自身が初心に立ち返って示さなきゃいけないと思っています(中谷)」

「勝てていないということは100%じゃ足りないということ。でも、一人一人が持っているパワーを110%、120%にすればその分、チームとしてのパワーも上がるはず。そこは自分にも求めたいと思っています。僕自身、ここまで練習でも試合でもチームにワーワー言い続けてきていますが、そのワーワーに説得力を持たせるには自分自身がしっかりとパフォーマンスで示さなきゃいけない。これをすれば強くなれるだろう、いいチームになるんじゃないかってことは、みんなここまでの戦いでわかっているはず。そのベースにそれぞれが今よりちょっとずつ上乗せするだけで絶対にチームは変わる。積み上げたものが崩れるのは一瞬で、積み上げ続けるのが難しいというのがこの世界ですけど、みんなが力を尽くして積み上げた先にしか勝利はないのでとにかく、その姿を京都戦で表現するだけだと思っています(一森)」

チームに熱を与え続けるガンバのもう1つの柱、中谷進之介。写真提供/ガンバ大阪
チームに熱を与え続けるガンバのもう1つの柱、中谷進之介。写真提供/ガンバ大阪

■山田康太が決めた7試合ぶりの先制点。前半は1-1で折り返す。

 結論から言って、京都戦は彼らが危惧していた嫌な雰囲気を払拭して戦い抜いた試合になったと言っていい。

 立ち上がりの5〜6分こそ、相手にやや気圧された感も否めなかったが、以降は個々が相手の強みである『強度』に対して、しっかり『強度』を示しながら攻守に激しいバトルを繰り広げる。その中で、20分に流れの中から相手の守備を切り崩し7試合ぶりとなる『先制点』を奪い取ったのは山田康太だ。ケガからの復帰後、試合を重ねるごとに本来の輝きを取り戻しつつある彼が、山下諒也の裏への仕掛け、絶妙な浮き球のパスに合わせて滑り込み、ゴールネットを揺らす。

 だが、その直後の27分。高いポジションでビルドアップに加わった一森のパスミスから京都に得点を許し、試合を振り出しに戻されてしまう。

「チームでの戦いを考えると、蹴っておけばよかった、では意味がない。ただ、いろんな選択肢の中からしっかりと判断して選んだ限りは、それをしっかり味方に繋げなければいけなかった(一森)」

 本人は悔しさを滲ませたが、今シーズン、何度も彼にピンチを救われてきたことを思えば、またチームとしての狙いのもとでプレーをしている限りは、1つのミスを責めるべきではないだろう。試合後、この失点について語った黒川圭介の言葉が全てだ。

「純くん(一森)には日頃からずっと助けられてきた。たくさんのミスが起きるサッカーでは、誰だってミスはするし、純くんだって一番リスクがあるポジションだということをわかって、チームのために果敢にチャレンジをしているはず。それを知っているから、純くんがミスをしたからといって誰一人として気持ちが沈むことはなかったし、むしろギアが上がった感じがしたのは、あの失点を純くん一人のせいには絶対にさせないというみんなの思いがあったから。失点する時間までしっかり戦えていたことを考えても、スコアが振り出しに戻っただけで、90分が終わった時には絶対に勝っているのは自分らやと思っていました(黒川)」

 そうした仲間の思いを一森も受け取っていたのだろう。胸の内ではきっとダメージもあったはずだがプレーへの影響は感じられず、以降も積極的にビルドアップに参加しながら、安定したパフォーマンスを展開する。

「チームがいい雰囲気で試合を進めている中、久々にああいうミスをして自分がゲームを壊してしまったという思いもあったので、気持ちを切り替えるのは簡単ではなかったです。でも、とにかく、試合中は『味方の選手がああいう状況に陥った時に自分ならどういうプレーをしてほしいか』を想像してプレーしていました。あそこで自分がビビってしまったらせっかくチームが示している勢いに水を差すと思ったし、仲間が取り返してくれると信じていたので、これまでと変わらずにプレーしよう、と。もちろん試合が終わった今は反省しかないので、次は自分がチームや味方選手を助けられるようにやっていきたいと思います(一森)」

■後半、最終盤で示した意地の同点ゴール。逆転劇は幻に。

 1-1で迎えた後半も、前半と変わらずゲームを支配しながらゴールへの意識を強めたガンバだったが、先に追加点を奪ったのは京都。60分、ハーフウェーライン付近からのロングボールをペナルティエリア内で受けたラファエル・エリアスに福岡将太が体を寄せたものの、振り切られ、左足でゴールネットを揺らされてしまう。

「たら、ればがいっぱい残ったシーン。悔やまれます。もっと内側を切って外でシュート打たせたらよかった。まだまだ、甘いです(福岡)」

 それでも、誰一人として足を止める選手はいない。一人一人が強度を示しながら、矢印を前に向け続ける。その先頭に立ったのはキャプテン、宇佐美だ。攻守に熱のこもったプレーでチームの士気を上げ、ゴールを目指す。

 残念ながら、74分にトラップから素早く右足を振り抜いたシュートは、相手GKのビッグセーブに阻まれたが、足が重くなる終盤に差し掛かっても、キックの精度を際立たせながら攻撃を牽引。事実、86分に中谷が決めた同点ゴールも、彼のフリーキックから生まれたもの。88分にVAR判定の結果、取り消しになった中谷のゴールシーンも、同じく宇佐美のフリーキックが起点になった。

繰り返しゴールに迫ったキャプテン、宇佐美貴史。ゴールこそ奪えなかったが、そのテクニックは異次元だった。写真提供/ガンバ大阪
繰り返しゴールに迫ったキャプテン、宇佐美貴史。ゴールこそ奪えなかったが、そのテクニックは異次元だった。写真提供/ガンバ大阪

「貴史くん(宇佐美)からいいボールがくると思っていました。ファーサイドで武流(岸本)が触ってくれて…相手DFとは逆のことを考えていたというか、足を止めないことを意識していました。今日は素晴らしいGKに何度もいいセーブをされていましたけど、結果的に溢れてくるんじゃないかと予測して、足を止めなかったことがゴールに繋がったんだと思います。ああいうシーンで足を止めないことは…チームとしてもやり続けたい。VARでゴールが取り消されたシーンは…もちろん残念ですけど、あれ以前に自分たちが仕留めるべきチャンスもあったので。実力不足だと受け止めるしかないです(中谷)」

「悔しい、勝ちたかった、に尽きます。前節もそうでしたけど、自分がしっかり決めないといけなかった。シュートシーンは…入っていない=質が足りていないということなので。そこは自分に目を向けるべきだと思いますし、ゴール前でのアイデアを含め、決め切るための工夫は必要だったなと。ただそれを大前提にしながらも、相手のGKがク・ソンユン選手じゃなければインパクト的には3〜4点は決まっていたかなとは思いました。またここ最近は、チームとしても、少し元気がなかったというか。勝っていない流れでは、1つの失点によるダメージが大きくなるのは去年も感じたことですけど、ここ最近はそんな雰囲気もあった中で、今日に関しては2つの失点をくらいながらも、内容とかチームとしての戦いという部分では手応えを得られたし、今後の流れを変えていくようなきっかけになる試合ができたんじゃないかと思う。ただ、勝てていないのも事実なので。これを勝ち切るところまで持っていくにはもう少し力が必要だし、そのためには一番前でプレーしている僕が数字をつけないと、とも思うので。自分がチームに対して何ができるかは、シーズンを通して常に考えていることですけど、チームをいい方向に進めるためのきっかけは絶対的に自分が作らなければいけないとも思うので、そこは継続して自分に求めたいです(宇佐美)」

 さらに、その宇佐美がピッチを退いたアディショナルタイムの戦いも言及したい。中谷の同点ゴール、幻の追加点を追い風にしながらゴールへの姿勢を強める中、90+7分に途中出場の福田湧矢が粘り強くボールを奪ったプレーが起点となって、最終的には左サイドの黒川に繋げたシーンだ。結果的に、黒川のペナルティエリア内への突破が相手選手のハンドを誘い、一旦はレフェリーもPKを示したが、これもVAR判定の結果、PK獲得とはならなかった。

「クロスを上げた瞬間に高く上がっていた相手の手に当たっているのは見えていて、レフェリーのジャッジもあったんですけど、VAR判定で判断が変わってしまった。ただ、それをどうこう言っても判定が変わるわけじゃないので。流れの中で得点を決められなかった、それまで作ったチャンスをゴールに繋げられなかったことにフォーカスして次に向かいたいです(黒川)」

不動の左サイドバックとしてピッチに立ち続ける黒川圭介。終盤まで攻撃力を光らせた。写真提供/ガンバ大阪
不動の左サイドバックとしてピッチに立ち続ける黒川圭介。終盤まで攻撃力を光らせた。写真提供/ガンバ大阪

■ピッチで示したそれぞれの執着を『きっかけ』に。

 結果、またしても勝利は掴めず2-2の引き分けに終わったものの、88分の中谷の幻のゴールも、最後まで示し続けた球際への執着も、黒川の執念の突破も、その瞬間に湧き上がった歓喜も全てが宇佐美の言葉にある『きっかけ』になったと言い切れる。実際、現状に危機感を口にしていた二人も、試合後、一定の手応えを口にした。

「逆転できそうなシーン、チャンスでそれを確実に結果に繋げないと、こういう結果になってしまうんだなというのは反省点。ただ今日に関しては、スタジアムの雰囲気というか…京都サポーターを含め、ガンバサポーターもスタジアムの半分近く入ってくれていて、僕らをものすごく後押ししてくれて、自分たちにも火がついたというか。ここ数試合、少しアグレッシブさに欠けていたところも今日はしっかり出せて、本当に全員で戦えた。観ている人たちにもしっかりと熱さを届けられた試合になったと思う。こういう戦いを続けていけば、必ず結果は掴めると確信を持てた試合でもあったので、それを次は、ホームでちゃんと勝利に結実させたいです(中谷)」

「改めてメンタリティは大事だと感じた試合。みんなの強い気持ちがしっかりピッチで表現できれば、こういう戦いができるということを今日の試合で確信しました。あとはこれを続けながら、勝ちに持っていくだけ。1つ、示せてよかった、ではなく、大事なのは続けていくこと。今日の試合をきっかけにまた浮上していくためにも次のヴェルディ戦は絶対に勝たなくちゃいけないと思っています(一森)」

 またこの試合でJ1リーグ初先発となった美藤倫が示した存在感も特筆すべきだろう。ピッチを退く82分まで光らせ続けた球際での強さ、ボール奪取力といった持ち味は、この先、終盤戦を戦う上でも大きな財産になったと言える。

「サンガは中学時代にお世話になったチーム。ユースチームに昇格できずに初めて挫折を経験したし、大学卒業後プロになるにあたっても声を掛けてもらっていた中でガンバに行くという決断をした経緯もあったので。高校時代からずっと見返してやるんだという気持ちでいたし、だからこそ、絶対に自分の強みで勝負しようと思っていました。チャンスをもらった以上、スタートから全てを出し切って、足をつるまでやりきろうという思いもありました。自分が交代した時点では1-2で、チームに結果をつけるという貢献はできなかったし、自分にも得点チャンスがあったのに決め切れなかったのは悔しさしかないです。ただ、こうしてチャンスをもらって持ち味を出せたことはポジティブに捉えたいと思います(美藤)」

前節・浦和戦でも好パフォーマンスを示した美藤倫はリーグ戦初先発。古巣相手に攻守に躍動した。写真提供/ガンバ大阪
前節・浦和戦でも好パフォーマンスを示した美藤倫はリーグ戦初先発。古巣相手に攻守に躍動した。写真提供/ガンバ大阪

 昨シーズン、ガンバはJ1リーグ第25節・サガン鳥栖戦から最終節までの10試合を一度も勝つことができずにシーズンを終えた。結果は9勝7分18敗の16位。レギュレーション上、降格チームが1チームしかなかったことで降格を免れたが、J2降格となった最下位・横浜FCとの勝ち点差はわずかに5。残留争いから抜け出せないまま最終節を終えるという苦しみ抜いたシーズンだった。

 それに対して今シーズンは、現時点で13勝10分7敗。すでに昨シーズンの勝利数を上回り、順位も5位につけているものの、当然ながら今の『7戦勝ちなし』の状況に危機感を抱いていない選手はいない。それはこれ以上、上位陣に引き離されたくないという思いと、今シーズンの始めに誓った「強いガンバを取り戻す」という決意があればこそだ。

 そして彼らは今、その戦いに愚直に向き合っている。

「チームが良くない方向に進みそうになった時こそ、僕一人で動くのではなく、しっかりと副キャプテン二人とも考えを共有しながら周りを巻き込んで、軌道修正をするためのアクションを起こしていきたい(宇佐美)」

 シーズン前にキャプテンが口にした言葉に嘘はなく、彼を支える選手たちもまた、そのアクションを起こし続けている。厳しい言葉を敢えてチームに向けるのも、その責任ゆえだ。と同時に、自身の言葉に責任を持つために、自分にも厳しい目を向け、それを力に変えている。中堅、若手選手もそこに追随しながら『自分』を目一杯に表現し続けている。そして、サポーター。この日もサンガスタジアムの半分近いエリアを埋め尽くし、最大限の熱量で背中を押してくれた彼らもまた、チームの一員としての戦いを続けている。

 あとはこれを全員で勝ちに繋げるだけ。

 ガンバは変わる。彼らの言動に嘘はない。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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