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【画像検証】ロシア軍が北朝鮮製KN-23弾道ミサイルをウクライナで使用、ハルキウで残骸を回収

JSF軍事/生き物ライター
ハルキウ地方検察庁が発表した「調査中の弾道ミサイル」は右側。ロケットモーター底部

 1月4日、アメリカ政府は「ロシアが北朝鮮製の弾道ミサイルを2023年12月30日および2024年1月2日にウクライナで使用した」と発表しました。その説明図にはミサイルの機種名は書かれていませんでしたが、北朝鮮のKN-23の写真が掲載されていました。

アメリカ政府の発表より「ロシア軍が北朝鮮製の道ミサイルをウクライナで使用」
アメリカ政府の発表より「ロシア軍が北朝鮮製の道ミサイルをウクライナで使用」

北朝鮮KN-23弾道ミサイル(2023年3月27日の発射訓練、翌28日公表の朝鮮中央通信より)
北朝鮮KN-23弾道ミサイル(2023年3月27日の発射訓練、翌28日公表の朝鮮中央通信より)

 国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は、少なくとも1発の北朝鮮製の弾道ミサイルがロシア領から460km飛行してウクライナのザポリージャに着弾したのを確認、同ミサイルは最大射程900kmだと説明しています。

形状が酷似するイスカンデルMとKN-23の異なる部分

  • ロシア製:イスカンデルM(ミサイル名:9M723)
  • 北朝鮮製:KN-23(正式名称:火星-11가)※KNは米側の分類番号

 北朝鮮のKN-23はロシアのイスカンデルMとミサイル形状が酷似しており、発射方式(説明)も同じです。ただしKN-23はミサイルの大きさがイスカンデルMよりも一回り大きいと推測されており、イスカンデルMの発射機からはKN-23は撃てない可能性が高く、ロシアは北朝鮮からKN-23を発射機ごと提供を受けたものと見られます。

Preliminary Analysis: KN-23 SRBM : Jeffrey Lewis

ジェフリー・ルイス教授のレポートより引用、イスカンデルMとKN-23の最後部の違い
ジェフリー・ルイス教授のレポートより引用、イスカンデルMとKN-23の最後部の違い

 KN-23とイスカンデルMは形状が似ていますが細部で異なる点があります。アメリカのミドルベリー国際大学院モントレー校ジェームズ・マーティン不拡散研究センター長を務めるジェフリー・ルイス教授は幾つかの点を指摘しています。

 ミサイルの最後部の比較で、左がイスカンデルMで右がKN-23です。ジェットベーンのアクチュエーターの構造が異なるのと、基部の外周に幾つかの小さな円形の部品を持つイスカンデルMと、小さな円形の部品は付いていない滑らかなKN-23の違いです。

イスカンデル用デコイ弾9B899(9Б899)の放出孔

 イスカンデルMの最後部の小さな円形の部品は専用のデコイ弾「9B899」の放出孔だと推定されています。9B899は囮熱源と電子妨害の小さなデコイ弾で、ロシア-ウクライナ戦争が始まった2022年に戦場で初めて発見されました。

 このような防空網突破支援用の機材は大陸間弾道ミサイルが宇宙空間でバルーン・デコイ(アルミ蒸着の風船でレーダーを欺瞞)を放出するのは一般的ですが、短距離弾道ミサイルが装備するのは異例でイスカンデルMがおそらく世界初です。そして北朝鮮はこの特殊な装備までは模倣できなかったと見られます。

ハルキウ地方検察庁:「調査中の弾道ミサイル」写真

 そしてウクライナのハルキウ地方検察庁が1月2日の攻撃でロシア軍によって使用された弾道ミサイルの残骸の写真を報告しています。検察官、警察捜査官、SBU(諜報組織)、ウクライナ空軍の科学センター職員が調査しています。現時点ではまだウクライナ当局から公式発表は出ていませんが、公開された写真の特徴から北朝鮮製のKN-23である可能性が非常に高いと言えます。

最後部のジェットベーンのアクチュエーター:KN-23と一致

ハルキウ地方検察庁より調査中の弾道ミサイル:ジェットベーンのアクチュエーターを外す
ハルキウ地方検察庁より調査中の弾道ミサイル:ジェットベーンのアクチュエーターを外す

※ジェットベーン(推力偏向板)の板の部分は消失

ハルキウ地方検察庁より調査中の弾道ミサイル:ジェットベーンのアクチュエーター
ハルキウ地方検察庁より調査中の弾道ミサイル:ジェットベーンのアクチュエーター

※14番の部品は同じ物。ジェットベーンのアクチュエーター

ハルキウ地方検察庁より調査中の弾道ミサイル:ジェットベーンのアクチュエーター
ハルキウ地方検察庁より調査中の弾道ミサイル:ジェットベーンのアクチュエーター

※デコイ弾「9B899」の放出孔は無い

ハルキウ地方検察庁より調査中の弾道ミサイル:ジェットベーンのアクチュエーターを外した
ハルキウ地方検察庁より調査中の弾道ミサイル:ジェットベーンのアクチュエーターを外した

※比較用、イスカンデルMの最後部

ロシア国防省の動画より、クレーンで装填中のイスカンデルMの最後部
ロシア国防省の動画より、クレーンで装填中のイスカンデルMの最後部

 2024年1月2日にロシアからのハルキウ攻撃で使用された「調査中の弾道ミサイル」の最後部を見ると、ジェットベーンのアクチュエーターの部品はイスカンデルMとは似ておらずKN-23の特徴と一致します。また9B899デコイ弾用の放出孔も無いので、イスカンデルMではありません。

ロケットモーターケースの底板とノズルの比較:KN-23と一致

左:イスカンデルM(2022年10月ザポリージャ)、右:調査中の弾道ミサイル(2024年1月ハルキウ)
左:イスカンデルM(2022年10月ザポリージャ)、右:調査中の弾道ミサイル(2024年1月ハルキウ)
  • 上写真の左側のミサイルは「9М723」と書かれてあるのでイスカンデルMで確定済み。写真出典:2022年10月5日、ザポリージャ地方州行政府
  • 上写真の右側のミサイルは2024年1月2日ハルキウ攻撃の「調査中の弾道ミサイル」

 イスカンデルMはロケットモーターケースの底板のノズルの根元付近にボルトは無く、KN-23はノズルの根本付近にボルトがあります。2024年1月2日のロシア軍の攻撃で使用された調査中のミサイルの残骸は、KN-23の特徴と一致しています。

ロケットモーターケースの上部の天板の比較:KN-23と一致

 ロケットモーターケースの天板の構造について、2024年1月2日のロシア軍の攻撃で使用された「調査中の弾道ミサイル」の残骸は、天板の中央付近のボルト数は20個でKN-23の特徴と一致しています。ただしまだイスカンデルMのロケットモーターケースの方は天板の構造は確認できていません。

KN-23と「調査中の弾道ミサイル」の一致点まとめ

  • ジェットベーンのアクチュエーターの部品
  • イスカンデル用デコイ弾9B899の放出孔が無い
  • ロケットモーターケースの底板とノズルの構造
  • ロケットモーターケースの天板の構造

 ウクライナのハルキウで回収された「調査中の弾道ミサイル」は、ロシア軍が使用した北朝鮮製のKN-23である可能性が非常に高いと言えます。

※2024年1月7日追記:北朝鮮KN-23弾道ミサイルの直径はイスカンデルMより直径が大きい、電気配線に電磁シールド無し?

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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