環境・気候ネタは読まれにくいジレンマ、北欧ノルウェーのメディアが今考えること
ノルウェーの首都オスロで「気候ジャーナリズム」カンファレンスが開催された。気候危機におけるジャーナリズムの変化を議論するこの会議は、ノルウェーのメディア向けに開催された。新型コロナの影響で一部の参加者のみ会場に訪れ、多くはオンラインで視聴した。
コロナの影響で気候ニュースは減少傾向
メディアと気候変動オブザーバトリー(Media and Climate Change Observatory)の調査によると、2019年8月と比較して、2020年8月の54か国では気候変動に関するニュースは新聞、ラジオ、テレビでは45%減少した。2020年10月も1年前の10月と比較すると30%減となる。
それでも「コロナ渦に気候ジャーナリズムを埋まらせないぞ」という気合が会場からは伝わってきた。
話題となった報道機関が抱える課題
- 環境や気候に関するニュースは「危機」ばかりに焦点があてられがちで、「解決策」を提示・模索するニュースが少ない
- 全体的にタブロイド化する傾向があり、クリック数優先の記事が多い
- 気候危機に関しては「私がこんなことをしても意味がない」と読者が考えがち。報道側は脳科学と心理学もより理解する必要がある
気候ニュースは個人的な体験重視でいいのか?
環境や気候危機のニュースに関しては特定の人のエピソードが記事の内容になりがちだ。「それでいいのか?」という疑問もあげられたが、ダーグブラーデ紙のGeir Ramnefjell政治編集長はそれでいいと答える。「私たちは個人の話と深いつながりをもつ世界に生きている。個人の話が欠けていると、その記事はとても自分とはなんだか遠いもののように感じてしまうでしょう」。
気候ニュースはクリックされないというジレンマ
気候危機のニュースはネットではそもそもあまりクリックされない。それなのに、記事をつくるために膨大な取材と費用がかかる。どのメディアも感じているジレンマであり、これは北欧メディアが集まる場では必ずと言っていいほど話題になることだ。
「気候は自分事として感じられないから読まれない」は、以前はメディアでは共通認識だったが、それはもう過去の話だという指摘もあった。災害や現象が増えており、気候危機が起きていることは明白だと実感する人が増えてきているからだ。
どういう書き手でありたいかをはっきりとさせる
「どういうジャーナリストでありたいか、私はどういうジャーナリズムをつくっていきたいか。どのメディア媒体で働いているかでもカバーできることは変わるだろう。関連性、ローカル重視、ヴィジュアル重視、解決策提案型のニュースにしていくほか、関係者は自分の役割をじっくり考える必要がある」と語るのはジャーナリストのIngerid Salvesenさんだ。
- 「今人々が気にしていることを書くか?これから人々が気にするべきであろうことをも書くか?社会の変化の一部でありたいか?」
- 「起きたことだけ、真実だけを広めたいか?希望を広めたいか?」
「気候・環境を今まで以上に伝えることは大事だが、これまでとは違う手法で伝えることはもっと重要になる。気候危機は起きている。では個人、社会やそれぞれのグループにそれは何を意味するのか?誰に責任があるのか?」とSalvesenさんは続けた。
「気候危機・環境」専門グループを立ち上げる動き
ノルウェーやスウェーデンの大手メディアでは公共局や新聞社などで専門知識を集合させた「気候編集部」をつくる動きが出始めている。複雑なテーマだからこそ専門グループを立ち上げる必要性があるのだ。同時に、気候問題はどのテーマとも関連しているため、他の分野の記者とも協力して記事をつくることで、読まれる確率を高めることができるだろうとも話し合われた。ノルウェーでは大学生向けの新聞Universitasにも気候編集長がおり、学生から需要が高いテーマとなっているそうだ。
脳科学や心理学を理解する必要性も
「気候や環境のためには、自分たちの慣れ親しんだ便利な暮らしを変えないといけない」側面がある。この心理は政治においても人々を分断させる原因のひとつだ。だからこそ心理学や脳科学をより理解する必要があるとも指摘された。
Photo&Text: Asaki Abumi