オニャンコポン、スモモモモモモモモ、ウマピョイ…クセの強い馬名に隠された意味
名付けは競走馬オーナーが最も主導でできること
高額で知られる競走馬のオーナーになったら、ゲームのように全て自分の判断で好き放題に馬を育成できるのか、といえば答えは「NO」だ。馬主が主導で出来ることといえば、
・馬を買う
・厩舎を決める
・名前を決める
の3つだ。馬の育成や調教は常に現場と相談していかなければならない。そして何より、当の愛馬は自分の指示など理解すらしないし、勝負は時の運である。
では、この3つも思い通りにいくのかといえば、なかなか難しい。馬の購入は近年、セリの落札価格がかなり高騰しており従来の予算では希望する馬が買えなくなっている。レースに出走させるためにはJRAなら美浦・栗東の調教師に厩舎に入れなければならないが人気厩舎は予約でいっぱいだ。
というわけで、競走馬のオーナーになったとき、最も自分主導で事を進めやすいのは愛馬の名付けだと言える。
オーナーの馬の名付けに対する姿勢は実に様々だ。
先日、筆者の記事で紹介させていただいたが、京成杯を優勝したオニャンコポン(牡3、美浦・小島厩舎)の馬名の由来は「アカン語で"偉大な者"」とされているが、実際はその名の耳ざわりの良さであったり、「スタートをポンと出て欲しい」という具体的な願いであったり、「日本は猫好きの方が多いから」とか、多くの人に親しまれて欲しい等を総合して決められたことがオーナーによって明かされている。
■過去記事
JRA重賞勝ちのオニャンコポン。天空神、猫、おニャン子クラブ…馬名にこめられた意図をオーナーに聞く
南関東の地方競馬を主戦場としているスモモモモモモモモ(牝4、小林・櫻木厩舎)は、オーナーである井上久光氏は「長くファンに親しまれて欲しい」という願いをこめ、有名な早口言葉であり言葉遊びの要素もある「すもももももももものうち」も連想させせる「スモモモモモモモモ」と名付けている。
こういった馬名は単にインパクトだけではなく、やはり「ファンに親しまれて欲しい」というオーナーの思いがファンに届いているのだな、と改めて思った。
2歳牝馬・ウマピョイ号の名づけの理由
JRAの栗東トレセンに入厩が予定されている2歳の牝馬に「ウマピョイ」という馬がいる。「ウマピョイ」というフレーズは、アプリゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」(Cygames)のイメージソングである「うまぴょい伝説」を連想させる。しかし、ウマピョイ(牝2、父・ゴールドアクター、母・サニツ)のオーナーである大田恭充氏は「ゲームは大好きだが、ウマ娘はプレイしていない」という。
「僕は馬の名前をつけるとき、もちろん自分でも考えますが、人に相談することもあります。この馬の場合は牝馬だし可愛らしい名前をつけたいとイメージしていました。すると、知人から『プリティーダービー』はどうだろうか、と勧められたのでそれで申請したところ、通りませんでした。次に『ウマピョイ』を勧められたので、可愛らしい響きなので気に入って申請したところ、無事通った次第です。」(大田氏)
実は、馬名の名付けを家族や仲間、自らが経営する会社の社員に馬名を募集して一緒に考えるといったようにコミュニケーションのひとつとして活用しているケースは少なくない。中には、マスコミやSNSを通じて馬名を公募されることもある。
"シゲル"の冠名で知られる森中蕃(しげる)オーナーは昨年、2022年デビューの競走馬の一部を報知新聞を通じて公募している。SNSでは実際に採用された方が喜ぶ様子がみられており、新しいかたちの馬主とファンのコミュニケーションが成立している。
トレンド系、ほんわか系、楽曲系など…珍名馬の数々
変わった馬名は"珍名馬"と総称されることがある。珍名馬の研究をしているライターの音越英太さんに話を聞いた。
「変わった名前といえば小田切有一オーナーの愛馬は欠かせません。モチは正月競馬に出走し、実況アナウンサーはここぞとばかりに『モチが粘る!粘る!』というフレーズを絶叫していましたね。品があってホンワカした名が多くモグモグパクパク、ビックリシタナモー、などがいますね。僕は南関東で走っていたボクニモユメハアルが好きです。
次に歌詞を用いた名付けもあります。ママママカロニはPerfumeの楽曲『マカロニ』の歌詞のフレーズです。
そしてトレンド系。週刊文春でベッキーの不倫騒動が騒がれていたとき、センテンスプリングという馬が走っていましたが、明らかに『センテンススプリング』のもじりかと思われます。
こういった珍名馬が登場増えて競馬が盛り上がるなら凄くいいことですよね。」
筆者もかつてラジオ番組の構成を手伝っていたときにカミサンコワイという馬名の名付けに関わったことがある。ニッポン放送のラジオ番組『山田邦子ワンダフルモーニング』という番組で出演者の林家たい平氏が恐妻家ということにちなみ、小田切有一氏にお願いしてこの名をつけていただいた。カミサンコワイは美浦・本間厩舎でデビューし3戦したが勝てないまま競走馬を引退したが、その名は忘れられない。
クセの強い馬名の由来はさまざまだが、どれも馬主主導で"親しまれて欲しい"という願いが込められているように感じる。日本の場合、名付けはカナ9文字以内というルールがある。その短いフレーズにこめられた愛情を感じながら、日々の競馬に勤しみたい。