【現地ルポ】コロナ禍の韓国のいま。日本よりも雰囲気は「厳格」、しかし「悲痛」ばかりではなく。
2月26日夜のインチョン空港はこれまで見たことがないくらいガラガラだった。
21時30分着後の入国審査も一切並ばず。以前の韓国旅行ブームの際には「フライト時間と同じくらい入国審査の待ち時間がかかる」ということすらあったのだが。中国人も日本人も、いない。
2月7日に別件の取材で入国した際にはそんなことはなかった。夜遅くの到着便は仁川空港の外貨両替窓口が一部閉まるため、空いている窓口に列ができるほどだった。海外からの観光客が、確かにいた。韓国での感染の分岐点は2月19日からだ。韓国政府も「非常事態」と宣言した。「ビフォー・アフター」と言えるほどの変化があった。
ガラガラの出国手続き後、空港でWifiルーターをレンタルした際に受付の女性から聞かれた。
「今日は日本からのフライトが全般的に遅れているようですね」
こう返した。
「よく分からないけど……むしろ、人が少ないことにびっくりですよ」
この女性の話にもびっくりした。人が少ないことより、そちらに反応するとは。現場からするとここ数日の空港利用者が激減した風景にも慣れきったということか。29日時点で世界の71カ国が韓国からの渡航を制限しているから、人の往来が大きく減るのは当然だ。
生活の中から聞こえてくる韓国語を切り取ります
【韓国のいま】をここの場で描く。
”韓国がコロナウィルス禍のなか、どんな雰囲気でひとびとが暮らしているのか”
本来はここで大きな感染源となっている宗教団体「新天地」の取材で来た。韓国に来る前に「週刊文春」でまあ強いタイトルで一本記事になったが、その後渡韓し日本との関わりを調査している。帰国後、必ず検査を受けます。東京の自宅で一定時期外出を控えます。
韓国・新型コロナを拡大させた宗教団体 世論の怒りを買った「隠蔽工作」がひどすぎた/リンクは後日オンラインに記事が上がったものです
とはいえ、宗教団体の取材ばかり24時間やっているわけではなく。
出張中とはいえ、ここで生活を送っている。その様子も描きたい。
「なんでもかんでも外国のやりかたを見倣おう」という話ではない。決して専門外の話をするつもりもなく。治療法や予防法については専門家の話をご参考に。ただひたすらに、ここで見えるもの、聞こえてくる韓国語を切り取って伝えます。
地下鉄でもコロナ関連のアナウンス「マスクを着用してください」
空港を出て、電車に乗ると日本より少し強い”プレッシャー”がある。
地下鉄構内で新型肺炎関連のアナウンスが流れるのだ。
翌日に筆者撮影
「気をつけましょう」ということではなく、マスクの着用を促し、くしゃみの際のエチケットまで説明される。これは2月上旬の来韓時でも同じだった。「マスクをしていない」ことへの目線も日本より厳しい印象だ。
2月9日にソウル市内の電気機器専門店街ヨンサンで買い物をした際にはこんなことがあった。財布から支払いのためのカードを取り出した。マスクを着用したまま下を向くと少し息苦しい。だから一瞬だけ外したところ、男性店員からはっきりと言われた。
「マスクをしてください」
じつはその時は「ちょっと細かすぎでしょ?」と不満に思ったものだが。
今回は厳格にいこう。そう思った。空港のあまりにもガランとした風景で、状況のシビアさを思い知ったからだ。
初日は宿のあるホンデ駅で降り、ちらっと街なかを眺めた。芸術系の学部が強い大学にあって、その周辺は若者の文化の発祥の地にもなっている。さらに緊張感が高まった。平日とはいえ、あまりに人がおらず……。
プロバスケットの無観客試合を取材。この時世ならではの挨拶が
翌5日は、朝から光化門に向かった。出勤する会社員が揃ってマスクをしている姿を撮影したかった。ここには新聞社、市役所など多くのオフィスが立ち並ぶ。
しかし撮れなかった。人がいない。
そりゃそうだ。韓国政府は26日に在宅勤務とイベント開催禁止の勧告を出した。ちなみに後者に関しては各自治体に禁止要求を出す権限も与えた。人と人が会うことに敏感になっている。
とはいえ、だ。せっかくこの場所に出てきた。近くのオフィスに勤める友人にコンタクトを取ってみた。「午後、お茶でもどうかと」。以前にも平日に上司に申し出て少し長い休憩を取て、じっくりと茶飲み話をしたことがあったからだ。
「いいよ。何時でもいいから、近くに着いたら連絡くれ」
「じゃあ、明洞の写真を撮っていくから、14時半でどうだ」
「わかった。テキトーでいいから」
なんだ? やけに緩いな、と思ったら、こういう事情なのだという。
「会社が在宅勤務なんだが、どうしてもやらないといけないことがあって出社した」
政府の勧告とて、ガチガチのものではない。カフェで待ち合わせすると、彼の同僚たちも致し方なく会社に来る仕事があったのか、長めのティータイムを取っていた。会社員にとっては「少し緩く、働く時間」でもあるように感じた。日本から来た、と紹介されると「こんなときに??」と驚かれたが。
少し暖かくなってきた午後、ゆっくりと会話をした。日本は、で政府の発表に大きな反論も巻き起こっている点などを話題にした。この返事が印象的だった。
「そうか。韓国では、今、中国人の入国禁止について大きく世論が割れている。いわゆる左右の対立。中国人の入国を禁止を強く求める右派。反対する左派。大統領は後者で。さあ、はたしてどうなるのか。こういう時に揉めてどうするんだって。打ち出す方針に反対されるリーダーの存在感も問題だけど」
政権の中国人入国に関する方針を強く批判する保守系の「東亜日報」
1時間以上話し込んだ後、蚕室へと向かった。無観客で行われるプロバスケットのソウルSKー釜山KT戦を取材するためだ。当日にバタバタと取材を申請した。「韓国の事情を日本に紹介したい」と伝えると、快く、迅速にスムーズに取材の許可をくれた。
会場入場時の綿密な検査の様子や、選手の心情はこちらに記した。
スポーツ界を襲ったコロナウイルス。 日韓の政府、連盟の対応を徹底比較!
記者席ではよく見た顔も何人か目にした。「おお!」と歩み寄って、握手でもしようとしたが……「今はそういう時世じゃない」と言われた。かわりに野球のホームランを打った後みたいに、お尻同士ををぶつけて挨拶した。前回の滞在時、2月9日日曜日に別の場所で草サッカーをした際に、旧知の友人に同じリアクションをされたことがあった。握手であっても、接触を徹底的に避ける。これは日本よりも厳格だった。いっぽうでちょっとした冗談は少しばかりホッとするところもあった。
いっぽうソウルの勝利で終わった試合後、暗い照明の体育館内のトイレに行くと……
場内を消毒をするスタッフに出くわした。
ハッとした。少しホラー。そして先週の日本では消毒をして歩く、という風景は見なかったなと。
思えば昼に街なかを歩いていても、原チャリで大胆に消毒液を撒くおじさんを見た。
日本より厳格な雰囲気があるのはたしか。しかし完全にふさぎ込んでいるということはない。確かにそこに人はいて、しっかりと生活している。日本から移った直後、取材初日にはそう感じたのだった。
【週末の日本で「急な休校処置」が大きな話題になっている点をソウルでも確認しました。2学期制で本来は2月上旬に冬休みが終わり、3月に新年度が始まる韓国は「冬休みが延長中」という状況です。時間をつくって「休校中が長引いている家庭はどう過ごしているのか」を取材します】