保育園・幼稚園の蔵書数・予算は小中学校の10%未満! 初調査でわかった乳幼児の絵本環境をめぐる大問題
幼稚園や保育園にある本の数は小中学校の20分の1、予算は1施設あたり10分の1。
1施設あたりの子どもの人数は幼保の方が少ないが、子ども一人あたりの年間予算に直しても3分の1弱しかない――。
そんな驚きの事実が、東大Cedep(東京大学 発達保育実践政策学センター)とポプラ社による初の共同調査でわかった。
保育・幼児教育需要が高まり、かつてよりも児童数・時間数ともにこうした施設の利用が増加傾向であるにもかかわらず、その絵本・本環境はまったく充分なものとは言えない。はたしてこのような状況を放置しておいて良いのだろうか?
■そもそもどんな調査なのか? 何が画期なのか?
実は、保育・幼児教育施設における絵本・本環境の実態(蔵書数はどれくらいなのか、年間予算は? 等々)については全国調査に基づく実証データがこれまで存在していなかった。
小中高校の図書館に関しては全国学校図書館協議会によって長年にわたる定期的な調査があるにもかかわらず、学校図書館法の外部に位置する存在であるためか、幼保施設の図書環境は全国的な定量調査が行われてこなかったのだ。
それが2019年10月上旬~10月31日にかけてポプラ社が保育・幼児教育施設33,566園(施設)に対して、DMにアンケートを同封し、計1,042園から回収(回収率3.1%)することができた。回収率が低いため、あくまで参考程度に捉えるべきではあるが、それでも驚きの結果となっている。
以下では発達保育実践政策学センター・特任助教である高橋翠氏による「全国保育・幼児教育施設の絵本・本環境実態調査の結果と今後の研究計画について」を参照しながら、筆者なりにポイントを整理していきたい。
■小中学校と比べて冊数・予算が少ない
まず資料から3点グラフを抜き出してみたい。
冒頭で述べたとおり、この調査結果を見ると、幼稚園や保育園にある本の数は小中学校の20分の1、予算は1施設あたり10分の1。
たとえば予算は小学校では平均49.8万円、中学校では58.7万円2019年度学校図書館調査報告(全国SLA研究調査部)なのに対して、幼保施設では1万円~5万円がもっとも多い結果となっている。仮に5万円だとしても10分の1、1万円なら50分の1だ。
1施設あたりの子ども人数は幼保の方が少ないが、それを子ども一人あたりの年間予算に直しても3分の1弱しかない。
先にも述べたとおり、幼保施設には学校図書館法が適用されない。学校図書館法では、すべての小中高校に図書館設置義務を課しており、すべての学校図書館は、文科省が定めた「学校図書館標準」という目標とすべき蔵書数をクリアする努力をしなければならない。
予算の都合からこの学校図書館標準は多くの学校でまったく達成できていない状況が長年にわたり続いているのだが、幼保施設の蔵書数はその惨憺たる小中の蔵書数と比べても20分の1しかないのだ。
そして、子ども子育て関連三法には幼保施設の図書環境についての規定はない。もっとも、現状の施設を前提にすると新規に図書室を作ることなどを法的に定めるのは現実的とは思えないが、それにしても少ない。
近年では、International Literacy Associationなどにより、絵本・本へのアクセス、読む本を選ぶこと、読むために支援を受けることを基本的人権として捉えようとする運動が行われ、そこでは、教育・発達に対する意義に加えて読むことそれ自体を楽しむことの重要性も明記されている。こうした国際的な教育の潮流を踏まえると、日本ももっと幼保の絵本・本環境充実に目を向けた方がいいように思われる。
■絵本購入のための補助金を提供している自治体は少ない
この調査によると、施設による格差が大きく、新設園・小規模園では蔵書数が少ないこと、市町村・都道府県に「絵本」を購入するための補助金等は幼稚園では22.9%だが、認可保育所は6.8%、認定こども園では9.0%しかないこともわかっている。
2001年末に制定された「子どもの読書推進に関する法律」(子ども読書推進法)によって、各自治体は読書推進計画を策定しなければならくなった。その後押しもあって、0歳児とその親にファーストブックを寄贈し、親子での本を通じた触れ合いの機会を提供するブックスタートは全自治体の約60%で採用され(NPOブックスタート調べ)、また、小学校では「朝の読書」が全国80%で実施されている(朝の読書推進協議会調べ)。
ところが、乳児と小学生の「あいだ」に位置する幼保の図書環境の実態を把握し、エビデンスに基づき施策を策定する、読書推進計画に組み込むことは、意外な「盲点」になっていたことが今回の調査でわかったと言える。
東大Cedepらによる共同調査は今後も継続的に行われていくそうだが、各自治体でも、あるいは園単位、子を持つ家庭単位でもよりよい教育環境の実現のためにこうした状況への関心を払いたいところだ。