NPB11球団が注目した誉高校の黒野颯太 独立リーグ・石川で力をつけて今年こそドラフト指名を勝ち取る
■誉高校出身の黒野颯太
今秋ドラフトの注目選手である石川ミリオンスターズの黒野颯太。日本海リーグで開幕からローテーションを守り続けるという体の強さを誇っている。身体能力も非常に高い黒野投手には、誉高校時代からNPB11球団が注目していた。
現在、ミリオンスターズの岡﨑太一監督は、NPBに行くだけではなくNPBで活躍できる選手に育て上げようとしているところだ。
そんな黒野投手に多大な影響を与えた人物がいる。はたして、それは誰か。
そして黒野投手は今、独立リーグどのようなシーズンを送っているのだろうか。
(*前回「イヒネ イツアの後輩、誉高校の黒野颯太は指名漏れの悔しさを払拭して独立リーグ・石川からNPBを目指す」からの続き)
■お兄ちゃんの一言がきっかけ
実はドラフト前から、独立リーグのことは頭にあったという。
「(高校の)監督とは夏の大会前から指名されなかったときのことを考えて、どうするかという話はしていました。大学って考えたときに4年も続ける自信がなくて。あ、野球じゃなくて学校自体が。あんまり勉強が好きじゃないんで(笑)。社会人野球も考えたんですけど、見ていると高卒はあんまり使ってもらえないみたいで」。
ずっと尊敬してきたという2つ上の先輩が、社会人チームのテストを受けて落ちたこともあり、「あの先輩が落ちたんなら、俺は無理やな」とも思っていた。
進路について何度か家族会議をしたとき、独立リーグの話が出た。
「お兄ちゃんがふざけ半分で言ったんですが、お父さんも『いいね』っていう感じになって、監督に話したら『悪くないんじゃないか』って言われました」。
そういった経緯もあり、ドラフト後に独立リーグ入りは自身の中で明確な進路となった。
「今、ここに来てよかったなって、すごく思います。環境としては本当に野球に集中できるし、すごく成長できる」。
鍛錬の場として、選択は正しかったとうなずく。
■弟の野球人生を変えたお兄ちゃん
“ふざけ半分”だったとはいえ、黒野投手の道を切り拓いてくれた兄の勢太さんは、弟の野球人生の中で多大な影響を与えてきた。颯太少年が野球を始めたのも勢太さんがしていたからで、兄の試合や練習にお父さんと一緒について行き、合間にキャッチボールをしたりしていた。
そして小学2年で兄と同じチームに入った。「シンプルに野球やっていて楽しかった」という少年時代だった。
転機が訪れたのは小学6年のときだ。勢太さんが野球部を辞めたのだ。
「僕、ずっとお兄ちゃんの野球を見てやってきたんで、お兄ちゃんが野球を辞めたことに全然納得がいかなくて、『なんで辞めたん』って感じになっていたんです」。
憤りを感じた颯太少年が考えたのが、中学から硬式のボーイズに入ることだった。勢太さんは中学の軟式野球部出身で、自身も同じ道を歩むつもりだった。しかし、兄の選択に対する反発なのか、兄以上に野球道を究めようと思ったのか、兄と違う道を目指すことにした。
「お兄ちゃんが野球を続けていたら僕も軟式をやっていて、たぶん誉(高校)にも行ってないですね」。
ということは、「黒野投手」は誕生していなかった可能性がある。何がどう転ぶかわからないから、人生はおもしろい。
■お兄ちゃんと二人暮らし
現在、勢太さんと金沢で一緒に暮らしている。これも、「お兄ちゃんがふざけ半分で『俺も仕事辞めて石川に行こうかな』みたいに言ったら、お父さんがその気になって『いいじゃないか。親としても安心だし』って(笑)」という勢太さんの一言から始まったのだ。
子どものころは「めちゃくちゃケンカしていた」という兄弟も、今では非常に仲がよく、勢太さんは黒野投手の登板日には必ず球場に足を運んでくれるという。投げない日もYouTube配信を見てくれていて、家で試合の話をして盛り上がる。野球経験者である勢太さんの意見は参考になるようだ。
日々の食事は、「お兄ちゃんはダイエット中だから、ご飯は食べずに自分でサラダチキンだけ食ったりしてます(笑)」と、料理好きな黒野投手はマメに自炊をしている。
両親が共働きだった小学生時代は一旦、学校から祖母の家に帰り、「おばあちゃん家でいろいろ手伝ったりしてました。玉子焼きを作ったり」と、腕を磨いた。近ごろはオムライスをよく作るそうだ。
しかし包丁を握るということは、ケガも心配だ。最近はお母さんのアドバイスで切ってある野菜を買うようにするなど、リスク回避にも努めている。
■高い意識で課題と向き合う
最速148キロのストレートには強さ、そして球速以上に感じさせる速さがある。黒野投手本人もストレートには自信を持っている。
「バッターがボールの下を空振ったり、バットが折れたりすると球がいってるなって手応えは感じます」。
その一方で、課題はいろいろある。
「2ストライク追い込んでからです。コントロールが得意じゃない分、ゾーンで勝負しがちで、たとえばワンバンのカーブを要求されているときも高めに抜いてゾーンに入れて打たれるとか。1球前の球とのつながりが理解できていても、自分の実力的に出せていないっていうのがあります」。
意識をもっと高めることも必要だと、省みる。
だから、練習から意識高く取り組んでいる。ブルペンで投げるときも自身でカウントを想定して、それをキャッチャーに伝えて投げる。
「2ストライク想定で低めに強い球で投げるとか、しっかり課題とテーマを持ってやるようにしています。最初はとにかく投げ込んでってやってたんですけど、それだけだとダメで何か変えないといけないなと思っていたときに、岡﨑監督から『どういう意図なのかを、ちゃんとキャッチャーに伝えて投げるように』って言われました」。
たとえばフォークを投げるときに「ゾーンには入れずにショーバンでいきます!」や、「バッター、三好(辰弥=富山GRNサンダーバーズ)さんでいきます!」など、具体的に口にする。
「そうやったほうが練習の質が上がると言われました。そういうことが大事だなと思って、やっています」。
いかに鮮明にイメージするかが、練習をより実戦に近づけられるのだと理解している。
ちなみに、実際の三好選手には「投げづらい」と苦笑いする。ほかにも佐野大陽選手や松重恒輝選手ら強打者ぞろいのサンダーバーズ打線と対峙するが、「(自分自身の)明確な欠点というか反省点が出てくるんで、そこはすごくいいなと思います」とプラスにとらえるあたりも、メンタルの強さを感じさせる。
■一塁牽制は得意技
黒野投手の武器の一つに、一塁牽制がある。ここまでも一塁にランナーを背負うとちょくちょく狙い、刺している。これは高校時代からの得意技だという。
当時、回の途中のランナーがいる場面で、センターからピッチャーへと交代することが度々あった。直前まで外野を守っているわけだから、投手としての肩は作っていない。
「たとえば2アウト一塁三塁とかで登板して、一塁牽制で刺してチェンジでベンチに帰って、次の回までに肩を作ってってしていました(笑)」。
監督も「お前の得意なの、いってこい!」と認めていた必殺技は、自身を幾度も助けてくれたという。
今季も初登板のマウンドで、2者連続で刺すという場面は印象的だった。
■マウンドでの独り言
プロ初登板は開幕2戦目の5月11日だった。高校を卒業して間もないのに、ずいぶんと落ち着いているなと見受けられた。が、意外にも「めっちゃ緊張するタイプなんですよ」という。
その試合の映像を今でもたまに見返すそうだが、「なんでこんなそわそわしてんのかなと思う」と笑う。どうやらうまく隠す術を身につけているようだ。
「高校のときからそう。出さないですね。試合前とか吐きそうになるくらい緊張して、夏大とかベンチ裏で吐いてたんです、先発の日とか。でも、みんなには見せたくなかったんで、みんなといるときは普通にしゃべったりしてました。内心は心臓バクバクでやばかった(笑)。前日に眠れないとか、全然あります」。
最近も緊張はするというが、少し慣れてきたようだ。
「僕ね、マウンドでよく独り言をしゃべってるんです(笑)」。
なるほど。そうやって自らを落ち着かせる技を覚えたようだ。
「『大丈夫、落ち着け、落ち着け』とか、『本当にここ大事だから、1点もやれない』とか、自分に言い聞かせるように口に出して、マウンドでしゃべっています」。
自己暗示とともに、口にすることで状況整理もしているのだ。これはチームのエースである香水春貴投手に教わったのだとか。黒野投手にとって、先輩ばかりの環境は学ぶことばかりだ。
「やっぱりピッチャー経験も野球やっている経験も全然違うので、全部が合うわけじゃないですけど、とくに同じ先発の香水さんはいつも試合を作っているので、これいいなと思ったものはすぐに取り入れてやっています」。
取捨選択をしつつ、貪欲に吸収する日々だ。
■勝てる投手になる
ちょうど2カ月が過ぎた。開幕から6度の先発登板では、3試合目から2試合連続でクオリティスタートを、6月に入っての2先発はともにハイクオリティスタートをマークし、徐々に力をつけてきている。
秋のドラフトに向けてアピールしたい黒野投手は、球速を今より上げることを誓う。
「マックスは148キロですけど、まだまだいけると思うんです。なんか自分の中で空回りがあって、今ちょっと球速が出ていないんで。もっともっとトレーニングして上げていきたいです」。
目指すのは150キロ超えだが、それをコンスタントに出せるようにしたいと意気込む。さらには体の強さをアピールし、「終盤になってもまっすぐで空振りが取れるような、球威が落ちないというところはしっかりアピールしたい」と、キリリと表情を引き締める。
得意球のスライダーのキレも、もっともっと上げていきたいところだ。
ここまで7試合の登板で失点26ながら自責点は15と、不運もあって勝ち星には恵まれず0勝3敗、防御率は3.72である。
「今の課題をどんどん潰していって、勝てる投手になりたいですね」。
ここからは要所を締めて勝ち星を積み重ね、チームに貢献していくつもりだ。
【黒野颯太(くろの そうた)*プロフィール】
2005年7月13日(18歳)
178cm・78kg/右投右打
誉高校
愛知県出身/背番号14
最速:148キロ
球種:ストレート、カーブ、スライダー、カットボール、フォーク
【黒野颯太*今季成績】
7試合/0勝3敗0S/防御率3.72
36.1回/被安打45/被本塁打1/奪三振24/与四球19/与死球2
失点26/自責点15
(7月6日現在)
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(表記のない写真の撮影は筆者)