政治活動と称する「クラスタフェス」は法的に規制はできないのか
最近、「クラスターフェス」や「選挙フェス」と呼ばれる活動がSNSで話題に上ることが多くなりました。人通りの多い道路上や公開空地などに集まり、政治活動という立て付けで大音量の音楽を流しながら政治的主張を訴える「フェス」として、渋谷などで開催される様子が写真や動画で公開されているものを見たことがある人も多いでしょう。政治活動には広い自由が認められていますが、SNS上では法的に問題がないのか心配する声も上がっています。これらの「フェス」について考えてみたいと思います。
SNSで話題になったクラスターデモ・クラスターフェス
政治団体「国民主権党」党首の平塚正幸氏が、渋谷駅前で新型コロナウイルス対策への抗議活動としてマスク無着用で「クラスターデモ」「クラスターフェス」を行ったことが話題となり、SNS上で非難の声が多く集まったことは記憶に新しいでしょう。平塚氏は、2019年の参議院議員通常選挙でNHKから国民を守る党公認で千葉県選挙区から立候補し落選しましたが、その後同党を離党しました。そして、新たに前述の国民主権党を立ち上げ、「新型コロナウイルスはただの風邪」と主張し、今年7月に行われた東京都知事選に立候補、8,997票で落選した経緯があります。その後、入店時のマスク着用を要請しているユニクロの店舗に、わざとマスク非着用で入店して店員から入店拒否された様子を撮影しこれをユーチューブで公開するなど、一般的に迷惑行為とみなされるような行動を繰り返し起こしています。
その後現在に至るまで、渋谷駅前で前述の「クラスターデモ」を開催しているとのことですが、特に8月9日に行われたものに関しては、デモ活動の終了後に支持者らと共にマスク非着用で山手線に乗ることを予定していたことから、マスコミが取り上げて大騒ぎとなりました。こういったデモや政治活動はどこまで許されるのでしょうか?
主義主張の良し悪しは受け手が判断するもの
まず法律的なところからみていきます。日本国憲法においては、思想及び良心の自由は19条で保障されていますし、さらに集会結社の自由は21条で保障されていることからも、平塚氏や国民主権党が「新型コロナウイルスはただの風邪」という政治的主張すること自体は問題にはなりません。この主義主張の良し悪しは受け手が判断するもので、過激な主張だからとはいえ、それだけで日本の警察当局が団体の行動に介入したり集会を解散させたりすることは現行法上できません。香港で国家安全維持法を理由とした集会参加者への逮捕・拘留が相次いでいる例を出すまでもなく、警察の介入は非常に危険な行為であると言えるでしょう。「新型コロナウイルスはただの風邪」が事実かどうかに関わらず、政治団体による主義主張として一定の保護を受けることは憲法によって保障されていると言えます。
一方で、公共福祉の観点を踏まえ、公衆の迷惑になるような形での表現活動や行動の自由までもが無制限に許容されているわけではありません。これは政治活動と選挙運動を定めた公職選挙法において違法行為に当たるか以前の話であり、例えば暴力行為などの違法な手法は一切認められる余地はありませんし、他人の自由を奪う行為や迷惑をかける行為は、刑法において罰則を持って禁じられています。思想及び良心の自由や集会結社の自由は、受け手側一人一人が参加したり、参加しない自由を保障されていることからも、受け手が拒否できない環境だったり何かを強制されるようなことは認められていないとも言えるでしょう。
他人に迷惑をかければ公選法でなくとも違反になる可能性
一連のクラスターデモに関しては、駅前の街頭演説で主張を述べる程度であれば法的にも問題なく、関心がある人は聞いて関心が無い人は立ち去ればいいわけですから、他の多くの政治家が演説をするのと同じように、一見問題は無いようにみえます。一方、駅前の街頭演説とはいえ、大人数が集まるケースや要人警護の必要な弁士が登場するケースなどでは、地元警察と事前に交渉を行い当日の警備計画など実踏を踏まえて提出することも多く、特にコロナ禍において「マスクをしない」という性質の集会がどこまで通行人に不安などを与えるか、などの観点からも繊細な案件と言えるでしょう。また、最終的には実施に至りませんでしたが、事前に言われていた「支持者らと共にマスク非着用で山手線に乗る」という行為は、乗車券を購入した人だけが立ち入ることのできる公共に用いられていない私有地(鉄道用地)で行われることを踏まえれば、乗客の不安を増幅し必要に応じて鉄道会社に不必要な対応を取らせる可能性もあることから、最悪の場合、公職選挙法ではなく刑法(業務妨害など)や鉄道営業法によって処罰対象となる可能性もあります。最近では航空機内においてマスクを着用しなかった乗客が、離陸後も客室乗務員の指示を聞かなかったため、航空法に基づいて目的地外の空港に緊急着陸して乗客を降機させる事案が報道されました。適用される法律は違えども、公共の利益を害する行為まで「政治的行為」として認められているわけではありません。
「フェス」という形式は問題ないのか
ここ最近では、「フェス」という形で大音量の音楽を流して行う政治活動も見られるようになりました。2013年に三宅洋平氏が参議院議員通常選挙に立候補した際から始まった「選挙フェス」は、形を変えて他の候補者にも使われるようになったほか、音楽を使ったパフォーマンスという点では、数多くの選挙に立候補し現在は港区議会議員であるマック赤坂氏や、東京都知事候補として話題になったスーパークレイジー君(西本誠)氏などにもみられる傾向です。
法律的な点から考えていきますと、まず政治活動や選挙運動で音楽を使ってはいけないという法律はありません。あくまで政治的活動という範囲においては、どのような演説をするかは政治家個人の問題ですから、BGMに音楽を流すことや、演説が歌唱形式になることが違法とは言えません。選挙運動においては、候補者自身が歌手や元歌手であって自身の曲を公衆の場で歌ってしまうことは、通常有償のコンサートなどで費用を取っている歌唱という行為を無償で提供していると見做されて違法な寄附行為と解釈される恐れがあることから、注意が必要とされており、これまでであれば元SPEEDで現参議院議員の今井絵理子氏の選挙でも話題になりました。ただ、こういった例はごくわずかといえます。そのほかに気にしなければならないのは著作権法で、著作権や著作隣接権の観点から、作曲家や音源の版権を持っている人(会社)などの権利関係に留意しなければなりませんが、自分自身で作詞作曲した曲であれば、この点はクリアされるでしょう。
法律上は問題ないとして、あとは政治活動の範疇に収まっているかどうかということになります。何人も個人の資格で政治活動を行うことは可能ですから、政治活動に託けて「フェス」をゲリラ的に開催することが可能なようにも思えます。ただし、政治活動とは、「政治上の主義施策を推進し、支持し、若しくはこれに反対し、又は公職の候補者を推薦し、支持し、若しくは反対することを目的として行う直接間接の一切の行為」と一般に定義されていますから、これらに当てはまる行為になっていなければ、政治活動とは見做されません。個人の趣味として路上で音楽を演奏することや、専ら商業的な目的において路上でゲリラフェスなどを実施することは、政治活動の保護の下からは外れるため、違法性が極めて高いと言えるでしょう。
政治活動において、万人が納得する主張や行為などは存在しません。政治的主義主張は多様であり、その主義主張を一人でも多くの人に広めるための行為について憲法をはじめ一定のルールで保障しているわけですが、このようなコロナ禍においていたずらに不安を増幅させるような行為が続くようなことがあれば、「ヘイトスピーチ禁止条例」のような法規制も必要になってくるかもしれません。一方、政治活動のあり方は時代とともに大きく変化しており、若い世代に訴求する政治活動のあり方として「選挙フェス」のあり方も今後変わっていくものと考えられます。