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あわや朝から千日手・・・?そこを打開した後手番・渡辺明挑戦者(36)名人戦七番勝負第1局2日目進行中

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月11日9時。三重県鳥羽市・戸田家において第78期名人戦七番勝負第1局▲豊島将之名人(30歳)-△渡辺明三冠(36歳)戦、2日目の対局が始まりました。

 両対局者が初期位置に駒を並べ終わった後、記録係の高田明浩三段が前日1日目の棋譜を読み上げます。このご時世ということもあって、高田三段の前には透明なアクリル板が立てられています。

 高田三段の声に従って、指し手が再現されていきます。戦型は角換わり。後手番の渡辺三冠は攻め側の銀を四段目中央に進め、腰掛銀に構えました。先手番の豊島名人は腰掛銀には出ず三段目にとどめ、現状は中住居玉を守る駒としています。

 55手目。豊島名人が自陣四段目、斜め四方に利く角を打ち据えたところまで進められたところで、立会人の福崎文吾九段が封じ手を開封します。

 56手目。渡辺三冠の封じ手は金を三段目に上がる手でした。これはまず穏当な駒組で、多くの人が予想していたところでしょう。

 57手目。豊島名人は1分の考慮で玉側の金を右に寄ります。

 渡辺三冠は13分で入城していた玉を、城の入口に戻します。

 そして豊島名人は金を左に寄り、元の位置に戻します。

 渡辺玉は再び入城・・・。これは・・・。

 ネット上で盤上の推移を見つめる観戦者も、これはざわざわします。局面は元に戻って、典型的な千日手模様です。

 豊島名人は一晩考えて、合理的な判断として、千日手やむなしの結論に至ったのかもしれません。

 先手番であり、また消費時間も多く使った上での千日手は失敗とは言えます。しかし無理に打開して形勢を損ね、負けてしまっては仕方ありません。

 同一局面が4回生じた時点で、規定により千日手は成立します。名人戦七番勝負の規定では、千日手は指し直しとなります。運営側の立場としては、指し直しはいろいろ大変です。

 渡辺三冠は少し考えました。後手番で、さらに時間も多く残しているとなれば、一般的なスタンスとしては千日手歓迎でしょう。玉を引いて城の入口に戻せば千日手成立濃厚です。

 62手目。13分考えた渡辺三冠は4筋に飛を転換しました。これは千日手を打開する意思を示したものと思われます。もし豊島名人が手待ちを続ければ、渡辺三冠が攻めに出てポイントをあげそうです。

 63手目。豊島名人は3筋の歩をつっかけました。これで千日手の可能性はほぼなくなりました。本格的な戦いが始まるその前の小競り合い、前哨戦が始まりました。

 名人戦七番勝負は2日制で持ち時間9時間。昼には1時間、夕方には30分の休憩をはさんで、通例では夜に決着します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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