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ドイツの新興メディア「Correctiv(コレクティブ)」は、読者とこうやってつながっている

小林恭子ジャーナリスト
ドイツの「Correctiv(コレクティブ)」の試み(ウェブサイトより)

 これまで、数回にわたり、読者とともにメディアを作る試みを紹介してきた。

 最後は、ドイツの新興メディアで調査報道を専門とする、「コレクティブ」を取り上げたい(4月4日セッション「独立した編集室の運営方法」から)。

コレクティブとは

コレクティブのクレッチマー氏(撮影Giorgio Mazza)
コレクティブのクレッチマー氏(撮影Giorgio Mazza)

 コレクティブとは、2014年、ドイツ・エッセンで創業した非営利の調査報道組織。ブロスト財団(Brost Foundation)が年間100万ユーロ(現在の計算で約1億1700万円)を3年間提供することで設立資金を賄った。40人が働く。ドイツ以外にイタリア、スペインにも拠点を持っている。

 ジャーナリズム祭のセッションで話したのは、マネジング・ディレクターのサイモン・クレッチマー氏である。

 コレクティブは非営利組織として始まり、最初は財団からの資金が100%の収入源だったという。しかし、現在は55-60%を占めるようになった。会員制とそのほかの事業から得る収入とが、それぞれ20-25%ほど。

 将来的には、以下の3つの収入源の中で、どれか1つが突出しないようにしたいという。

  (1)財団による寄付金・支援金など(中核となるプロジェクトに使う)

  (2)民間からの資金(企業との共同作業、ブランドビジネスほか)(大規模なプロジェクト用)

  (3)サポーターからの収入(定期購読者からの収入、プロジェクトごとの支援など)

  最後にある(3)「サポーターからの収入」には、一度きりの寄付も入る。来年以降、(1)にあたる財団からの支援を「25%程度にしたい」。

 「持続可能な財政体制」を重要視しており、そのためには「組織のミッションに沿った経営をすること」が重要と考えている。

 ではコレクティブのミッションとは、何か?それは、「調査報道を行うこと」。

市民を巻き込む

 新規企業としてのコレクティブが重要視するのは、「市民を巻き込むこと」。

 調査活動に市民を参加させれば、「市民側もこちらに何かを戻してくれる。結果的に、調査報道の質が上がる。コレクティブを中心とした、ネットワークができていく」。

 ちなみに、市民・読者・オーディエンスを巻き込む、という姿勢はジャーナリズム祭のほかのメディア(大小限らない)でも大きなテーマとなっている。

 クレッチマー氏は「自前のオーディエンスを築き上げるべき。オーディエンスを理解すること。注意を払うこと」。

 オーディエンスは「持続可能な、公正な社会の実現を望んでいる」という。おのずと、コレクティブの経営及び編集方針がこれを反映するものになる。

 現在、約3000人のサポーターがいて、コレクティブはこの人たちにコレクティブの方向性について、意見を募った。同時に、まだサポーターになっていない人にもツイッターやフェイスブックを通して、問いかけた。

 「コレクティブの仕事をどう評価するか」、「あなたにとって最も重要なことは何か」、「どのようにしたらもっと支援者を増やすことができるか」、「どのようなニュースレターを読んでいるか」など。最終的には1500人が質問に答えたという。

調査報道で協力

 コレクティブに所属しないジャーナリストを巻き込んでの調査報道にも、力を入れている。

 550億ユーロにも上る「脱税」疑惑(「CumExFiles」)を調査報道した時は、欧州12か国の19の報道機関と協力した。38人のリポーターが28万ページに相当する書類を共同で精査したという。

 

 ほかにも、いくつもの調査報道を国内外の報道組織と協力しながら行っている。

 提携している報道機関は、コレクティブによる調査結果を使うことができる。「コレクティブの調査であるとその記事の中で書いてもらう、あるいはリンクをつけてもらう」のが条件だ。

 コレクティブ側にとっては、調査報道の内容が多くの人にインパクトを持って伝えられることが利点だ。

地方メディアとの協力体制

 コレクティブは地方のジャーナリストと専門家をつなぐ試みも行っている。

(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)
(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)

 リサーチャー(研究者)とオーディエンスが協力して情報を集め、記事化する。

 ハンブルク、ベルリン、デュッセルドルフなど、特定の都市に焦点を置き、定期的にミーティングを開いている。

 また、「クラウドニュースルーム」も設置した。これはコレクティブと契約をしている報道機関の編集室を一本化する・共通化するもので、報道機関がそれぞれのコンテンツをここにアップロードし、情報を共有しながら作業をする。

クラウドニュースルーム(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)
クラウドニュースルーム(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)

 このシステムを使って、現在までに7つの調査報道が行われ、5000人が参加したという。7つの報道の中で、5つは不動産に関する話題だった。銀行、教育現場も対象となった。

 1つのトピックに1000人規模が参加する。たった1人の記者がたった1回の記事のために取材をするのではなく、「取り上げられたトピックをずっとフォローする人もいて、公的議論の下地が生まれた」という。

 クレッチマー氏はいう。「私たちは活動家ではない。ジャーナリストだ。問題に光を当てるのが仕事になる。人々が問題に対する答えを見つけることを助けたい」。

ファクトチェックの役割

 コレクティブは、ファクトチェックで中心的な役割を果たしていることでも知られている。

 創設当初、ドイツの総選挙でのデマ、フェイクニュースがたくさん広がっていた。そこで、コレクティブがファクトチェックを担当するようになった。事実確認の上、デマか真実かをウェブサイト上で公表する。

 すでに、200人ほどがコレクティブでファクトチェックのやり方を学習している。

イベント「キャンプファイヤー」

 

キャンプファイヤーのイベントの様子(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)
キャンプファイヤーのイベントの様子(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)

 コレクティブは、1年に1回、大きなイベント「キャンプファイヤー・フェスティバル」を開催している。

 昨年のイベント(3日間)では18のテントが設けられ、ワークショップ、セミナーなど(200のセッション)が開催された。1万人以上が参加した。

 調査報道は「ウェブサイト上で出すが、ワークショップや劇場で語ることもできる」とクレッチマー氏。

 「私たちはメディアと、メディアを消費する人を1つの場に置きたいと思っている。バリアがないようにしたい。いろいろな人が一堂に集まれば、そこで議論ができる」。参加費は無料だ。

エンパワーさせるための教育

 コレクティブは教育組織としての面も持ち、ジャーナリズムを学ぶウェブアカデミーを開設している。人々を「エンパワーさせる」という目的があるという。

 「ジャーナリストは職場で訓練を受けるが、誰もが情報発信するようになった今、ジャーナリストのいろいろなスキルは、ほかの多くの人にとっても役に立つものではないか」。

 100人を超える著名ジャーナリストを含む講師がデータの扱いやフェイクニュースの見分け方などを教える。1月29日にサービスを開始し、春までに「5000人が参加した」という。無料と有料(5ユーロから15ユーロ、約590円から1700円)がある。

 ちなみに、英ガーディアンも「マスタークラス」という名称でさまざまな講座を提供しているが、こちらはかなり高額で、例えば1日のライティングコースが249ポンド(約3万2000円)である。

 コレクティブのコースは、収入を得ることよりも教育面に重点を置いているようだ。

本社上階に書店を作った

書店で読者とジャーナリストが出会う(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)
書店で読者とジャーナリストが出会う(プレゼンテーションの画面を筆者が撮影)

 

 「ブックショップ」という試みもある。本社の上階を書店として、毎週水曜日、イベントを開催。記者が「なぜある記事を書いたのか」を話したり、著名人が講演をしたり。イベントはライブストリーミングされる。「ふらっと来て、本を買う」こともできる。これも「市民へのエンパワーメントの1つ」と位置付けている。

 この書店は、筆者もぜひ出かけてみたい思いに駆られた。

***

 欧州のメディアによる、「読者とのつながり方」を数回にわたって、紹介してみた。

 日本で、メディアが読者・視聴者にとってさらに身近で重要度が増す存在になることを願っている。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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