急造チームのぶっつけ本番の戦いだからこそ、森保監督のありのままの姿がよく見える 【中国戦分析】
最大の見どころは森保監督の采配
A代表としては、年内最後の大会になるE-1サッカー選手権。森保ジャパンはその初戦で中国と対戦し、2-1で勝利を収めた。今大会のメンバー編成が特殊なものであること、そしてこの試合が12月7日のJ1最終節から3日後に行なわれたことを考えれば、まずは及第点の出来だったといえるだろう。
ただし、今大会の森保ジャパンを見ていくうえで、大前提として頭に入れておかなければならないのは、現在進行中の2022年W杯アジア2次予選と同一線上で比較できないという点だ。何より、インターナショナルマッチウィークに行われる大会ではないため、A代表の常連となっているヨーロッパ組を招集できないという事情がある。
さらに、来年1月(8日~26日)には東京五輪を目指すチームが参加するAFC U-23選手権タイ2020が予定されている。これは、五輪チームにとっては、本番前に残された唯一の公式大会であるため、森保一兼任監督としてはそちらも無視できない。
そのため今回は、森保監督がピックアップした登録メンバー23人のうち11人が初招集の選手、13人が東京五輪を目指すU-22代表の選手によって構成されることになった。つまり今回のメンバーは通常のA代表とは別物であり、東京五輪を強く意識した”Jリーグ選抜チーム”だった。
だからこそ、最大の見どころになるのは森保監督の采配だ。
ほぼ初顔合わせのメンバーで、しかもほとんど準備期間が与えられていないからこそ、逆にピッチ上に描かれるサッカーには、森保監督の考えが表われやすくなる。通常のA代表では選手の自主性や阿吽の呼吸を重んじる指揮官も、さすがに今回のメンバーにそれらを多く求めることはできないからだ。
もちろんA代表の新戦力発掘という視点で大会を見ることもできなくはないが、今回のメンバーのなかで11月14日のキルギス戦に出場した選手が87分から途中出場した鈴木武蔵ただ1人であることを考えれば、あまり現実的ではないだろう。
むしろ戦力のチェックや底上げという狙いを考えた場合、指揮官の頭のなかではW杯予選よりも東京五輪に比重が置かれていると見るのが妥当だ。
国内組の選手には一定のオフを与えなければならないルールがあることも含め、おそらく森保兼任監督が半数以上にあたる13人もの東京五輪世代を今回のメンバーに加えた理由はそこにある。
長く続かなかった前からの守備
迎えた注目の初戦。森保兼任監督は、A代表のチーム強化よりも、東京五輪の強化の流れに沿った戦い方を選択した。
布陣は、A代表のメインシステムでありU-22代表のオプションでもある4-2-3-1ではなく、A代表のオプションでU-22代表のメインシステムである3-4-2-1を採用した。
スタメンは、GKに中村航輔、3バックに畠中慎之輔、三浦弦太、佐々木翔、ダブルボランチに井手口陽介と橋本拳人、ウイングバックは右に橋岡大樹、左に遠藤渓太、2シャドーは鈴木武蔵と森島司、そして1トップに上田綺世という11人だった。
ちなみに、スタメンのうち東京五輪世代に該当する選手は、橋岡、遠藤、森島、上田の4人。途中出場を果たした田川亨介と相馬勇紀も含めると、最終的にピッチに立った13人のうち、東京五輪世代は6人になる。
もちろんそれは、この試合で3-4-2-1を採用した理由にも関係する。仮に3戦すべてでこのシステムを採用したら、それは指揮官が今大会の意味合いをかなりの割合でAFC U-23選手権に置いていると捉えることができる。
ただ、通常よりDFの人数が少ない点をメンバー発表会見で指摘された森保兼任監督は「戦いの中で3バックも4バックもできるようにシミュレーションしている」とコメントしているだけに、これについても韓国戦まで確認を続ける必要があるだろう。
いずれにしても、実質的には前日のみの準備で臨んだ中国戦は、森保監督が最も得意とする3-4-2-1が機能するかが最大の焦点となった。その点で、前半の立ち上がりに日本が見せた守備は、チームとしての狙いが見てとれた。
4-2-3-1を採用する中国が最終ラインからビルドアップする際、日本は1トップと2シャドーが連動しながらプレスをかけてパスコースを限定。橋本と井手口も相手のダブルボランチに素早く寄せ、ウイングバックは相手のサイドバックをマーク。最終的に相手サイドバックのところで囲い込む攻撃的なディフェンスを見せた。
前半4分、敵陣左サイドで囲い込んで、相手がボールをタッチに出してしまったシーンがその典型で、6分には敵陣右サイドで同じようにして橋岡がボール奪取に成功している。これが継続できれば敵陣でゲームを進めることができるため、5バック状態になりやすい3バックシステムも、守備的な形にはならない。
しかし、それは長く続かなかった。
佐々木のファールによって与えた中国のFK(前半7分)を境に、日本は5バック状態、つまり両ウイングバックが下がり、1トップが前線で孤立する5-4-1の守備的陣形になる時間が続いた。中国が前線にロングボールを蹴ったり、アタッカーが日本の最終ラインの背後を狙う動きが増えたことが影響した格好だ。
公式記録の立ち上がり15分間のボール支配率は、中国が69.47%で日本は30.53%。中国が決定機をつくったわけではなかったが、中国ペースの時間帯だった。
不満が残る前半の日本の攻撃
その後、前線からのプレスが効果を示したシーンは前半41分。日本のボールロスト後、3バック以外の7人が連動して敵陣左サイドでボールホルダーを囲むと、それをワンツーで剥がそうとした中国が最終的にタッチに出してしまった。また、その直後の42分に畠中が高い位置でインターセプトしたシーンも、同じ類の守備方法だった。
前からプレスをかけるのか、それとも5バックを受け入れて下がって守るのか。
前半の日本の守備を見ていると、相手の出方によって使い分けを行なっている印象もある。サンフレッチェ広島時代の森保監督のサッカーでは、相手ボール時はあっさり5バックを受け入れて守っていたことを考えると、当時との変化もうかがえた。
こうなると、問題は対戦相手のレベルが上がった場合だ。
どちらをベースにするのかはっきりさせないと、同格か格上相手だと5バック状態の時間が長くなる。今大会をこの状態で戦い続けた場合、おそらく香港戦では攻撃的に見え、韓国戦で守備的に見える可能性は高い。
一方、攻撃面で3-4-2-1のよさが出たのが、29分のゴールシーンだった。左サイドの高い位置に上がった佐々木が森島とパス交換をしたあとに上田に縦パスを入れると、上田が森島につなげる。受けた森島が抜群のタイミングで入れたクロスをゴール前に走り込んだ鈴木が決めたシーンである。
「連係、連動」とは、森保監督がよく口にするフレーズだが、縦パスからシャドーを経由してフィニッシュに持ち込む攻撃は、まさに3-4-2-1を採用する狙いのひとつ。そういう意味で、指揮官の狙いどおりのゴールだったと言える。
残念なのはその回数が少なすぎたことだ。ゴールシーン以外で、前半で連動した攻撃の形をつくれたのはスローインから始まった15分のシーンのみ。上田、森島、遠藤とつないだあと、遠藤が左からクロスを入れるも、クリアされている。
その点も含めて、前半の日本の攻撃は、機能したとは言い難い。
実際、前半で日本が記録した縦パスは13本のみ。最も多く縦パスを使ったのは佐々木(5本)で、ダブルボランチの橋本(3本)と井手口(2本)を上回っていた。また、前半のクロスボールも4本だけで、左の遠藤が3本を記録。右の橋岡は0本に終わっている。
終盤の失点の原因を探る
日本が1点リードした状態で迎えた後半は、中国の戦い方が変化。最終ラインからのビルドアップ時にダブルボランチの1人が最終ラインに落ちることで、上田のファーストディフェンスを回避し、両サイドバックが高い位置をとれた。それにより、日本は遠藤と橋岡が押し込まれ、後半序盤から5バックになる時間が増加した。
そのなかで、日本はこの試合初めてのピンチを迎える。後半8分、中国の右サイドバック(15番)が角度のない位置から放った強烈なシュートが、バーを直撃したシーンだ。
このシーンの問題は、まずシュートの前に10番がゴール前の9番に入れた浮き球のパスに対する佐々木の対応と、三浦、畠中、橋岡、遠藤の4人の動きがずれていたことがひとつ。佐々木ひとりが9番をマークすべくラインブレイクして下がってしまい、オフサイドを取り損ねてしまった。
さらに遡ると、前線の守備における問題が浮上する。
そもそもこのシーンは、上田がファールしたあとに中国がクイックリスタートしたところから始まっている。中国が4人でビルドアップを始めるなか、上田だけがチェイスを始めるも、2シャドーの鈴木と森島以下は連動せずにリトリート。それにより、中国の17番は余裕を持ってルックアップし、左のハーフスペースにいた7番へのミドルパスがあっさり通り、ゴール前へのフィードにつながっている。
前から行くのか、下がってブロックをつくるのか。2戦目以降にこの課題がどのように修正されるかが注目される。
その後は、日本も5バックにならないように両ウイングバックが高い位置をとろうとするも、中国の帰陣が前半よりも速くなったため、ボールをキープするも攻撃が停滞。前半に何度か見せた連動した攻撃は皆無だった。
何よりパス回しのスピードが遅く、パスやトラップの精度が低いため、結局はボールを失って5-4-1の陣形になり、リトリートを繰り返すだけだった。
後半の縦パスは10本に減少。連動した攻撃がなかったことの裏付けとなってしまった。またクロスは5本に終わり、遠藤が3本、橋岡が2本を記録。前半よりは右サイドの攻撃が増えたが、全体的に攻撃は停滞の一途を辿った。
守備面では、試合終了間際に失点を喫してしまった。89分、前線でチェイスを繰り返した上田がガス欠状態に陥り、中盤でボールロスト。そこから中国は5-4-1で引いて守る日本に対し、スローインを挟んで約1分13秒もボールを保持し続け、最終的に9番がヘディングでネットを揺らした。
たしかにゴール前で9番を放してしまった畠中のマーキングにも問題はあったが、それ以上に、クロスを入れた17番に対する橋本のアプローチが遅すぎたのが致命的だった。
消耗した上田が下がってプレッシャーをかけるのか、2列目の4人が前に出るのか。上田と2列目の間にあれだけ広いスペースが空いてしまえば、ボールを保持され、正確なクロスを入れられてしまうのも当然と言える。
求められたベンチワークとは?
そこで問題として浮上するのが、森保監督のベンチワークである。
中国が次々とカードを切るなか、森保監督は試合の流れを変えるための交代策を打つことはなかった。田川(72分)と相馬(84分)の投入は、どちらかと言えばテスト起用。たとえ戦術の浸透を図りたかったとしても、少なくともガス欠の上田を下げてフレッシュな駒を入れていたら、最後の失点は回避されていた可能性は高い。
こうした試合で指揮官自らが腕試しをしなければ、W杯予選や本番の勝負どころで的確な采配をふるうことはできるはずがない。
3-4-2-1の守備面と攻撃面の課題。そして、指揮官のベンチワーク。初戦の中国戦は、そういう意味で指揮官のありのままの姿が映し出された格好だ。
これらの課題に対して、指揮官はどのような修正を施すのか。スタメンや採用布陣も含め、今後の注目ポイントは意外と多い。
(集英社 Web Sportiva 12月13日掲載・加筆訂正)