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柴崎岳が日本代表の軸になった理由。「メキシコやアイスランドに見習う部分もある」

豊福晋ライター
ポーランド戦ではレバンドフスキと対峙。リーガでの”慣れ”は精神面で役立っている。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 ロシアワールドカップで日本がグループリーグを戦っていた頃、柴崎岳はこんなことを話していた。

「ワールドカップという舞台で普通にプレーできているという自分の成長も感じているし、そのためにリーガに行った。リーガの選手と普段やれているという慣れはあったと思う。ワールドカップで有名選手と対峙しても、リーガのあの選手たちよりは・・・という感覚もあった。それがメンタル的な安定に働いたのかと」

 初めてのワールドカップ、日本代表の中盤にいる柴崎には堂々とした風格なようなものさえ感じる。

 ほんのひと月前まで、柴崎は先発としてプレーするかどうかすら分からなかった。さらに数ヶ月時を遡れば代表招集すら確実とはいえなかった。代表の中盤で4年間を戦い、ほぼ固定されていた長谷部誠や山口蛍らとは立場は大きく違った。

 しかしいざ蓋を開けてみると、柴崎はチームの心臓部で攻撃を作り、守備でも抜群のセンスで相手のパスコースを消してはインターセプトを狙うなど、代えのきかない存在になっている。

 昔から将来性は高く評価されていた。しかしそれが本当の意味で開花したのは、1年半前に海外に出てからだろう。それからというもの、柴崎は誰にも想像できなかったスピードで階段を駆け上がりつつある。

表に出はじめた熱

 1年半前にスペイン2部のテネリフェへ移籍。チームをけん引し1部昇格の一歩手前まで導いた。その活躍が認められて1部のヘタフェへとステップアップ。自ら手繰り寄せたスペイン1部という環境は、さらに彼の能力を引きのばした。

 リーガは世界のスターが集う現時点で世界最高のリーグだ。厳しい環境でプレーするうちに、柴崎の感覚も変わっていった。

「極端に言えば180度くらい、考えていることや感覚が変わりました。スペインでプレーしてから、代表の遠征に合流した時も今までとは違う感覚で話を聞けた」

 パスセンスやゲームメイクの能力は元来高かった。この部分に関しては大きく伸びたというよりは幅を広げている印象だが、目に見えて分かるのは球際の強さや守備のポジショニングなど守備面においてだ。かつては攻撃センスが売りの選手だったが、今では攻守両面で頼もしさを感じる、トータルなミッドフィルダーになりつつある。

 セネガル戦のこと。サイドライン際で、体格で大きく上回られる選手の腕を掴み、必死に食らいついたシーンがあった。クールに飄々とプレーする、熱を感じさせないイメージもあったが、今では内に秘めた熱が表にも出つつある。

「スペインの中小クラブでは、やっぱりいろんなことをしないと勝てないんです。いろんな手段で勝ちに行くし、勝つためになんでもするという姿勢が見える。ディフェンダーもフォワードに対して、あの手この手で対応する。チームメイトとの練習中にも、『こんなことして止めに来るの?』と思うようなこともあります。削る選手も、掴みにくる選手もいる。自分がやられないためにあれこれと手を尽くすのを見ていて、『なるほど、これもサッカーの一部だな』と」

 どんなことをしても止めるー。球際や競り合い、セカンドボール回収の意識など、スペインで過ごした1年半で能力を広げた。その意味では、一見地味ではあるがテネリフェやヘタフェという、小クラブの現実を見ることができたのは彼のキャリアにとってプラスだった。

メキシコとアイスランドに見た可能性

 大会中、柴崎はカザンの宿舎でワールドカップを見ていた。

 印象に残ったのはスペイン対ポルトガル。その他にも、時間があれば試合を観戦した。マドリードの自宅でも普段からリーガの試合を見ている。トップレベルのプレーを見ることで感じることもあるという。

「今大会は、いわゆる大国が名前では劣る中小国に足元をすくわれる、そんな試合が多い。ドイツを破ったメキシコや、アルゼンチンを止めたアイスランド含め、見習うべき部分はたくさんあるのかなと」

 ベスト8進出をかけて日本が対戦するのはベルギー。日本にとっては格上だ。今大会で頻繁に起こっているような番狂わせを起こすためには、軸となりつつある柴崎の輝きは欠かせない。

 大会前、柴崎は過去のワールドカップを振り返りこんなことを話していた。

「過去の日本代表も、軸となる選手はそれぞれの年代に2、3人は必ずいました。2002年ワールドカップでは中田英寿選手や稲本潤一選手。2006年大会では中村俊輔さんやゴールデンエイジがいて、2010年は北京五輪世代が若くしていた。今大会は、やはり自分たち次の世代が軸にならないといけない。いつまでもハセさん(長谷部)や永嗣(川島)さん、北京五輪世代の背中を追いかけるだけじゃ物足りない。その意味でも存在感を出したい」

 その言葉通り、柴崎は初めてのワールドカップで大いなる存在感を放っている。

 猛スピードで走り抜けた1年半があった。ベルギー戦の先に、彼は何を見るのか。日本代表の司令塔はまた新たな次元へ進もうとしている。

ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

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