Yahoo!ニュース

『女芸人No.1決定戦 THE W』の魅力は「多様性」にあり

ラリー遠田作家・お笑い評論家
10月24日、準決勝が行われたルミネtheよしもとにて【筆者撮影】

2019年10月24・25日の2日にわたり、東京・新宿の「ルミネtheよしもと」で『女芸人No.1決定戦 THE W 2019』の準決勝が行われた。ここに出場した37組の芸人のうち、10組が日本テレビ系列で生放送される決勝に進むことになる。

私は、準決勝の1日目に足を運んで、ライブを観戦した。この手のお笑いコンテストでは、実は準決勝が一番面白い。厳しい予選を勝ち抜いたよりすぐりの芸人のハイレベルなネタがまとめて見られる上に、決勝進出を懸けた戦いなので出場芸人にもいい意味で緊張感があり、ライブとしての雰囲気がいいからだ。

もちろん、そこからさらに人数を絞った決勝も間違いなく面白いのだが、惜しくも決勝行きを逃したセミファイナリストのネタは、決勝進出した人たちのネタにもそれほど見劣りしない。質の高いネタをまとめて見られるという意味では、お笑いコンテストの準決勝は最もリーズナブルで刺激的なライブなのだ。『M-1グランプリ』や『キングオブコント』でもそれは同じである。

ただ、出場資格を女性芸人に限定している『THE W』の準決勝には、ほかの大会にはない独特の面白さもある。キーワードは「多様性」だ。

まず、そこで見られるネタの種類が豊富だ。『M-1グランプリ』は漫才の大会、『キングオブコント』はコントの大会というように、お笑いコンテストではネタの種類があらかじめ決められているものも多いのだが、『THE W』は何でもありだ。

漫才、コント、歌ネタ、漫談など、あらゆる種類のネタを楽しむことができる。漫才なら漫才だけをやる方が、細部の違いにこだわって楽しめるので「競技」としての面白さはあるのだが、多様なネタを見られるのもそれはそれで魅力的なのだ。

ただ、本当の意味で「何でもあり」というわけではない。女性がネタを演じるという共通点はあるので、キャラクターや題材がある程度は似通ってくることもある。例えば、コントならば基本的には女性役を演じるものが多いし、ネタの題材の中にも「恋愛」「デート」「モテ」といった女性的なものがしばしば見受けられる。

でも、実際の表現としてはそれぞれバラバラだったりする。だから一度にたくさんのネタを見ても飽きることがなく、最後まで楽しめる。

また、出場する芸人にも多様性がある。ほかのお笑いコンテストでも、プロの芸人だけでなくアマチュアが出られるものはあるのだが、そもそも全体の人数が少ない『THE W』では、アマチュアが準決勝に進むケースが目立つ。アマチュアと言っても、役所に勤める一般人から、現役のアイドルや元宝塚女優まで、年齢や職業や属性はそれぞれ違う。

女性芸人というくくりで大会を行って、これだけ幅広い層が準決勝まで出てくるのは、それだけ世の中で女性の生き方が多様化している証でもある。そもそも、芸とは人生を映すものだ。ネタを見るだけでもその人がこれまでどうやって生きてきたのか、何を面白いと思っているのか、といったことが何となく伝わってくる。『THE W』の準決勝は極上の人間ドキュメントとしても楽しめるのだ。

もともと、お笑いの能力には男女差はないと考えられている。スポーツの世界では、体格や筋肉量に差があるため、男女で種目を分けることに一定の合理性があるが、お笑いでは本来ならそれをやる必要はない。『M-1グランプリ』などほぼすべてのお笑いコンテストは男女混合で行われている。そんな中で、わざわざ女性芸人に限定したコンテストを行う意味はあるのか、という議論もある。

だが、個人的には『THE W』という大会には好印象を持っている。これまで述べた通り、こういう形式のコンテストだからこそ浮かび上がってくる面白さというものがあるからだ。この大会に不満を持っている人の大半は、準決勝を見たことがないのだと思う。

決勝進出者はまだ発表されていない。あの激闘を勝ち抜いて決勝に進むのは誰なのか、そして優勝者は誰なのか。今から楽しみが尽きない。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

ラリー遠田の最近の記事