Yahoo!ニュース

科学記事に論文へのリンクなし 手間はかかるがこのままでいいのか?

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
Credit: NASA/Robert Markowiz

ピックアップした宇宙科学に関する4本の記事は、いずれも本文内で研究成果の論文について言及されている。しかし英国の科学雑誌「Nature」といった名前はあるものの、肝心の論文へのリンクはない。読者は論文へアクセスするためにはテーマやキーワード、日付を頼りに論文を探すしか手段がない。科学記事としてそれでよいのだろうか?

ニュースメディアにとって論文へのリンク設定は負担の重い作業だ。掲載期間が終わればYahoo!ニュースから取り下げられる記事にそこまでの手間はかけられない、英語の論文を探して読む人は限られ、読者が喜ぶかどうかが見えづらい、有料購読制の学術雑誌の場合はリンク先を見てもペイウォールに阻まれて論文を読むことはできないためかえって不親切、などネガティブな理由はいくらでもある。

一方で科学記事に論文へのリンクを設定するポジティブな理由は一つだけだ。読者がその気になれば論文にアクセスできる。それを希望する人を助ける、それだけだ。

学術論文には「DOI(デジタルオブジェクト識別子)」という固有の番号のようなものがつけられている。DOIを用いて「https://doi.org/」で始まる論文ごとの固有のリンクを作ることができ、このリンクならばサーバの移動などがあった場合でも永続的にアクセスすることができる。研究機関が出している論文のプレスリリースにもDOIが掲載されており、ピックアップした記事に掲載したリンクはどれもDOIに基づくもので、いつでも確実に論文にアクセスできる。

▼国立天文台が22年にわたるブラックホールの観測から明らかにした自転運動

巨大ブラックホールが自転 噴出ガスが首振り運動、新証拠

「銀河の中心にある巨大ブラックホールが地球のように自転している新たな証拠を発見したと、国立天文台などの国際チームが27日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表した」

論文:Precessing jet nozzle connecting to a spinning black hole in M87

▼花崗岩の発熱から月の進化に迫る

▼巨大通信衛星コンステレーション「Starlink」の天文学への影響

スペースXの“銀河鉄道”人工衛星、いくらなんでも多すぎでは!? 専門家に聞いた

「2021年5月20日付けで学術誌『Scientific Reports』に発表された論文は、何千もの衛星が大気圏で破壊され、推定100万個の宇宙ごみが『高速で行き交い』、運用中の宇宙船と衝突する確率が高まっていると主張している」

論文:Satellite mega-constellations create risks in Low Earth Orbit, the atmosphere and on Earth

▼火星の自転の変化をNASA「InSight」探査機のデータから解明

火星に新たな謎 「自転が加速中」 NASA

「研究の詳細は、科学誌ネイチャーで最近発表された論文で報告されている」

論文:Spin state and deep interior structure of Mars from InSight radio tracking

2007年から2008年まで学術雑誌に掲載された約800本の学術論文を調査したところ、科学の専門誌以外の大きなメディアで学術研究が報道されたことと論文の評価(引用数)には関連があるという研究がある。メディアに取り上げられた「から」論文の評価が高まったかという点については議論の余地があるものの、メディアがある研究に対して社会的な関心事であるというマーカーの役割を果たすことは確かだろう。

日本の研究機関が関わる研究の成果発表の場合、メディアが取り上げて評価が高まるならば、結果的には研究の応援になるともいえる。記事を充実させ、論文へのリンクを設定してアクセシビリティを高めることには意味があるはずだ。ここでは宇宙科学の研究を取り上げているが、分野を問わないことは言うまでもない。

Yahoo!ニュースに代表される、ニュースプラットフォームの支援ももっとあってよい。記事にリンクを挿入する機能はあるが、それだけではリンク設定の負担を軽減できない。DOIの意味などを周知するガイドライン作成やコピーミスなどによる不十分なリンクのチェック機能、論文へのリンクをわかりやすくするフォーマットなど、できることは多数あるはずだ。

Citation: Anderson PS, Odom AR, Gray HM, Jones JB, Christensen WF, Hollingshead T, et al. (2020) A case study exploring associations between popular media attention of scientific research and scientific citations. PLoS ONE 15(7): e0234912. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0234912

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

秋山文野の最近の記事