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乾癬やアトピー性皮膚炎に新たな光明! ヤヌスキナーゼ阻害薬の仕組みと効果とは

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【ヤヌスキナーゼ阻害薬とは?】

乾癬やアトピー性皮膚炎など、炎症性の皮膚疾患の治療に期待が高まっているのが「ヤヌスキナーゼ阻害薬(JAK阻害薬)」と呼ばれる新しいタイプのお薬です。ヤヌスキナーゼとは細胞内のシグナル伝達に関わるタンパク質の一種で、炎症を引き起こす物質の産生に関与しています。JAK阻害薬はこのヤヌスキナーゼの働きを阻害することで炎症を抑える効果が期待できるのです。

従来の乾癬治療では、ステロイド外用薬や免疫抑制剤、生物学的製剤などが使われてきました。しかし、JAK阻害薬は飲み薬という利点に加え、生物学的製剤で効果不十分だった難治性の患者さんにも効果が期待できることから大きな注目を集めています。現在、日本でもすでに乾癬に対して使用が認められているJAK阻害薬があります。

【JAK阻害薬の種類と特徴】

JAK阻害薬にはいくつかの種類があり、阻害する酵素の種類によって大きく分けられます。2024年5月現在、代表的なものとして、JAK1、JAK2、JAK3、TYK2という4種類の酵素を阻害するトファシチニブ(アトピー・乾癬では本邦未承認)、JAK1とJAK2を主に阻害するバリシチニブ(アトピーのみ本邦承認)、JAK1に選択性の高いウパダシチニブ(アトピー(アトピー・乾癬性関節炎にて本邦承認)、TYK2を選択的に阻害するデュークラバシチニブ(乾癬にて本邦承認)などがあります。

これらのJAK阻害薬は、炎症性サイトカインの産生を抑えることで、乾癬の症状を改善します。例えば、ウパダシチニブはIL-23/IL-17経路を阻害し、デュークラバシチニブはIL-12/IL-23経路を阻害することで、乾癬の病態に深く関わるサイトカインの働きを抑制します。乾癬の発症メカニズムは複雑ですが、その中心的な役割を担うサイトカインを的確に抑えられるのがJAK阻害薬の強みだと言えるでしょう。

【JAK阻害薬の効果と安全性】

海外の臨床試験では、中等症から重症の乾癬患者に対するJAK阻害薬の有効性が示されています。例えば、トファシチニブでは16週間の投与で、PASI75(乾癬の重症度が75%以上改善した患者の割合)が39.9~59.2%に達しました。ウパダシチニブでも同様に、12週間でPASI75が56.9~70.6%という高い効果が報告されています。生物学的製剤との比較でも、遜色ない結果が得られており、難治性の乾癬に対する新たな選択肢として期待されています。

安全性については、感染症のリスクがやや高くなる可能性が指摘されています。JAK阻害薬は免疫機能に関与するため、感染症への注意が必要です。また、ごく稀ではあるものの、血栓症などの重篤な副作用の報告もあります。ただし、全体としては忍容性が高く、多くの患者さんで安全に使用できる薬剤と考えられます。長期的な安全性についてはさらなるデータの蓄積が必要ですが、乾癬患者のQOL改善に大きく寄与する可能性を秘めた治療法と言えるでしょう。

乾癬は、痒みや見た目の変化など、患者さんの生活の質に大きな影響を与える疾患です。JAK阻害薬の登場は、こうした患者さんに新たな希望をもたらすものとして大いに期待されます。一方で、個々の患者さんに適した治療法を慎重に見極めていくことも重要です。今後の研究のさらなる進展により、乾癬患者さんにとってベストな治療が選択できる時代が来ることを願ってやみません。

【参考文献】

・Furtunescu, A.R.; Georgescu, S.R.; Tampa, M.; Matei, C. Inhibition of the JAK-STAT Pathway in the Treatment of Psoriasis: A Review of the Literature. Int. J. Mol. Sci. 2024, 25, 4681. https://doi.org/10.3390/ijms25094681

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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