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自民党支持者の行く先は?世論調査会社の独自詳細分析から見えた次期総選挙における浮動票の行方

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
(写真:イメージマート)

一昨年の参院選以後、内閣支持率や自民党支持率が全く上がらず、危険水域から退陣水域へと突入しました。旧統一教会の問題や、派閥の政治資金パーティーなど「政治とカネ」問題が年単位で尾を引いており、春の国政補選でも自民党の苦戦が予想され、衆議院解散の目処も立っていません。

世論調査会社であるグリーン・シップは、今年2月に次期衆議院議員選挙について独自の世論調査を行いました。これまで自民党を支持していた層がどのように投票行動を変容させるか、各政党支持者別の内閣支持はどうなっているかを見ていくと、次期衆院選における有権者の投票トレンドが予測できます。この世論調査の結果をもとに、有権者の投票マインドを分析し、次期衆院選の展望について考えてみます。

同社の調査は携帯RDD方式とよばれる手法で、機械が無作為抽出した全国の携帯番号に対して世論調査の協力依頼をした上で、SMSで送信したウェブフォームにて回答させる手法です(n=2,023)。

自民党支持からの離反先は、維新>国民

『次期衆院選における投票行動変容』 GS調査センター「内閣支持率調査」(2024年2月23-25日)をもとに、筆者が図表作成
『次期衆院選における投票行動変容』 GS調査センター「内閣支持率調査」(2024年2月23-25日)をもとに、筆者が図表作成

この世論調査で尋ねられた設問の一つに「あなたは自民党の政治資金パーティーをめぐる問題を受けて次回の国政選挙での投票をどうしようと思いますか」という質問がありました。選択肢は、「今まで同様に自民党に投票する」「今まで自民党に投票していたが、次回は自民党以外に投票する」「今まで同様に自民党以外に投票する」「今まで投票に行かなかったが、次回は自民党以外に投票する」「投票には行かない」「わからない」で、その集計表は上記の通りです。

この結果、今まで自民党に投票していたと回答した者(「今まで同様に自民党に投票する」「今まで自民党に投票していたが、次回は自民党以外に投票する」)だけの内訳は、次回も自民党に入れるとしたのが39.2%だったのに対し、「今まで自民党に投票していたが、次回は自民党以外に投票する」と回答したのは60.7%となり、自民党へ投票してきた人の半数以上が次回は自民党以外に投票すると回答しています。

『政党支持と次期衆院選における投票行動変容(一部)の比較』 GS調査センター「内閣支持率調査」(2024年2月23-25日)をもとに、筆者が図表作成
『政党支持と次期衆院選における投票行動変容(一部)の比較』 GS調査センター「内閣支持率調査」(2024年2月23-25日)をもとに、筆者が図表作成

そして、「今まで自民党に投票していたが、次回は自民党以外に投票する」と回答した人の支持政党をみると、(支持政党として)「自民党」と回答した者の割合が34.9%と高いものの、「日本維新の会(10.1%)」や「国民民主党(7.6%)」も支持を獲得していることから、自民党支持から日本維新の会や国民民主党支持へスイッチしている層が一定存在することが示唆されます(設問における「支持政党」と「投票先政党」とは異なる意味を持つこと、すなわち有権者は支持している政党に必ずしも投票しないことに注意が必要です)。

特に国政選挙では、投票用紙1枚目の選挙区投票は立候補者個人に紐付く各要素(政治家個人の実績、経歴、活動など)が投票先の選定に影響を及ぼすことが多いのに対し、投票用紙2枚目の比例代表は政党名を書く(参議院の場合には個人名も可)こととなり、支持政党が大きな影響を及ぼします。そのため、各小選挙区で日本維新の会や国民民主党が候補者を擁立していなくても、比例投票先で自民党から日本維新の会や国民民主党へのスイッチが一定程度起きうると考えられます。

またわずかながら、支持政党を「わいわ新選組」や「立憲民主党」と回答した層がいることにも留意が必要です。一般的に有権者の政党支持が与党第一党から野党第一党にダイナミックに転換することは起こりにくいですが、自民党下野につながった2009年の衆院解散総選挙では、与党第一党(自民党)と野党第一党(当時の民主党)の支持率が拮抗したまま選挙を迎えた結果、比例投票先で民主党と回答した人が自民党と回答した人の2倍以上にわたり、結果的に民主党による政権交代に繋がりました。一方、現在の政治情勢をみると、野党第一党である立憲民主党の政党支持率は必ずしも与党第一党の自民党ほど拮抗しておらず、自民党支持層が離反しても日本維新の会支持や国民民主党支持に転換する割合が多いのが実状です。

従ってここまでの結論として、少なくとも現時点においては2009年のような二項対立の与野党対決となる可能性は低く、従って政権交代につながるような流れではないと言わざるを得ません。

一方、中長期的にみれば自民党支持が(総裁選などを経て)復活する可能性や、大阪万博の準備(や開催の成功ないしは失敗)などの状況により日本維新の会の支持率が低下するなどして、与野第一党による一騎打ちの構図が強まれば、ダイナミックな支持層の転換を伴う(=政権交代もあり得る)選挙になるでしょう。ただ、自民党総裁選の時期(今年9月)や大阪万博の成功失敗を占う時期(来年春)という要素のタイミングを鑑みれば、少なくとも半年以上先のことでもあり、未だ不透明ともいえます。

なお、この設問では、「あなたは自民党の政治資金パーティーをめぐる問題を受けて」という文言が入っているため、回答者に「自民党に投票する」と回答しにくくなる恣意性のバイアスがかかる可能性があります。ただし、それを割り引いてみても、この回答傾向からは自民党支持層の一定程度が次回衆院選で離反する可能性が示唆され、その動向として維新、国民民主の順に流れるという流れは確かでしょう。

公明党の内閣不支持姿勢は強まっている

『政党支持と内閣支持の比較』 GS調査センター「内閣支持率調査」(2024年2月23-25日)をもとに、筆者が図表作成
『政党支持と内閣支持の比較』 GS調査センター「内閣支持率調査」(2024年2月23-25日)をもとに、筆者が図表作成

さらに気にしなければならないのが、公明党支持層の内閣不支持姿勢が強まっていることです。公明党支持者は世論調査において、支持政党も比例投票先も「公明党」と回答する傾向が強く、小選挙区での投票行動は個別の情勢調査でないと読みとくことが困難です。

一方、今回の調査では「内閣支持・不支持」と「支持政党」のクロス分析により、公明党支持層の内閣支持率をみることができますが、公明党の内閣支持率は18.4%と、教育無償化を実現する会(14.3%)や日本維新の会(13.2%)、国民民主党(11.7%)よりは高いものの、20%を下回り、自民党支持層よりもだいぶ低い結果となりました。また、「わからない」という回答者が14.3%と他支持政党者よりも2倍近く高いことから、公明党支持層に潜在的な不安や疑問が広がっているとみられます。

グータッチをする岸田首相と山口公明党代表
グータッチをする岸田首相と山口公明党代表写真:アフロ

この背景には、自民党の各種不祥事に加え、政策上の問題も絡みます。「平和と福祉の党」を標榜する公明党は、防衛や安全保障、武器輸出などの政策において自民党と波長が合わない場合があります。国会審議だけをみた場合、最終的には与党間合意がなされて法案提出などに至るわけですが、以前からこれらの政策において創価学会の教えとの乖離による投票行動における離反の可能性が指摘されており、大きな課題とされてきました。

連立政権を解消する動きまでには至っていないことから、小選挙区の投票先は与党候補という流れに影響が出るとは考えにくいものの、公明党支持者内での同様があることを踏まえれば、一部の層が野党候補に転換しないまでも投票棄権などといった転換はあり得るとみられます。

自民党は支持離反層をどのようにつなぎ止められるのか

自民党の支持者離反防止施策は限られている
自民党の支持者離反防止施策は限られている写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

今回の調査結果は、あくまで2月現在のものです。この後に自民党青年局による不適切な会合の報道などもあり、さらに支持率が下がっていたり、支持離反が進んでいる可能性もあります。

自民党は選挙に向けて、従来の自民支持層をつなぎ止める方策が必要です。政策面においては、今年の党大会にも盛り込まれる「憲法改正」などイデオロギーに関連する政策を前面に進めることで岩盤支持層を固めるほか、来年の参議院議員選挙を見据えて活動を開始する職域団体・友好団体との政策勉強会など結束の確認が重要になってきます。

さらに選挙戦術という観点からは、今回の一連の問題でダメージを負っていない政治家を温存し、選挙戦の際に「若返り・改革」を旗印に打ち出すことが効果的でしょう。中堅若手の国会議員のなかには、これだけ多くの党幹部が名指しで指摘された派閥パーティー券の問題や、その流れによる派閥解散の動きを受けて、中堅若手が中心となって選挙を盛り上げていく新たな選挙戦を模索しています。

期せずして自民党そのものの世代交代のタイミングと捉えたとき、今回の派閥パーティー券の問題と関わりのない人気議員や閣僚経験者が有権者の人気を集めて選挙戦後に改革を打ち出して遊説などをすることが、最終盤の浮動票獲得につながることになるとみられます。そのような「ニューヒーロー」に誰がなり得るのかが関心事ですが、今年9月にも行われる自民党総裁選こそ、そのヒーローを選ぶ場になるかもしれません。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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