サル痘の流行について 現時点で分かっていること
5月から欧米を中心にサル痘の患者が増加しています。
サル痘は天然痘に似た特徴を持つウイルス感染症です。
これまでに分かっている流行状況と、サル痘に関する基本的な情報についてまとめました。
現在の流行状況は?
2022年6月23日現在、世界で3557例のサル痘患者が報告されています。
内訳は、イギリス794例、ドイツ592例、スペイン520例、フランス330例、ポルトガル328例とヨーロッパで症例の大半を占めており、それ以外には、カナダ223例、アメリカ173例と北米でも患者数が増加しています。
現時点では、日本国内ではサル痘患者は報告されていませんが、近隣国である韓国やシンガポールでも報告されており、日本で報告されるのも時間の問題かもしれません。
これまでに分かっている確定例は大半が男性患者であり、20代から40代の比較的若い世代に多いことも特徴です。
例えば、イギリスでは症例の多くが20代〜30代の男性に集中しており、女性の報告数はわずか3例にとどまっています。
その理由として、今回の感染者のうち、ゲイやバイセクシュアルなど男性とセックスをする男性(MSM)の間で発生したケースが多いことが指摘されています。
イギリスでは症例の大半(96.0%)はゲイ、バイセクシャル、または男性とセックスする男性であり、性的ネットワークでの感染が強く示唆されています。
今回の流行で検出されたサル痘ウイルスを調べたところ、2018年にナイジェリアで分離されたサル痘ウイルスから大きく分岐しており、感染性が増加しているのではないか、という研究が報告されています。
また、今回のサル痘の流行は単一の発生源から複数回の感染イベントが起こったものであり、Superspreading Event(超拡散イベント)と呼ばれるイベントや海外渡航によって世界中に拡大していると考えられる、と述べられています。
サル痘ってどんな病気?
サル痘は、1970年にコンゴ民主共和国で初めてヒトでの感染例が報告されたサル痘ウイルスによる動物由来感染症です。
サル痘という名前ですが、サルも感染することがあるというだけで、もともとの宿主はネズミの仲間のげっ歯類ではないかと考えられています。
サル痘ウイルスはアフリカの異なる地域にそれぞれ別の系統が分布しています。
コンゴ民主共和国などの中央アフリカのサル痘ウイルスよりも、ナイジェリアなどの西アフリカのサル痘ウイルスの方が病原性が低いことが分かっています。
これまでに報告されているサル痘患者の大半はアフリカからのものですが、近年はアフリカでのサル痘患者が増えているとナイジェリアやコンゴ民主共和国などから報告されており、天然痘の根絶後、種痘の接種歴のある人が減っていることでサル痘患者が増加してきているのではないかと懸念されていました。
サル痘の症状は?
サル痘は1980年に世界から根絶された「天然痘」に病態がとても良く似ており、症状だけでこれら2つの疾患を鑑別することは困難と言われています。
しかし、サル痘では人から人へ感染する頻度は天然痘よりも低く、また重症度も天然痘よりもかなり低いことが知られています。
オランダの症例から算出された潜伏期は平均8.5日で、95%の人は17日以内に発症しています。
アメリカで報告された17例で頻度が高かった症状としては、皮疹(100%)、だるさ(76%)、寒気(71%)、リンパ節の腫れ(53%)、発熱(41%)、体の痛み(35%)、のどの痛みまたは咳(29%)、などでした。
通常、サル痘では全身に発疹がみられるとされていましたが、今回のアウトブレイクでは性器や肛門周辺にのみ発疹がみられた事例(※実際の病変を含むリンクですのでご注意ください)も報告されています。
アフリカにおけるサル痘患者の致死率は約1〜10%とされていますが、今回のアウトブレイクを起こしているのは西アフリカクレードという比較的重症度の低いサル痘ウイルスによるものであることが分かっていますが、これまでに1名の方が亡くなったと報告されています。
サル痘の皮疹は天然痘と非常に似ており、水疱という水ぶくれが見られることが特徴です。
同様に水疱が見られる水痘(水ぼうそう)では、水ぶくれの時期、かさぶたになった時期など様々な時期の皮疹が混在しますが、サル痘や天然痘では全身の皮疹が均一に進行していくのが特徴です。
天然痘と比べると、サル痘では首の後ろなどのリンパ節が腫れることが多いと言われています。
治療は原則として対症療法となります。
アメリカやイギリスなど海外ではシドフォビル、Tecovirimat、Brincidofovirなど天然痘に対する治療薬が承認されており、実際に投与も行われていますが、日本ではこれらの治療薬は現時点では未承認です。
サル痘の予防は?
サル痘は、
・サル痘ウイルスを持つ動物に噛まれる、引っかかれる、血液・体液・皮膚病変に接触する
・サル痘に感染した人の飛沫を浴びる(飛沫感染)
・サル痘に感染した人の体液・皮膚病変(発疹部位)に触れる(接触感染)
によって感染することが分かっています。
前述の通り、今回のアウトブレイクでは、ゲイやバイセクシュアルなど男性とセックスをする男性(MSM)の間で発生したケースが多く、性交渉の際の接触が感染の原因になっていると考えられています。
種痘(天然痘ワクチン)はサル痘にも有効です。
コンゴ民主共和国でのサル痘の調査では、天然痘ワクチンを接種していた人は、していなかった人よりもサル痘に感染するリスクが5.2倍低かったと報告されています。
しかし、1976年以降日本では種痘は行われていませんので、昭和50年以降に生まれた方は接種していません。
イギリスでは、今回の流行を受けて、サル痘ウイルスに曝露するリスクの高い性的活動性の高い男性に対して天然痘ワクチン(Imvanex)接種を推奨しています。
日本国内では6月26日時点でまだサル痘患者は報告されていません。
また、サル痘の症状は日本でもよくみられる水痘(水ぼうそう)や性器ヘルペスといった感染症の症状と非常によく似ており、見た目では必ずしも区別できないことがあります。
ご心配な場合は、かかりつけ医など医療機関や保健所に相談しましょう。