韓国の鬱陵島への海兵隊配備の狙いは北朝鮮?それとも日本?
韓国海兵隊司令部は10月11日、竹島(韓国名:独島)から西方に約90キロ離れた韓国領の鬱陵島(ウルルンド)に2018年から中隊か大隊規模の海兵隊部隊を巡回配置する計画を明らかにした。この配備計画は国会国防委員会に提出した業務資料で明らかになった。この配備計画は果たして朝鮮半島有事に備えたものなのだろうか?
仮に北朝鮮の特殊部隊が潜水艇やホバークラフトを使って、鬱陵島に上陸、占拠してここを拠点に韓国を背後から攻撃する可能性も決してセロではない。従って、この配備が軍事的挑発を繰り返す北朝鮮への警戒や圧力と言えなくもない。
しかし、北方限界線(NLL)上にある目前の西島5島と違って、地理的にも遥か遠い鬱陵島は戦略的、軍事的拠点にはなり得ない。また、朝鮮半島の危機は2年後には去っているかもしれない。そう考えると、配備の狙いは、竹島が韓国の「独島」であることを認めない日本を牽制することにあるのだろう。
韓国が鬱陵島に海兵隊を配備するのは、仮に「竹島有事」となった場合、日韓の海軍艦艇が本土の海軍基地から同時出航した場合、韓国側が43分~96分遅れて現場に到着することから鬱陵島に海軍前進基地を建設すべきとの議論と無関係ではない。国防委員会に所属していた与党・ハンナラ党のチョン・ミギョン前議員(今春の選挙で落選)の調査では仮に鬱陵島に海軍基地を建設すれば、1時間35分以内で対応が可能とのことだ。
日韓首脳会談が辛うじて実現し、日韓間に関係改善の兆しが芽生えた矢先の昨年11月、韓国海軍は竹島周辺海域で水上艦や誘導弾高速艦などの艦艇約10隻と、P3c哨戒機や対潜ヘリコプター「リンクス」などの航空機を投入し、海上で防衛訓練を実施したことがその証左である。海軍と海洋警察による「独島防衛訓練」は毎年春と秋に行われているが、国名は特定されてないものの領有権を競う日本による占拠、奪還を想定した訓練であることは誰の目にも明らかだ。
一般には知られてないが、韓国は海だけでなく、竹島上空を含む東西90キロ、南北110~55キロの範囲を軍事訓練空域に指定している。日本政府は「我が国固有の領土である竹島に韓国が軍事訓練空域などを設定できない」として、韓国政府に指定取り消しを要求しているが、韓国は拒否したままだ。韓国はこと領土については強硬である。
韓国の漁船が海上保安庁に相次いで拿捕される事件が発生した1997年当時、韓国国民の怒りが最高潮に達した時があった。国民の一部には「日本の横暴は武力行使に等しい」「拿捕を宣戦布告とみなし、相応の措置を取るべきだ」「独島海域を侵犯する日本の警備艇に向けて韓国も威嚇射撃をすべきである」との声が沸き起こったことがあった。折しも、「ムクゲの花は咲いたか」が出版され、ベストセラーとなったことに触発されたのか、韓国出版界では「97大侵攻」、「韓日戦争1999」など日韓戦争シミュレーションものが続々出版され、話題となった。
「ムクゲの花」は資源をめぐって日韓が衝突し、「97大侵攻」は大地震が原因で日本に軍国主義が復活し、韓国に侵略するという想定となっていた。「ムクゲの花」では韓国と北朝鮮と共同開発した核ミサイルを日本の5大都市に向け発射し、「韓国の勝利」で小説は終わっている。
日本を「仮想敵国」としたこれら戦争ものが韓国で読まれたのは日本に対する過去の恨みを小説で晴らそうとしていたのかもしれないが、領土をめぐる対立がエスカレートすれば「空想物語」では済まなくなる。
日本にはほとんど伝えられなかった事実だが、かつて韓国の軍事問題研究所から「世界の諸島紛争と独島シナリオ」という論文が発表されたことがあった。興味深いことに論文は日本との軍事紛争という最悪のシナリオに備えて、韓国政府が取るべき幾つかの方法まで示されていた。
論文は、日本の独島に対する武力挑発は国際法上違法ではないこと、日本が国際世論を無視してまで武力行使をする可能性は低いが、決して油断しないことを国民に喚起したうえで「最悪のシナリオ」に備え「独島警備を警察から軍に代替し、軍人の駐屯も検討すべきである」と提言していた。
韓国には▲自衛隊の装備が韓国のそれよりも上回っている▲海外へのPKO派遣で自衛隊の海外進出の道が開かれた▲有事立法、周辺事態法の成立により日本列島周辺で有事が発生した場合、自衛権の行使が可能となった▲戦争を放棄した憲法9条の改憲論議が浮上している▲国際的発言力を高めるため国連常任安保理への加盟を目指している▲日本全体が右傾化している点などを挙げて、日本の脅威を感じている国民が少なくない。
「いつの日か、日本はやって来る」――これが、韓国が過剰に警戒する最大の理由なのかもしれない。