外国人留学生がコロナ禍で苦戦する日本の就職活動とは
新型コロナウイルス感染拡大は日本でもワクチン接種がスタートしてようやく明るい兆しは見えてきたものの、まだまだ社会全体の混乱は続き今後の経済状況は不安が残る。そして週明けの3月1日には政府のルール化で形骸化しているとは言え22卒向けの新卒採用が本格的にスタートした。そんな中、外国人留学生の日本就職が新型コロナウイルスの影響で大きく変化しているようだ。
留学生30万人計画の達成の裏側で起きている現実
2008年7月に日本政府によって公表された「留学生30万人計画」は教育視点よりも産業視点と指摘する声もあるが本来は日本のグローバル化戦略の一環であり、高度人材を育成し知的国際貢献を果たすことが趣旨とされている。
日本学生支援機構は2020年4月には、2019年5月1日時点で日本の大学や日本語学校などに在籍する外国人留学生が31万2214人で過去最多を更新したと発表した。つまり2020年までに留学生30万人を目指す政府の計画が達成されたことになる。ところが新型コロナウイルス感染拡大で帰国する留学生や来日できなくなるケースが相次ぎ、状況はまた変わってしまっている。
外国人留学生の日本就職は難易度が高い
福岡を拠点に外国人留学生にキャリア支援を実施し、SNSのフォロワーは12万人を超える一般社団法人YOU MAKE IT 代表理事 楳木健司氏に外国人留学生の日本就職の現状について話を伺った。
――コロナ禍で外国人留学生の日本就職に影響は出ている?
コロナ以前から日本就職は厳しかったのが、さらに厳しくなりました。勿論、新型コロナウイルスの影響は大きいのですがまず外国人留学生についての理解を深めて欲しいと考えています。一般的に外国人留学生は名だたる日本の大学に在籍する外国人留学生をイメージすると思いますが、彼らは国費留学や裕福な家庭で育ち、教育の基礎があり、日本語レベルが高い人も多く「高度人材」と表現されます。一方で、大半は日本語学校や専門学校で言語をゼロから学ぶ「ミドル人材」と表現される外国人留学生であり、通常の就職活動の流れに乗ることは出来ません。
――ミドル人材は日本の就職活動のどこが難しい?
そもそも海外に日本のような一括採用と言われるような就職活動文化がない為、それを理解することがひとつの壁です。合わせて言語、特に就職情報は外国人留学生向けに記載がないのでオブラートに包んだような表現の真の意味をくみ取ることが出来ないのです。更に企業から内定をもらえても、次に在留資格の壁が立ちはだかります。
さらに就職サイトでエントリーしているのに「応募」するのはなぜ?「お祈りメール」とは何なのか?彼らにとって、就職活動を通じて理解が難しい言葉や慣習があまりにも多すぎるのです。そしてコロナ禍のいま、外国人留学生にとって日本就職の採用枠は大幅に縮小しています。そのため、母国に帰らざるを得ない外国人留学生が本当に多くなっていますし、海外からは「いつになったら日本に行ける?」といった相談もこの1年本当に増えています。
新型コロナウイルスの影響をダイレクトに受ける外国人留学生たち
外国人留学生の中でもミドル人材と言われる彼らの就職先として大きかったホテル、レストラン、観光・販売などのサービス業はコロナ禍で事業そのものが傾き採用枠はほとんどなくなっている状況だ。そんな中、新たなミドル人材の就職先として注目されるのが「介護領域」とのことだが、特定技能介護の試験や日本語検定、ビザ、受け入れ問題など課題が多すぎて前に進めていないのもリアル。
コロナ禍であえて外国人留学生を採用するわけ
引き続き、コロナ禍でビジネスに大きな打撃を受けているホテル業界の中で外国人留学生を採用しているLocal Design Holdings株式会社の代表 河辺健一氏に話を伺った。
――なぜ外国人留学生を社員として採用しようと思ったのか
そもそも日本人、外国人関係ない。はっきりとホテルで働きたいという意思があるのが外国人だった。留学生の母国では観光業が重要な産業であることが多い為、観光業で夢を語ってくれる学生が多く、当社としてもそのような人と働きたいと考えた。また、国籍の枠を外して採用をすると良い人に出会えるチャンスが広がると思います。つまり「外国人」を一つの個性として考えているということですね。
――実際に外国人留学生を採用しての感想は
素直、シンプルに物事を考えていて、今まで社内になかった新しい発想やアイデアが生まれるように感じます。例えば、ホテルのお客様に暑い日は冷たい飲み物をプレゼントしようとか、ファミリー客であれば子供におもちゃをプレゼントしようなど、これまで発想しなかったことがカタチになります。とは言え、当然ですがコミュニケーションは課題であり、分かっているようで業務をすると理解できていなかったりと我々の指示の仕方を工夫しなければいけないという新たな課題も浮き彫りになっています。
多文化共生社会の実現に向けて
留学生30万人計画は達成され、新型コロナウイルスの影響で状況は少し不透明であるものの平時に戻った際には、2018年にすでに訪日外国人旅行者数が3,000万人/年を超え、2019年4月には新たな外国人材の受入れのための在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」が創設され、留学生の他にもさまざまな目的を持った外国人の受入れが進んでいたことを考えれば、Post/Afterコロナは来日する外国人の出身国・地域は、多国籍・多地域になっていくはずです。
となれば、さまざまな目的を持って来日した外国人に日本の魅力をどう伝えるのか?は日本で働きたい人を増やすだけでなく、国や地域同士の関係構築、ビジネス、人の交流発展に大きく寄与します。
就職活動で企業分析をする要素が変わる?
日本は今後、外国人が来日した際に自国との差を感じさせない為の「多文化共生社会の実現」を本当のグローバル化を目指す中では求められます。災害時の外国人向けのアナウンス、日本語を学べる環境整備、商業施設や教育機関にお祈りのための礼拝室の設置することなど、これまでとは異なる文化を受け入れていく必要があり、企業もそのスタンスが問われて来る。
日本の就職活動生が企業選定をする要素の中に本当の意味での「グローバル化」を持っても面白いかもしれない。企業がどれほど柔軟で国際感覚を持ち、自らをアップデートできるのかを図るものさしになるかもしれない。
そして、何より外国人留学生は労働人口が減る(=日本の労働力減少)ことを補う為ではなく、彼らの夢の実現を日本で叶える為の環境整備という意識変革が、日本の本当のグローバル化に繋がるのではないだろうか。
【取材協力】