「攻めの廃線」から4年で交通崩壊 明日廃止の夕鉄バス、「新札幌―新夕張線」を振り返る
2023年9月30日限りで夕張市から札幌市方面を結ぶ夕鉄バスのバス路線が全廃される。廃止となる路線は、新札幌駅前を発着する3路線で、栗山駅前を経由して新夕張駅前に向かう3往復と栗山駅前折り返しの4往復、南清水沢の「りすた」に向かう急行便5往復だ。
原因は深刻化するバスドライバー不足で、10月1日以降は、夕鉄バスは夕張市と市外を結ぶ路線が消滅し、北海道中央バスが運行する高速ゆうばり号3往復のみが夕張市と市外とを結ぶ唯一のバス路線となる。
「攻めの廃線」のほころびで交通崩壊危機の夕張市
夕張市は、石勝線夕張支線の廃止の際、夕張市内のバス路線を拡充し鉄道時代よりもバスのほうがはるかに便利になったと説明してきたが、すでにバスドライバーの高齢化と人手不足の問題を抱えていた夕鉄バスにとっては鉄道路線の廃止によるバス路線の増便は相当な負担になっていたことが推測される。こうしたことから夕鉄バスは、「攻めの廃線」によって増便した夕張市内のバス路線を維持するためのドライバーを確保するために、それ以外の路線を切らざるを得ない状況まで追い込まれていたと考えられる。
なお、夕張市は鉄道の廃止と引き換えに持続可能な交通体系を再構築するための費用としてJR北海道から7億5千万円を受け取っており、その後、南清水沢地区に約10億6000万円の費用を投じて公共交通結節点「りすた」を建設し2020年に開業した。しかし、10月1日以降は「りすた」を発着する札幌方面の路線バスは全廃となり、交通結節点としての役割はわずか3年で終了することになる。
北海道では2019年のJR石勝線夕張支線の「攻めの廃線」以降、道内各地での鉄道路線の廃止が加速しているが、2023年3月31日限りで廃止となった留萌本線については、翌月に沿岸バスが、鉄道代替バスとされた留萌旭川線についてバス路線の存廃協議を行っていることを公表。廃止の方針が決定された函館本線の長万部ー小樽間についても、事前にバス会社との協議なく北海道庁側が一方的に鉄道の廃止を決めたことから、ドライバー不足に苦しむバス会社側は激怒し、バス転換協議は泥沼化している。
道庁は、鉄道廃止後のバス路線の確保もままならない状態で鉄道路線の「攻めの廃線」を進めており、道内各地での交通崩壊を加速させている。ガソリン価格も高騰を続ける中で、近い将来、北海道での交通手段は自家用車一択となりかねない事態を招いており、道民の生活や経済活動への影響が危惧される。
廃止される夕鉄バス「新札幌ー新夕張線」
筆者は2017年12月に夕鉄バス「新札幌―新夕張線」の野幌駅南口―新夕張駅間に乗車している。今回は、廃止される当路線について当時の様子を振り返りながら紹介したい。
夕鉄バスを運行する夕張鉄道は、かつては北海道江別市の野幌駅と夕張市の夕張本町駅の間を結ぶ夕張鉄道線を運行していたが1975年に廃止され、現在はバス専業の会社となっている。その名残か、現在でも野幌駅近くにはバスターミナルを兼ねた夕張鉄道野幌営業所が現在でも営業している。
新札幌駅前から新夕張駅前を結ぶバス路線は、この夕張鉄道線の代替路線で1日3往復が運行されている。新札幌駅前から野幌駅付近までは国道12号線を走行し、野幌駅南口バス停から夕張市内に至る区間ではほぼ旧夕張鉄道線のルートに沿うような形でバス路線が設定されている。
筆者が、区間快速いしかりライナーで札幌駅より野幌駅に到着したのは10時51分のこと。野幌駅南口から新夕張駅前へ向かうバスの始発便は11時07分発とやや遅い。定刻通りであれば、新夕張駅前への到着時刻は13時31分で、野幌駅南口―新夕張駅前間の所要時間は2時間24分にも及ぶ。
野幌駅を降り立つと、天気は雪で辺りにはしんしんと雪が降り積っている状態で、こうした中、吹きさらしのバス停で新さっぽろ駅前からやってくるバスを待つことになった。天候が悪かったことからバスの遅延を心配したものバスはほぼ定刻通りに到着した。
車内の乗客は8名ほど
野幌駅南口からバスに乗車したのは筆者を含め4名。発車時点での乗客数は、すでに新さっぽろ方面から乗車していた乗客を併せて8名であったが、間もなくして到着した野幌バスターミナルでは新さっぽろ方面からの乗客4名が下車し2名が乗車。野幌駅南口から夕張方面に向かう乗客は筆者を含め6名となった。バスの乗客層は高齢のご婦人が大半だ。
江別市野幌から夕張市までの距離は約50km程度で、クルマであれば一般道経由でも1時間程度でアクセスが可能である。そうしたことからバスの利用者は、クルマの運転ができないいわゆる交通弱者に限られてしまっている印象だ。
バスは、江別駅前でさらに数名の乗客を拾うが、江別市街地の終端部であるあけぼの団地までの間に大半の乗客が下車してしまい、あけぼの団地を超えて夕張方面に向かう乗客は筆者を含めて2名のみとなってしまった。
鉄道存続も模索された野幌―栗山間
江別市は約12万人の人口を擁し旧夕張鉄道線沿線の中では最大の人口を誇る。しかし、江別市の市街地を抜けてしまうとそこには広大な雪原が広がる地となってしまい、その後、南幌町と長沼町北長沼地区の小規模な市街地を2カ所通る。
そして、野幌駅南口を発車してバスはおよそ1時間で室蘭本線の栗山駅前へ到着。途中の南幌で乗客1名が下車してしまい、栗山駅前には筆者1名で到着した。栗山駅は夕張鉄道線現役時代も国鉄線との接続駅であり、現在でも栗山駅からは苫小牧方面と岩見沢方面への乗り換えが可能である。
栗山駅前では、バスが数分間停車をするということであったことから、この停車時間を利用して筆者は運転士さんからバス回数券を購入。1100円分の金額式回数券が990円で販売されていた。なお、野幌駅南口―新夕張駅前間のバス運賃は1800円である。
夕張鉄道が廃止された1975年当時、札幌都市圏の拡大が著しかったことから、野幌―栗山間だけでも鉄道として存続できないかという声があり、沿線自治体の南幌町では役場内に鉄道存続のための部署まで設けられて存続の道を模索していたが、結果として実現しなかった。野幌―栗山間の距離は約20km。夕鉄バスでの所要時間は約1時間であったが、夕張鉄道時代は最速25分で結ばれていた。野幌―札幌間はJRの普通列車が20分弱で結んでいることから、野幌―栗山間を鉄道として存続させ札幌に直結できる路線にすれば、沿線に大きな発展をもたらせたことは想像に難くない。
旧夕張鉄道新二股駅舎が残っていた
栗山駅からは、また高齢のご婦人をこまめに拾いながらバスは夕張へと向かって走り出す。旧夕張鉄道線の跡地は、野幌―栗山間はそのほとんどが空知南部広域農道「きらら街道」へと姿を変えてしまったが、栗山から夕張市内にかけては鉄道の路盤がそのままサイクリングロードに転用されているのは対象的で、バスの車窓からは舗装された廃線跡の路盤が時折垣間見える。途中、現存している旧夕張鉄道新二股駅の駅舎も車窓から眺めることができた。
そしてバスは二股峠へと差し掛かる。夕張市は、明治時代、標高の比較的高い山中に石炭採掘を目的として当時の国策によって建設された都市であった。夕張市へ向かう二股峠は一方的な上り坂となっており、夕張鉄道線の現役時代は、峠の中腹に錦沢駅を設置し三段スイッチバック方式によりこの峠を克服し、夕張炭鉱から小樽港へ向かう石炭の鉄道輸送を支えていた。
夕張市内の乗客は敬老パスがメインだった
峠を登り切りやや長い夕張トンネルを抜けると、原野が広がるそれまでの風景や嘘のようにいきなり市街地の中へとバスは入った。夕張市内に入るとバスは、夕鉄本社前ターミナルに到着。夕張市内では敬老パスを持っているご婦人をこまめに拾いながら夕張市内を循環。その後、スーパーマーケットのある南清水沢駅前で大半の乗客を降ろした後、バスはほぼ定刻通りの13時31分、終点の新夕張駅前へ到着した。
(了)