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出でよ!令和の政策新人類…塩崎恭久議員の政界引退表明を受けて考えたこと

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
国会で答弁する塩崎恭久氏(写真:つのだよしお/アフロ)

 厚生労働大臣や官房長官を務めた衆議院議員の塩崎恭久氏が、年内恐らくは秋に行われる、次期衆議院総選挙に出馬しないことを決めた。

 この件については、様々なメディアでも取り上げられているので、その事実を知っている読者も多いだろう(注1)。

 最近はほとんど使われなくなったが、「政策新人類」という言葉がある。

 「政策新人類」とは、「平成10年(1998)のいわゆる金融国会で焦点となった金融機関の不良債権処理や破綻処理をめぐる与野党協議で中心的な役割を果たし、金融再生法の成立に貢献した当時の若手議員を指した言葉。民主党の枝野幸男・池田元久・古川元久、自民党の石原伸晃・塩崎恭久・渡辺喜美(当時)ら」(注2)を指す言葉である。

 その言葉に該当する方々の多くは、議員歴が重なるうちに、政治や政党において、その比重を政策から政局や政治におけるマウンティングあるいはポジションニングに重点を移した。政治ではパワーや影響力のゲームであることを考えると、それはある意味当然のことだ。しかし、塩崎議員は、飽くまでも政策に拘ってきた。現在もそのことには一片の変わりもない。その意味では、塩崎議員は、今も紛れもなく、政界において正に絶滅危惧種とも言ってもいいかもしれない、「政策新人類」だ。

塩崎氏は政界でも数少ない国際派でもある
塩崎氏は政界でも数少ない国際派でもある写真:ロイター/アフロ

 政治においては、本来は政策は重要だ。人が政治家としての議員を目指すのは、本来は自身の信じる政策を実現して、社会を変えたいから、社会を良くしたいからというのが、理想だろう。だが、現実の政治はそうではない。多くの政治家は、議員歴を重ねるうちに、いつしか政策への関心を失い、政党や国会・内閣での地位や役職を上げることにのみ汲々となっていくのである。

 だが、塩崎議員はそうでなかった。政党や国会あるいは内閣でのポジションを上げること以上に、政策やその内容に拘った。それは、時に政治や行政との軋轢を生むこともあったし、周囲への大きな負担等を生むこともあったが、塩崎議員は、飽くまで政策そのものに拘り、自身の信じる社会実現のために奔走した。

 実際に、塩崎議員の政策への執念があればこそ、実現した政策も多い。例えば、次のようなもの(一部)があげられよう。

・日本の企業統治を大きく変えた日本企業へ社外取締役の導入

・国際会計基準IFRSの導入による会計監査の厳格化

・子どもの人権を日本ではじめて認めた児童福祉法改正

・年金積立金管理運用独立法人(GPIF)の改革

・社会福祉法人への監査導入

・「保険医療2035」の策定

・憲政史上初の国会における民間の専門家による独立調査委員である国会原発事故調査委員会の設置

・原子力規制委員会の創設

 塩崎議員は、政界引退表明までもまたその後の今も、様々な政策案を訴え、活動を続けている。まさに今も「政策新人類」であり続けているのである。

 筆者も、塩崎議員との知己はすでに20年をかなり超えており、同議員を通じて、政党、国会そして行政などの現場での様々な経験や知見を得ることができた。その点で大いに感謝している。

 他方、塩崎議員の政策にかける尽きることのない情熱の発露は、大変高い水準や効率性を要求するもので、厳しい経験もさせていただいた。ただ、塩崎議員は、他者に厳しいだけではなく、自分にも非常に厳しく、寝る間も惜しんで絶えず学び続け、愚直にも科学的なデータを求め、多くの専門家や現場の方々などから複数かつ多面的な意見を真摯に聞き、得ようとしてきた。そして、データや専門性を重視すると共に、現場の現状の把握に真剣に取り組んでいた。

 筆者は、いろいろなことがあったが、その真剣かつ真摯な姿勢には塩崎議員をいつも敬服していたし、信頼することができた。そして可能なところでは絶えずサポートしたいという気持ちが失われることはなかった。

 そんな塩崎議員が政界を引退することを決めたことは、議員個人の様々な事情もあるのだろうが、年齢的にもまだまだやれることを考えると、政策的にもまた個人的にも大変惜しい気がする。様々な政策実現や場面において、塩崎議員と共に活動してきた多くの議員、官僚、専門家や市民も同じような気持ちだと思う。

塩崎氏の政策への情熱が失われることはない
塩崎氏の政策への情熱が失われることはない写真:ロイター/アフロ

 最近、塩崎議員と話す機会があった。同議員は、今もやる気やエネルギーに満ち、気力も充実し、引退後も政策に関わる活動を続けていくそうだ。正に「政策人」、「政策新人類」であり続けていくようだ。

 多くの国会議員のなかでも、塩崎議員ほど、実際の政策や法律づくりにコミットしたことのある議員は、日本にはそんなにはいない。同議員には、自身の関心ある政策分野もあろうが、それだけではなく、政策や法律づくりのノウハウなどについても、ぜひ社会的にできる限る可視化してもらう活動にも注力していただきたいものだ(注3)。そのことは、市民や国民が、政治や政策づくりにより関われるチャネルを開き、日本をより民主的な社会にすることに貢献してくれるはずだ。

 そして政界を引退した、塩崎さんの民間の「政策人」としての活躍を大いに期待したい。それと共に、政界における令和の「政策新人類」の出現を期待したいところだ。

(注1)例えば、「塩崎元厚労相「引退」で懸念される改革派政治家の『絶滅』」(磯山友幸、現代ビジネス、2021年6月25日)「塩崎恭久(70)引退に見る科学軽視の日本政治の貧困」(鈴木哲夫、サンデー毎日、2021年6月28日)など参照。

(注2)出典:デジタル大辞泉(小学館)

(注3)この意味からすると、塩崎議員が書かれた次のような著書(一部)は参考になる。その意味で、同議員の健筆に今後も期待したいところだ。

『「真に」子どもにやさしい国をめざして…児童福祉法等改正をめぐる実記』(未来叢書、2020年)

『ガバナンスを政治の手に---「原子力規制委員会」創設への闘い』 (東京プレスクラブ新書、2012年)

『「国会原発事故調査委員会」立法府からの挑戦状』 (東京プレスクラブ新書、2011年)

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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