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すべてが「特別扱い」だった玉川徹という先輩のこと。そこに「慢心と油断」は無かったのか。

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

玉川徹先輩に処分が下されたと聞いて驚いた。コメンテーターとして出演する「羽鳥慎一モーニングショー」での発言が事実でなかったことを理由に、出勤停止10日間となったようだ。

安倍元首相の国葬での菅前首相の弔辞について「電通が入っていますからね」という事実に基づかない発言を玉川さんがしたことは、正直かなり意外だった。筆者は、以前「羽鳥慎一モーニングショー」の前身である「スーパーモーニング」で玉川さんとは同じ班にいたこともあるし、一緒に旅行に行ったこともある。そこそこ玉川さんのことは知っているつもりでいたから、まさかそんな脇の甘い失言をするとは思わなかったのだ。

玉川徹さんとはどんな人か。一言でいうと「すべてが特別扱いの、優秀な先輩」だ。その経歴はテレビ朝日の社員としてすべてが異例ずくめである。

通常、同じ番組にずっと1人のスタッフが居続けることはない。しかし、玉川さんはその特異な「立ち位置」を認められて、異例の長期間にわたって「モーニング」に居続けている。

そもそもはコメンテーターではない。情報番組歴が長いディレクターだ。非常に取材力のある、特に官公庁など相手にした取材では驚くほど優秀な先輩だった。本来ならとっくにプロデューサーになるなど管理側に回って当然のキャリアだが、「いつまでも現場にいたい」という自分の希望を押し通して、現場に居続けるためにディレクター兼リポーターという特異な立ち位置を獲得した人物である。優秀すぎるが故に、どちらかと言えば敵も多い。

本来なら、アナウンサーでもない局員が情報番組にレギュラー出演することなどほぼあり得ない。あり得るとしても報道記者出身のコメンテーターくらいで、コメンテーターは自分の専門分野を持ち、原則その分野以外についてのコメントはしない。

記者出身でもないワイドショー畑で、しかもすべての話題にコメントをする「レギュラーコメンテーター」を玉川さんが務めているのは、かなり特別なことなのだ。玉川さんを除いてそんな人物はテレビ朝日にはいないと思う。他の局にも多分いないはずだ。

なぜそんな「特別扱い」が認められたのか?それは玉川さんは驚くほど「数字を持っている」からだ。ディレクター時代から、玉川さんが画面に出るとびっくりするほど視聴率が上がる。それは本当に驚くほどの急上昇ぶりである。だからいつの日か玉川さんは、普通のディレクター出身なのに「レギュラーコメンテーター」として唯一無二な存在になったのだ。

そしてかつては「取材の鬼」としても知られていた。裏取りなど取材のすべてが優れていたから、社内向けの取材講座の講師を務めたこともあるくらいだ。ギリギリを攻めながら、決して問題にはならない裏付けがあったからこそ、彼が自由に発言をすることをテレビ朝日内部でも許してきたのだと思う。

それがどうしたことだろうか?今回の根拠のない「電通が入っている」発言は。そこには玉川さんの慢心や油断がなかったとは言えないのだと思う。玉川さんがまるで「世論の代表」のように記事などで取り上げられることによって、玉川さんにも、周りにいるスタッフにも少し甘えがあったのではないか。

今回わずか「出勤停止10日間」で、その後番組にコメンテーターとして復帰するというのも処分としてはいかがなものなのか。こんなに甘い処分となった裏には、「玉川さんが持っている視聴率」に頼り切ってしまっているテレビ朝日の甘さがありはしないだろうか。

「視聴率男」に自由にやらせて数字を稼ぎ、今後も「玉川さんというキャラクターだより」で番組制作を続けることで、視聴者の信頼を失うことになりはしないのか?

ワイドショーはどうしても報道番組に比べてファクトチェックがしにくい。ましてや出演者の発言内容については、事前にはほとんどなす術がない。玉川さんのコメンテーターとしての番組復帰を急ぐより、個人だよりの番組制作体制をもう一度きちんと見直すべきだ、とOBとして思う。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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