Yahoo!ニュース

伝説の作編曲家・大村雅朗メモリアルコンサート開催 時代を越え輝く大村サウンドが響き渡った2日間

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/サンライズプロモーション東京

『大村雅朗 25th Memorial Super Live』

大村雅朗
大村雅朗

福岡が生んだ伝説の作曲/編曲家・大村雅朗。八神純子「みずいろの雨」(78年)、ばんばひろふみ「SACHIKO」(79年)、松田聖子「青い珊瑚礁」(80年)」、「SWEET MEMORIES」(83年)、佐野元春「アンジェリーナ」(80年)、大澤誉志幸「そして僕は途方に暮れる」(84年)、渡辺美里「My Revolution」(86年)等、数多くのヒット曲を手がけ、1997年6月29日、46歳という若さで他界してから今年で25年。その功績を称えて、9月23日、24日、福岡・キャナルシティ劇場で『大村雅朗 25th Memorial Super Live』が開催された。

佐橋佳幸と亀田誠治が音楽監督を務める

音楽監督は、佐橋佳幸亀田誠治という日本を代表するミュージシャン/プロデューサーの二人が務め、縁の深いアーティストやミュージシャンらが福岡の地に集結し、2日間に渡り“大村サウンド”を響かせ、ファンはもちろんアーティストも、感動の涙を流していた。

砂原良徳
砂原良徳

両日ともオープニングは、ゲストDJの砂原良徳が登場し、リスペクトする大村が手がけた作品を“つなぎ”、空気を作る。砂原はこのライヴに先駆け、9月21日に発売された2枚組レコード『大村雅朗の奇跡~Compiled by 佐橋佳幸 & 亀田誠治~』のリマスタリングを手がけている。音楽監督の佐橋と亀田が登場し、このコンサートでは大村サウンドを「ビックリするくらい再現します」と宣言。

八神純子
八神純子

トップバッターは八神純子。変わらない伸びやかな声で大村との共作「明日に向かって行け」を披露。そして「お互いにとってのブレイク曲」と「みずいろの雨」を歌った。佐橋(G)亀田(B)山木秀夫(Dr)今剛(G)石川鉄男(Mp)斎藤有太(Key)山本拓夫(Sax)のスーパーバンドが作り出す豊潤な音と、八神のパワフルなボーカルがひとつになって、まさに完全再現。「ポーラースター」では、長いアウトロもきっちりと再現していた。「(1979年の曲だけど)歌っていても古い感じが全くしない。それは大村さんのアレンジだから」と、改めて大村のアレンジに感動していた。そして「この歌を新たな気持ちで今歌えることを、大村さんも喜んでくれていると思う」と「Mr.ブルー~私の地球~」を披露した。メロディが持つ力強さをさらに引き立てる大村のアレンジと、それを表現するバンドの素晴らしいアンサンブル。ラスト「DAWN」では八神の瞳に涙が光っていた。

ばんばひろふみ
ばんばひろふみ

ばんばひろふみは「大村さんがスタジオでその場でアレンジした」と大ヒットナンバー「SACHIKO」の制作秘話を披露し、ピアノの名手・羽田健太郎が「即興で作った」美しいイントロの同曲を披露した。「大らかな時代だからこそ生まれた音楽。それを大村さんのサウンドが支えた」(ばんば)。

中川翔子
中川翔子

亀田、松本、中川、佐橋
亀田、松本、中川、佐橋

中川翔子は敬愛する松田聖子の「天使のウィンク」を砂原と今剛と共に披露した。印象的なギターのフレーズを、今があのままの音で奏でる。ここで作詞家・松本隆が登場しトークコーナーに。大村の仕事ぶりと素顔を教えてくれる。「聖子さん、松本さん、大村さんの奇跡のトライアングル」(中川)から生まれた数々の作品の中から、フェイバリットソングを聴かれた松本は「真冬の恋人たち」と答えていた。そして中川はこのトライアングルから生まれた「セイシェルの夕陽」を切々と歌った。

渡辺美里
渡辺美里

大村と19歳の時に出会ったという渡辺美里は、そのスタジオワークを通じて「これぞプロフェッショナルという、音楽に向かう積極的な姿勢を学んだ」と語り、まずは「Believe」を歌い、さらに大村が作曲を手がけた、「それまで行ったことがない世界に歌詞を付けました」と語り「君はクロール」を披露した。「Lovin’ you」のオリジナル音源はこの日のバンドメンバー今剛と山木秀夫が参加している。そしてアルバム『Lovin’ you』を「死ぬほど聴いていた」という亀田は渡辺とこの日が初共演で、様々な思いがステージ上と客席で交差する中、同曲をスケール感のあるボーカルで披露した。大村のアレンジが切なさを連れてくる、大江千里の「Rain」を歌うと、客席に感動が広がっていくのが伝わってくる。そしてあのイントロがあのまま流れてくる。「My Revolution」だ。音粒が立ち、そのひとつひとつから大村への、そしてこの曲への愛情が伝わってくる。渡辺も涙を浮かべながら、小室哲哉×大村雅朗という天才二人が作り上げた、80年代を代表する傑作を歌い上げた。

【day2】

大沢誉志幸
大沢誉志幸

2日目のトップバッターは大澤誉志幸だ。亀田が「この曲を聴いてアレンジャーを目指した」という「そして僕は途方に暮れる」のイントロが流れると、客席から手拍子が起こる。大澤の変わらないハスキーでクールな声と、大村が作った先鋭的なサウンドが重なり、感情が揺さぶられる。ギターのリフが印象的で疾走感のある「e-Escape」に続いて、山木が激しいリズムを刻み「晴れのちBLUE BOY」を披露。さらに「ラ・ヴィアンローズ」「CONFUSION」と畳みかける。ここでトークコーナーのゲスト木﨑賢治氏が登場。大澤、沢田研二、吉川晃司等数多くのアーティストを手がけた名プロデューサーで、当時から大村の音楽を高く評価していた。

槇原、亀田、木崎、大澤、佐橋
槇原、亀田、木崎、大澤、佐橋

木崎氏は「大村さんはいつもオシャレだった。それが音楽にも表れていた」と語り、さらに大澤と共に、「そして~」は他のアーティストに書いた曲だったが、採用されずに残っていたというエピソードを教えてくれた。そして「最初に大澤のデモを聴いた時は、フォークソングみたいと思ったが、大村さんのアレンジで変わった」と語った。ここで槇原敬之がトークに加わり「当時は打ち込みが珍しかったので、どうやって作っているんだろうと大村さんのサウンドには驚くばかりでした」と、やはり大村の音楽に大きな影響を受けていると語っていた。

槇原敬之
槇原敬之

槇原、佐橋、砂原、山本のコラボで「モニカ」のイントロが流れると、客席から歓声が上がる。「僕にはカッコいいタイプの曲がないからこの曲を歌いたかった」と楽しみながら歌っていた。続いて大江千里「Rain」をカバー。前日の渡辺美里とのそれとは違う温度感、空気感で、切なさを醸成させる。

川崎鷹也
川崎鷹也

南佳孝
南佳孝

亀田、松本、南、佐橋
亀田、松本、南、佐橋

シンガー・ソングライター川崎鷹也は、大村作品を歌い継ぐアーティストの一人として佐野元春「SOMEDAY」と八神純子「パープルタウン」を熱唱した。南佳孝は「スタンダード・ナンバー」を披露。南の歌と、太いベースの音が響くポップなサウンドが都会的な薫りを立たせる。「ストライプの雨の彼方」を歌い終えると、作詞家・松本隆が登場。槇原も加わり、南と松本、大村が作る世界観を紐解く。槇原は「南さんの曲は甘いお酒の匂いがする」と憧れを感じていたことを語った。

大村を弟のようにかわいがっていた松本は、大村が作曲し、残した一本のデモテープを持っていた。世の中に出るはずだったその曲は企画が流れ、宙に浮いたまま松本の机の奥で眠っていた。「何とかしないと僕は死ねないと思っていた」(松本)というその曲は、松本が歌詞を書き「櫻の園」というタイトルが付けられ、大村の右腕だった石川鉄男がアレンジを施し、松田聖子が歌うことになった。レコーディング当日、聖子には誰の曲かは告げずに歌録りがスタートした。しかし途中で歌えなくなった。これまで何曲も大村メロディを歌ってきた聖子。松本が紡いだ、大村の死を悼むような歌詞が重なり、気づいたしまったのだ。名曲が生まれた。聖子に歌ってもらえたことを誰よりも喜んだのは大村だろう。

槇原敬之
槇原敬之

そんな曲をこの日は槇原が、切々と歌う。美しいメロディと切ない歌詞、優しいサウンドが相まって大きな感動が生まれる。そしてラストは大村と松本の最強タッグが作り上げ松田聖子が歌った名スタンダードナンバー「SWEET MEMORIES」を情感豊かに歌う。ジャジーで、柔らかで、優しくて、でも凛としていて、この曲の成分を全て掬い上げる歌と演奏に、涙を流している人も。

後日、松本隆がTwitterで、ステージ袖で槇原が歌う姿を見守っている写真と共に、こんな文章を呟いていた。“舞台袖から槇原敬之が歌うsweet memoriesを聴く。佐橋ギター、亀田ベース、今ギター、山木ドラム。とくれば、キーボード弾く大村雅朗の顔が浮かぶんだよ。ぼくは幸せに満ちて、少し笑いながら少し泣いた”――。

笑顔と涙に包まれた二日間だった。ステージに立ったアーティスト、バンド、ゲスト、そしてこのライヴを支えたスタッフ、全ての人の大村への思いが歌と音になって、幸せな空間と時間を作っていた。

なおこのライヴの模様と関係者へのインタビューで構成した番組『#てれふく 福岡が生んだ天才音楽家・大村雅朗特集』が、10月14日NHK福岡(金/午後7時半~)で放送される。

さらに11月20日(日/午後9時~)、このライヴがCS「歌謡ポップスチャンネル」で初放送されることも決定している。

『大村雅朗 25th Memorial Super Live』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事