ベスト8敗退も、「愛されるチーム」に。なでしこジャパン、高かったスウェーデンの「壁」とは
東京五輪につづき、またしてもスウェーデンの高い壁が立ちはだかった。
女子ワールドカップ準々決勝で、なでしこジャパンは同国に1-2で敗れ、ベスト8で大会を去った。
今年に入ってから、スウェーデンと特徴の似たデンマーク、ノルウェーと対戦し、分析や対策は徹底してきた。だが、それは相手も同じ。
スウェーデンは高い位置から日本にプレスをかけ、効果的にボールを保持した。アメリカとのハードな120分間の後、日本よりも1日少ない中4日でこの試合に臨んでいたことを感じさせない、力強い攻守。ボールの運び方も戦略的だった。
ペテル・ゲルハルドション監督は試合後、「(自分たちの武器である)右サイドを生かすために、日本の中盤を“ある場所”に誘導して、左ではまた違う形で攻撃を仕掛けた」と、様々に伏線を張り巡らしていたことを明かした。
日本が試合の入りで後手を踏んだのは今大会で初めてだった。32分に、セットプレーで生まれた混戦から、アマンダ・イレステットに押し込まれて失点。初めて先制された日本は、その後もなかなか流れを変えることができず、連動した動きでパスをつなぐスウェーデンに対し、寄せてもボールを奪いきれないシーンが目立った。
それは、これまでの4試合では見られない光景だった。DF南萌華は、最後の局面では1対1の強さを見せていたが、日本の嫌なところを攻め抜く相手の強さを感じていた。
「よく分析されていて、私たちの3バックの脇を引き出してそこの背後を突いたり、マークをつかみにくい位置に選手を上手く置いてきたり、と守備のところで後手を踏んでしまうシーンが多かった。前半のうちにその流れをなかなか改善することができず、攻撃につなげることが出来ませんでした」
GK山下杏也加の好セーブでいくつかのピンチを凌いだが、後半立ち上がりにコーナーキックから生まれた混戦の中で、MF長野風花の手にボールが当たってしまう。VARを介してPKが告げられ、2失点目。手に当たった瞬間は長野にとってボールはほぼ死角になっていて、不運もあった。問題は1失点目同様、相手が最も得意とするセットプレーを与えてしまった流れにあった。
だが、日本は終盤に猛反撃を見せる。
交代で左サイドに入ったMF遠藤純が起点となり、相手の背後を狙った攻撃でスウェーデンのラインを下げると、MF藤野あおばがドリブルで仕掛けてシュート数を増やしていった。
途中出場のFW植木理子が75分にPKを獲得したが、クロスバーに嫌われてゴールならず。86分には藤野のフリーキックもクロスバーを叩く。攻撃の手を緩めない日本は、池田太監督が80分にMF清家貴子とMF林穂之香を投入すると、2人が絡んだ攻撃からゴールが生まれる。87分に、遠藤が入れたボールを清家が受けて鋭くターン。相手のクリアミスを林が押し込んだ。
アディショナルタイムには、スウェーデン1部でプレーするFW浜野まいかが登場。終盤、4万3217人が入ったスタジアムが日本コール一色に染まり、スウェーデンには強烈なブーイングを浴びせた。
しかし、効果的に時間を使うスウェーデンに対して最後まで一点が遠く、試合は1-2のまま終了。新しい景色を見ることは叶わなかった。
【足りなかった球際の強度】
この試合で先手を取られた要因について、池田太監督はこう振り返っている。
「修正に時間がかかったというよりは、プレスの強度、奪い切る力がチームとしても個人としても、もっと上げていかなければいけないと感じました」
2年前の東京五輪での対戦時に比べると、日本は個々がフィジカル面で逞しくなり、チームとしても5バックに変えてから戦い方の幅が広がった。だが、欧州リーグの強度の高さを肌で知るDF熊谷紗希は、埋められなかったスウェーデンとの差について、球際の強度を挙げた。
「(スウェーデンの)足の長さだったりスピード感の中で、自分たちが戦えないといけないと思うし、もっと余裕がないといけない。そこが伸びれば、必然的にチームとしても伸びてくると思うので、そこはもっと成長できる点だったと思います」
スウェーデンは、欧州のトップリーグで日頃から高強度でプレーしている選手が多く、前線のS・ブラックステニウスやF・ロルフォ、K・アスラニなど、主力メンバーを変えずにチームとしても成熟してきている。4大会連続準決勝進出という実績は、他の国とは一線を画す安定感だ。
それでも、以前の対戦時に比べれば、チームとして手応えを得た部分もあったようだ。
熊谷は「なでしこジャパンが世界と戦えない、とは思わせない大会にできたと思う」と言い、南も、「スウェーデンも成長していて、私たちはまだそこに達しなかった。でも、差は縮まっていると感じました。この負けを無駄にしないようにしたいです」と、顔を上げた。
【個の成長とチームの底上げを示した大会に】
今大会の日本は、個とチームの底上げを示し、1試合ごとに他国からの評価を高めていった。スウェーデン戦前には、日本を優勝候補に挙げるメディアもいくつかあったほど。スタジアムには日本のユニフォームを着た外国人があふれ、現地の電車やバスに乗っていても、見知らぬ人々から「日本いいよね!応援しているよ!」と、何度も声をかけられた。
海外組を中心にした中盤と最終ライン、そして守護神の山下の安定感が守備を支えていたが、WEリーグで活躍する国内組も、負けじと存在感を示した。
4試合に先発したFW田中美南のポストプレーと、周囲を生かすゲームメイクはどの相手に対しても脅威となっていたし、5試合で5得点を挙げたMF宮澤ひなたが今大会で世界に衝撃を与えたことは間違いない。19歳の藤野も、プレーヤーとしての市場価値を大きく高めたはずだ。藤野は毎試合、自身が体感したことを細部まで言語化し、自分のものにしていった。それこそが、藤野の底知れぬポテンシャルの証でもあると思う。
試合後は泣き腫らした顔をしていたが、しっかりした口調で、日本の敗因をこう分析した。
「スウェーデンは今までの相手と違って、ボールを取られてからの守備に対する意識が高くて。ボールを前に運ぶためにはスピードだけじゃどうにもならないと前半に感じて、アイディアを加えなきゃいけないと思ったのですが、カウンターの局面に関して攻撃の糸口が見つけきれなかった。もっとタッチ数が少なかったらよかったのか、人との距離感が近ければ良かったのか、というところは、チームでコミュニケーションを取りきれなかった部分です。でも、後半は前のめりに守備をすることで、ボールを奪うのが高い位置になって、中の人数も増えて得点が生まれたのはよかったです。でも、そこにいきつくまでに、失点してからでは遅かった。準備が足りていなかったとは思わないですけど、(これまでの試合で)カウンターで得点できていたことが自信につながって、ちょっと浮かれてしまっていたのかもしれません。それが、敗因の一つでもあるかなと思います」
今大会は、W杯優勝歴のあるドイツと東京五輪優勝国のカナダがグループステージで姿を消し、3連覇を目指していたアメリカと、欧州選手権優勝歴のあるオランダがベスト16で大会を去った。一方で、ジャマイカやモロッコ、コロンビアなどが歴史を塗り替えた。
日本はベスト8に残った国の中では、唯一のW杯優勝国だった。つまり、今大会はどこが優勝しても新王者となる。世界の女子サッカーの勢力図は、着実に変化しつつある。
ベスト4に残ったのはスペイン、スウェーデン、オーストラリア、イングランドの4カ国。女子サッカーの歴史を変えることになるであろうラスト2試合を、最後まで堪能したい。