聞こえ続けた女子中学生の悲鳴…北朝鮮「残酷病院」での出来事
国連総会本会議は今月15日、北朝鮮の組織的かつ広範な人権侵害を非難する決議案を、投票なしのコンセンサス方式(議場の総意)で採択した。同種の決議採択は2005年から18年連続だ。
決議は◇拷問、恣意(しい)的な拘禁、性暴力◇政治犯の収容所◇強制失踪◇移動の自由の制限◇北朝鮮に送還された脱北者の処遇◇宗教・表現・集会の自由の制約――などを列挙し、北朝鮮の組織的かつ広範な人権侵害を「最も強い言葉で糾弾する」とした。
文言は概ね既存の決議文書を踏襲したものだが、新たな指摘もある。そのひとつが女性差別とドメスティックバイオレンス(DV)の深刻化だ。
一方、国連で北朝鮮の人権問題を担当するエリザベス・サルモン特別報告者も、自らの任期中に北朝鮮女性と少女の人権情報を重点的に扱うと明らかにしている。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
そして、北朝鮮女性の人権問題の中でも特に重大視されているのが、中国への人身売買と、強制送還された女性に対する虐待だ。脱北に失敗して送還された人々に対する虐待は女性に限ったものではない。しかし女性の場合、中国で現地の男性との間で妊娠していた場合、強制堕胎されるという深刻な状況がある。
この問題は、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が折に触れて報じるなど、米国での関心も高い。RFAは最近、北朝鮮国内のある病院で麻酔薬もなしに堕胎手術を受けた女性が、同じ状況に置かれた中学生の少女の悲鳴が「隣室から聞こえ続けていた」と証言したショッキングな情報を伝えている。
また、脱北者の強制送還は、中国が問題の当事者となっている。
国連などはこれまで、中国に対して脱北者の強制送還をやめるよう説得を続けてきた。中国は北朝鮮との間で結んだ犯罪人引渡に関する条約を強制送還の根拠としている。しかし中国は「難民の地位に関する条約」と「拷問禁止条約」に加入しており、それらの条約は、国内法に優先して難民の強制送還禁止を順守すべきことを定めているのだ。
それにもかかわらず、中国は頑として脱北者を難民として認めようとしないのだが、人権問題で中国と激しくぶつかる米国が、いずれこの点に注目するようになる可能性は低くない。
バイデン政権の外交課題の中で北朝鮮は、ウクライナ問題や台湾問題と比べ優先順位が低い。しかし何らかのきっかけが生じれば、人権問題がテコになり、北朝鮮問題の重要度が急浮上することもあり得るだろう。