ニンテンドースイッチの後継機種 「発表が遅い」なぜ?
任天堂が家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の後継機種について、今期中(~2025年3月)にアナウンスすると発表。その後、私のもとに「結局、いつ発売になる?」「遅くない?」という問い合わせがいくつもありました。そういえば、任天堂がアナウンスをする前から「後継機はいつごろ?」「発表が遅いのはなぜ」という質問もありました。なぜ「発表が遅い」のでしょうか。
◇後継機種の発表 「遅い」のは事実
ところで、後継機種の発表は本当に遅いのでしょうか。任天堂の家庭用ゲーム機で、これまで後継機種の発売されるまでの間隔が一番長かったのは「ファミリーコンピュータ」から「スーパーファミコン」のときの7年4カ月でした。スイッチの後継機種が、今年7月までに発売されなければ……という条件付きですが、「遅い」というのは事実です。
では、なぜ遅いのか。答えはシンプルで「スイッチのソフトが、いまだにかなり売れているから」です。
多くの記事では、ゲーム機の売れ行きについて触れる時、ほぼゲーム機の出荷数で論じます。そのため、ゲーム機の出荷数が頭打ち、下がってくると、次のゲーム機がいつ出るのか?……という話になりがちです。
ですがゲームビジネスのポイントは、利益率の高いソフトがどれだけ売れるかです。もちろんソフトが売れるためにゲーム機の普及は重要なのですが、最終的にはソフトが売れてこそ。
ニンテンドースイッチのソフトは3月末時点で、12億2000万本以上。社会的現象になった「Wii」や「ニンテンドーDS」の各ソフトも売れはしたものの、最終的には累計10億本に届かなかったので、その爆発ぶりが分かります。
◇4期連続でソフト年2億本出荷 わずかに届かず
スイッチのソフトですが、年度ごとに見ると、3期連続で年間2億本以上を記録し、2024年3月期もほぼ2億本売っていて、4期連続の年間2億本まであとわずかだったのです。難しいのは後継機種を出せば、その瞬間に世間の注目はそちらに向くので、好調な売れ行きにかなりのブレーキがかかる可能性があります。
つまり「年間2億本前後のソフトが売れるゲーム機のビジネスを犠牲にして、すぐ次のゲーム機に移行するの?」という課題があって、経営者が「はい!」と断言するのは極めて難しい……という話です。新しいものに目がない、熱烈なゲームファンなら「そんなの関係ない。だって新型のゲーム機が欲しい!」となるわけですが……。
ニンテンドースイッチは、コアなゲームファンだけでなく、普段ゲームをしなかったような人たち……老若男女に広く売れているゲーム機であり、今あるソフトを丁寧に売っていくことが重要なのです。そうしなければ、ライト層から「見捨てられた」と思われかねないからです。
◇発売7年 国内で年90万本売れるソフトも
ニンテンドースイッチのテレビCMを見たとき、発売からずいぶん経っているソフトを扱っていることに気づいた人もいるでしょう。さらにネットの販促もこまやかで、需要の掘り起こしを喚起しています。ゲームの関連商品も出ることでコンテンツを目にし、アニメ映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」のヒットなども、やはりコンテンツの露出に貢献しています。
面白いイベントも開催しています。例えば、山陽自動車道の宮島サービスエリア(下り線)では、NEXCO西日本とタイアップした人気ゲーム「ピクミン」のイベントを昨年12月から開催し、半年も経過しているのに週末祝日には多くの人が足を運び、時には2時間待ちになることもあります。家族連れの姿が多く、グッズも良く売れているようです。「思い出」は子供達にはうれしいものでしょうし、将来的にはゲームコンテンツの好感度アップにもつながるでしょう。
ゲームソフトは元々、発売から数週間で一気に売れ、その後はすぐ需要がなくなる……という超瞬発型の商材でした。言い換えれば、プロモーションもそうしたことを踏まえて組むため、一度出たゲームは注目されづらい……というのが従来型の販促でした。ですが今では、ネットでソフトがダウンロード販売できますし、期間限定の値下げ、期限付きのゲーム体験などもできます。新作でないソフトを売り伸ばす仕掛けがしやすいのです。
「マリオカート8 デラックス」は2017年4月に発売されて既に7年が経過したのですが、2024年3月期の1年間、国内だけで何と93万本(世界累計6000万本突破)。並みの大作ゲームより売れているのです。そして「あつまれ どうぶつの森」も60万本、「スプラトゥーン3」も55万本というように、国内1年間でこれだけ売れています。
上記のようにプロモーションに力を入れている「ピクミン4」は、国内だけで187万本を稼ぎ出しています。「ピクミン」シリーズの売れ行きを踏まえると、ここまで伸びたことに驚かされます。毎日の散歩を促すスマホゲーム「ピクミンブルーム」の効果もあったのでしょうが、評価されてしかるべきコンテンツを粘り強くアピールし続けることも、この結果につながっているのでしょう。
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◇後継機種の妄想も楽しみの一つ
ニンテンドースイッチは、タイトルの本数も多く、日本に限れば、2024年3月期が最高となっています。そんな中で後継機種についての声のトーンを下げるのは、ニンテンドースイッチにソフトを供給するソフトメーカーへの配慮にもなります。理由は数字が示しているのです。
ただし、ニンテンドースイッチが永遠に売れるわけではありません。どこかで後継機種との「切り替え」は必要になります。そのタイミングが大変に難しいところではあるのですが……。
3カ月ごとの四半期決算のソフト出荷数を見ると、2024年3月期の第4四半期(2024年1~3月)は3500万本。前年同期と比較してソフト出荷数の下落スピードがやや強まった感もあります。このタイミングで後継機種について少しだけ触れた理由の一つかもしれません。
いずれにせよ「発表が遅い」ということは、今のニンテンドースイッチが良く売れているということ。後継機種のスペックの妄想をしながら、待ち続けることも、ゲームファンにとって楽しみの一つなのですから。