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バイエルンとの打ち合いを制し、ドルトムントが決勝進出! 迷采配も最終的には名采配? そこに香川は…

清水英斗サッカーライター
同点アシスト&逆転弾を決めたデンベレと、トゥヘル監督(写真:ロイター/アフロ)

26日に行われたドイツカップ準決勝バイエルン対ドルトムントは、壮絶な打ち合いになった。

前半19分にドルトムントが先制するも、バイエルンに逆転を許して1-2でハーフタイムを迎えたあと、後半はドルトムントが再逆転。シーソーゲームの『デア・クラシカー』(ドイツのクラシコ)を制したドルトムントが、3-2で決勝進出を決めた。

前半、[4-4-2]で陣形を組んだドルトムントは、1-4で負けた前回対戦、ブンデスリーガ第28節からの修正の跡が見られる。

当時は[3-4-2-1]で試合に臨んだドルトムントだが、両ウイングハーフのシュメルツァーとパスラックが、バイエルンのサイド攻撃に対して数的不利におちいる場面が多発した。ロッベンやリベリーの背後から、相手サイドバックのアラバやラームにオーバーラップされると、両翼が1:2で対応できない。この弱点を突かれ、バイエルンにチャンスを量産された。

それを踏まえ、今回のドイツカップ準決勝、ドルトムントは[4-4-2]でDFとMFを4人ずつフラットに並べた。サイドバックとサイドハーフが縦に並ぶので、ロッベンやリベリーのドリブル突破を協力して防ぎつつ、オーバーラップにも対応できる。一方、サイドの厚みを増したぶん、センターバックは3枚から2枚に減ってしまうが、復調してきたベンダーとソクラテスの対応力を信頼し、中央は2枚で担保できると踏んだのではないか。

ところが、この[4-4-2]はバイエルンを乗せてしまった。通常は前線に3枚のアタッカーを配するやり方を好むトゥヘルだが、この試合はロイスとオーバメヤンの2トップ。彼らが孤立気味で、低い位置でボールを奪ってもほとんど前に運べない。2トップが孤立したのは守備も同じで、高い位置からプレッシングを試みたが、あっさり外されてしまう。ボールの出処がフリーになれば、バイエルンは質の高いサイドチェンジをどんどん展開して行く。

一方、ドルトムントの右サイドは、DFピシュチェクとMFデンベレが縦に並んだが、デンベレはこのポジションで攻守にハードワークできるタイプではない。リベリーにボールがわたったとき、しばしばピシュチェクを孤立させた。また、奪ったボールをデンベレが低い位置で受けても、前を向いた瞬間に出足の良いビダルのハンティングに遭い、まったく持ち味を生かせない。むしろ、持ちすぎドリブラーが低い位置にいればリスクしかない。バイエルンのポゼッション率は7割を越え、ドルトムントがボールを持っても、すぐに奪い返された。

守備に対応できず、攻撃の持ち味も生かせなかった、デンベレの右サイドハーフ。相手のバックパスのミスを拾った先制ゴールの後、バイエルンに圧倒されて1-2で前半を終えたドルトムントが、この点に修正を施すのは当然だった。

後半は[4-3-2-1]にシフトした。1トップのオーバメヤンの下に、ロイスとデンベレの2シャドーを置く。デンベレのポジションを上げた。一方、守備的MFのカストロに代えて、運動量豊富なドゥルムを投入。アンカーのヴァイグルの左脇にゲレイロ、右脇にドゥルムを置き、彼らはサイドの守備に行きつつ、逆サイドにボールがあるときは中央に絞ってスペースを埋めた。

このシステム変更で前線を3枚に増やしたことで、前線に縦パスの受け手が増えると同時に、守備面でもバイエルンのダブルボランチに対する制限をかけやすくなった。

オーバメヤン、ロイス、デンベレの3枚が中央に入り、すき間にデンベレが入ってチャンスメークするのは、ずっとやっている形だ。後半24分、ロイスとオーバメヤンを中央に置いた状態で、デンベレが相手サイドバックとセンターバックのすき間へスーッと飛び出し、ショートクロスからオーバメヤンの同点弾をアシスト。さらに5分後には、同じスペースから自身のシュートで逆転ゴールを決めた。

もちろん、戦術的なかみ合わせだけでなく、決定機を外し続けて試合を決められず、チームとしての連帯感を失っていくバイエルンの自滅感も大きい。一方のドルトムントは、前半にボールを蹴り飛ばすだけだったGKビュルキが、後半は積極的にショートパスでプレスを外そうと試みるなど、試合に対するエンジンの変化もあった。

前半を終えた段階では、迷采配になるのではと心配したが、最終的にはトゥヘルの試行錯誤がはまった。見事な逆転を果たしたドルトムントが。ドイツカップ決勝進出を決めている。5月27日に首都ベルリンで戦う相手は、ボルシアMGをPK戦の末に破ったフランクフルトだ。

それにしても、なかなかバイエルン戦で出番が与えられない香川真司。本人の調子は良さそうだが、この試合のドルトムントには、守備重視の前半も、攻撃にシフトした後半も、どちらも10番に与えられるポジションがなかった。契約延長に悩んでいると伝えられる香川だが、強敵との対戦でむしろ出場機会が減ってしまう現状を、どう捉えるだろうか。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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