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「女性活躍」から考える「男性介護者支援」の意義

治部れんげ東京科学大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト
「男の介護教室」は女性活躍の観点からも意義深い(写真:菊池恩恵)

 宮城県石巻市で行われている「男の介護教室」について、先日のYahoo!ニュース個人で書きました。

超高齢化、東北の町で開かれる「男の介護教室」、実はグローバル最先端の発想

(Yahoo!ニュース個人:2017年8月9日)

 男性介護者支援は、いわゆる「女性活躍」の観点からも、意義が大きいと考えます。今回は、この視点から解説します。

1) ケアの世界で男性は少数派

 育児や介護など「ケアする仕事」を担うのは女性が多く、男性の担い手はまだ少数です。私が取材した、シングルファザーに関する取材でも深刻な孤立の問題が浮かび上がりました。

参考記事)

父子家庭のパパは最後の最後までSOSを出さない

(日経DUAL:2014年12月11日)

 介護の場合も同様で、8月9日の記事では「男性介護者が孤立しやすい」問題を紹介しました。少数派が持てる力を発揮するには、安心して心を開ける場が必要です。

 「同じ立場の男性介護者に会えることが、とても大事」であること「雑談が苦手な方も他の参加者と話ができるように、お題を提示してファシリテーションすることもあります」といった具合に、女性介護者とは異なる男性特有の課題を踏まえた支援が行われていることが大事です。

2) 介護分野で既に3割が男性

 3割と言えば、すでに少数派とは言えない、ひとつのグループです。例えば、近年の女性活躍政策では、企業などの管理職に占める女性割合を3割にすることがひとつの目標とされます。男性介護者の増加は、こうした政策目標を既に上回っていると言えます。

 こうなると「少数派のことは後回しでいい」と言える状況では、もはや、ありません。介護される人の福利、介護する人の心身の健康は、社会に大きな影響を与えます。つまり、男性介護者が前向きに介護に取り組める状況か否かは、個人の問題ではなく社会全体が関心を持つべき課題になっているのです。

3) 女性活躍推進法の趣旨とドンピシャ

 2016年4月に女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)が施行されました。法律全文は内閣府男女共同参画局のウェブサイトから読むことができます。

 私が特に重要だと思うのは第二条の2項です。

女性の職業生活における活躍の推進は(中略)家族を構成する男女が、男女の別を問わず、相互の協力と社会の支援の下に、育児、介護その他の家庭生活における活動について家族の一員としての役割を円滑に果たしつつ職業生活における活動を行うために必要な環境の整備等により、男女の職業生活と家庭生活との円滑かつ継続的な両立が可能となることを旨として、行われなければならない。

 ここに書かれている通り、女性が仕事を続けたいと思い、活躍するためには、男性も育児や介護で役割を果たすべき、と法律には明確に書かれているのです。また、この条文には男女の協力と「社会の支援の下に」行われる、という目標が書かれています。

 つまり、地域の医療関係者などが男性の介護者を支援することは「お嫁さんによる介護」を期待するのが難しくなっている今の日本社会でとても重要なことなのです。

4) 男性介護者支援、活性化し形式知化して海外にも発信を

 世界で最も少子高齢化が進む日本は「課題先進国」と呼ばれます。取り分け東北の過疎地は、東日本大震災をきっかけに高齢化や人口減少といった長期的な課題があらわになっています。

 8月9日の記事で紹介した宮城県石巻市で人口に占める65歳以上の割合を示す「高齢化率」は30%を超え、全国平均より約4%高くなっています。また、沿岸部や島では、7割を超える地域もあります。

 マクロな数字だけを見ると、大変だ!と後ろ向きになるかもしれません。ただし、それは「高齢男性に介護は無理」という思い込みがあるから、ではないでしょうか。

 記事に登場した高橋聖子さんのお話によると、同年代の男性でも、現役時代に就いていた職業により、家事の得意不得意が異なるそうです。例えば、漁師だった人は若い頃、船の中で先輩の分も食事を作った経験があるため、包丁さばきが上手と言います。

 男性特有の課題に寄り添いつつ、個々人の得意分野、希望を引き出す支援により、地域の力が最大限生かされると思います。

 私は最近、海外で日本の女性政策について話す機会があります。昨年秋に訪れたメキシコで大使からうかがったお話で興味深かったのは、「高齢化」に関する大使館のセミナーが盛況だった、ということ。メキシコは出生率が高く、日本のような少子高齢化とは縁遠いイメージですが、都市部の女性と話をすると「子どもはいらない」とか「たくさん産むつもりはない」と言います。

 つまり、日本が今直面している高齢化、老老介護や男性介護者といった課題は、今後、世界各国で起こる課題の先取りをしている、と言えるのです。

 今後、政策で必要なことは何か。地域は何ができるのか。来月、宮城県塩釜市で男性介護者支援に関するシンポジウムが開かれる予定で、私も参加して勉強したいと思っています。

東京科学大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社で16年間、経済誌記者。2006年~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年からフリージャーナリスト。2018年一橋大学大学院経営学修士。2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、国際女性会議WAW!国内アドバイザー、東京都男女平等参画審議会委員、豊島区男女共同参画推進会議会長など男女平等関係の公職多数。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)、『ジェンダーで見るヒットドラマ』(光文社新書)などがある。

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