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2020年の東京オリンピックの効果

久保田博幸金融アナリスト

2020年東京オリンピック・パラリンピック開催にともなう経済波及効果について、招致委員会では3兆円という試算を出している。エコノミストなどからは数千億円から100兆円を超えるといった試算も出されている。このような試算はどのような前提で計算を行うのかによって異なるものの、これだけ数字のブレがあるということは、あまりその数字そのものには意味がないように思われる。実際には数字にははっきり出ない効果が大きいのではなかろうか。

今年4月4日の日銀による異次元緩和の目的は人々の期待に働きかけるとするものであるが、日銀が大量に国債を買い入れてマネタリーベースを倍にして、それがどのように期待に働きかけるのかがはっきりしない。米国FRBも大規模な債券買入を行ってきたが、それによりインフレ期待が高まって物価が上昇した気配はない。この量的緩和はあくまで市場の動揺を鎮めるためのものであり、市場外に及ぼす影響については限定的であると思われる。その危機が緩和されてきたのであれば、非常時の対応は撤収すべきであり、それが9月17日、18日のFOMCで決定される。新興国市場を含めて市場参加者はこの非常時の対応を続けてくれるとありがたいと思っているかもしれないが、これはタイミングを逃すと副作用も大きくなりかねないものとなる。

日銀の期待に働きかける政策は、実感がなく良くわからないと言う方も多いのではなかろうか。これは市場参加者も同様であると思う。ところが東京オリンピック開催による期待については、皆が共有するものではないかと思う。競技場や交通手段などのインフラ整備による建設業への効果もあるが、それよりも人口の集中している首都圏で行う夏季オリンピックへの期待は、まさに身近なところで大きなお祭りが開催されるようなものであり、そのお祭りに接することができることへの期待が大きい。

1964年のアジアで初めて開催された東京オリンピックほどの期待の盛り上がりはさすがにないかもしれないが、それでも東京でのオリンピックがまた見られるとの年配者から、初めて自国開催の夏季オリンピックを見ることができる若い世代は、ある種のわくわく感を感じているのではなかろうか。

オリンピック招致のプレゼンの様子を見て、2020年に向けて本格的に英語やフランス語などの外国語をマスターしなければと思った子供達も多かったはずである。ボランティア活動など行うにも外国語は必要となる。現在でも多くの外国人が日本を訪れているが、2020年のオリンピックにはまさに世界各国の人達が集まる。しかもそれが自国内で行われ、そのような機会はめったにない。日本をアピールするチャンスであるとともに、異文化にふれあうチャンスとなる。

我々の子ども時代には、1964年の東京オリンピックや1970年の大阪万国博覧会があった。それに向けての期待の盛り上がりは非常に大きかったように記憶している。現在の子供達にも同様の感動が得られることになる。自分の子どもに自国開催のオリンピックを見せてあげたいとする人達も多いのではないか。もしかすると少子化対策の一環にもなる可能性もある。

これから2020年に向けて、スポーツ界は選手育成が急務となる。その結果として金メダルを多くとってくれれば、さらにお祭りが盛り上がる。ただし、若い世代を育てる機会となるには、なにもスポーツ界だけではない。日本人の国際性を引き上げるチャンスでもある。海外を知ることにより、日本という国の良さも知ることにもなる。このような貴重なチャンスをおおいに生かすべきだと思われる。ここであらたな人材育成を行い、世界に立ち向かえる人達を育成することで、日本は本当の意味での気持ちのデフレ状態から脱することができるのかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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