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木村拓哉主演『レジェンド&バタフライ』入門 濃姫の父・斎藤道三が織田信長の才能を見抜いた訳

濱田浩一郎歴史家・作家

織田信長は、美濃国の大名・斎藤道三の娘・濃姫を娶ることになります。木村拓哉さん主演の映画『レジェンド&バタフライ』は、濃姫が信長に嫁ぐところから始まります。

今回の映画において、北大路欣也さん演じる斎藤道三の登場シーンは多くはありません。信長に嫁ぐ前に娘・濃姫に対して語りかける場面のみです。

本映画における道三の紹介文には「通称:美濃のマムシ。下剋上の代表格」と記されていますが、道三と言えば、油断のならない強かな武将という印象が強いと思います。

登場シーンこそ少ないものの、北大路欣也さんの重厚な演技のなかに、そうした道三の生き様というものが凝縮されていたように私には感じました。映画では描かれる事はありませんでしたが、実は道三と信長は対面した事があります。

天文22年(1553)4月のことと言いますので、信長と濃姫が結ばれてから、4年後のことです。『信長公記』(信長の家臣・太田牛一が記した信長の伝記)によると、道三のほうから、信長に会いたいと申し入れてきたとのこと。

道三の周りに、信長のことを阿呆と罵る者がいて、それならばどのような人物か見極めようということになったのです。会見場所は、尾張国富田(愛知県一宮市)の正徳寺。道三は信長がどのようにやって来るか見てやろうと、近くの小屋に家臣と共に潜みます。

道三が覗き見た信長は、茶筅髷の髪に、腰の周りに火打袋やひょうたんを幾つもぶら下げ、虎革・豹革を染め合わせた半袴を着用した大胆・奇抜な出立ち。しかし、信長が率いてきた兵士は、長槍を持ち、鉄砲を持つ者もいました(弓・鉄砲の者に五百挺を持たせたと言います)。

道三が驚いたのは、奇抜な格好でやって来た信長が、道三と対面する際には、長袴をつけて、正装して現れたことです。この信長の振る舞いに、道三の家臣の多くは、信長が普段馬鹿げた服装や行いをしているのは、ワザとだという事を感じ取ります。

信長は、道三が現れても知らぬ顔。堪りかねた者が「こちらが山城殿(道三)でござる」と伝えて、やっと「そうか」と言って、道三に挨拶したのでした。その後、2人がどのような話をしたのかは、残念ながら分かりません。ただ「またお会いしましょう」と言って別れたようです。

帰途、道三は信長の兵士が持つ槍が、自らの部隊が持つ槍より長いのを見て、不機嫌となったと『信長公記』にはあります。会見を経てもなお信長の事を、うつけ(馬鹿者)と評する者もいましたが、そうした者に道三は「無念じゃ。わしの息子たちは、何れ、信長の家来になる事であろう」と告げたとのこと。

それ以来、道三の前で、信長をうつけと呼ぶ者はいなくなりました。道三は信長が、敵を油断させるために馬鹿の振りをしていた事、武器の備えなどを見て、只者でないと見抜いたのです。

歴史家・作家

1983年生まれ、兵庫県相生市出身。皇學館大学文学部卒業、皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『北条義時』『仇討ちはいかに禁止されたか?』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)ほか著書多数

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