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オードリー・春日俊彰がバラエティの限界を超えて戦い続ける理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

7月22日放送の『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で行われた「団長VS春日 我慢頂上決戦」は衝撃的な内容だった。最近のバラエティ番組では過激な企画がやりづらくなったと言われるが、この企画はそんな風潮を物ともしない超過激なものだった。

過去の企画での実績から、人並み外れた我慢強さを持つとされる安田大サーカスの団長安田とオードリーの春日俊彰が、さまざまな競技で我慢強さを競うというものだ。

いくつか行われた企画の中でも、最初に行われた「超熱湯風呂対決」が特に常識外れの内容だった。芸人が熱湯風呂に入らされて「熱い、熱い」と言って悶え苦しむ光景はバラエティ番組でお馴染みのものだが、この対決では通常よりもはるかに熱い温度の熱湯風呂を用意して、どちらが長く入っていられるかを競っていた。

現場で解説役を務めた出川哲朗によると、一般的な熱湯風呂は熱くてもせいぜい46度程度なのだという。ところが、この企画で用意されていた熱湯は、一時は50度を超えていた。

見るからに熱そうな風呂に入り、悶絶する2人の様子には、過去のバラエティ番組では見たことのない迫真性があった。

春日はこれまでにもテレビの企画で体を張ったさまざまな挑戦を行ってきた。『炎の体育会TV』(TBS系)では、フィンスイミングやボディビルに挑んできた。フィンスイミングでは猛練習の末、マスターズ世界大会に日本代表として2年連続で出場を果たし、銅メダルと銀メダルを獲得した。ボディビルでも「第23回東京オープンボディビル選手権」の75キロ級で5位に入賞した実績がある。

それだけではない。春日は、オードリーというコンビが世に知られる前の2006年に『Qさま!!』(テレビ朝日系)という番組の企画で潜水に挑戦して、日本で5位(当時)という記録を叩き出した。

また、2007年には格闘技の大会『K-1トライアウト』にも出場している。高校時代にアメリカンフットボールに打ち込んだ経験があり、恵まれた体格を持っているとはいえ、お笑いの仕事をしながらこれだけの輝かしい経歴があるのは本当に驚異的なことだ。

春日がこれまでに体を張って成し遂げてきたことは、そのほとんどがバラエティ番組などの企画によるものだ。仕事の一環としてやっているのだが、いくら仕事とはいえ、その奮闘ぶりは常識をはるかに超えている。何が春日をそこまで駆り立てているのだろうか。

肉体派を売りにしている芸人はほかにもいるが、春日がほかの人と違うのは「趣味が高じて」という雰囲気があまりないところだ。好きで好きでたまらないからやっているというわけではなく、あくまでも「求められたならやる」というスタンスを保っている。本人が心から楽しんでいるかどうかは明らかにされない。

普通の芸人ならば、楽しそうに語るというところまで含めて1つの芸になっているものだが、春日はその部分を切り捨てている。余分なことを言わず、目の前の課題に黙々と取り組むだけだ。

もともと、春日は、何を考えているのかわからない、得体の知れないところがある。しゃべるときにも「~でございますな」「~でごんす」といった「春日語」と呼ばれる独特の言葉を使う上に、自信たっぷりのことしか言わないので、内面がよく見えない。

そのことが、春日という芸人の最大の特徴だ。こんな芸人はほかにいない。彼は、徹底的に外面だけを見せて、それを売り物にするという覚悟を決めた芸人なのだ。

普通、芸人は外面よりも内面を売りにする。テレビに出ている芸人の多くはしゃべりが達者で、内面からにじみ出る個性を生かして笑いを取っている。だが、春日は内面を見せることを捨てて、徹底的に外面だけを見せようとする。そこが珍しい。

その代わり、外に出るものに関しては、自分の中の力のすべてを振り絞り、全力を出しきるという覚悟を決めている。これがなかなか常人には真似できない。普通の人ならばどうしても、自分が本当に好きなことでなければ手を抜きたくもなるし、危険があることやプレッシャーのかかることなら、それを嫌だと思う気持ちもどこかに表れてしまうものだ。

でも、春日にはそれがない。内面を出さないで外面だけを出すという姿勢を貫くことで、ほかに並ぶ者がいない独特の地位を確立した。

春日も人間だ。極限まで自分を追い込むような活動をして、つらいとか怖いとか逃げ出したいと思ったこともきっとたくさんあるはずだ。でも、彼はそれを決して表に出さない。なぜなら、春日は「春日」という1つのキャラだからだ。ふなっしーやくまモンが「暑い」とか「疲れた」とか人前で言わないのと同じように、「春日」は決して弱音を吐いたりしない。

芯があるからぶれないのではなく、芯がないからぶれようがない。春日が戦い続けるのは「外面だけを見せて生きていく」という徹底した覚悟があるからなのだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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