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捕手のミットを見ればわかる!藤浪晋太郎が掴んだ信頼とプレーオフ活躍の鍵

上原浩治元メジャーリーガー
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 アメリカ・メジャーリーグ、オリオールズの藤浪晋太郎投手が躍動を続けている。

 チームがポストシーズン進出を決めた17日(日本時間18日)レイズ戦も9回に5番手で登板し、3分の2回をゼロに抑えた。自己最長の7試合連続無失点をマークし、今季の日本選手では一番乗りでプレーオフ進出を決めた。18日(同19日)はリードした展開から8試合ぶりに失点をしたが、これからもチャンスはもらえそうだ。

 プレーオフ進出が決まったときには、初体験のシャンパン・ファイトに酔いしれ、チームメートと歓喜に沸いた。その様子からは、堂々と「戦力」としてこの輪に加わったことを証明しているようだった。

 最近のオリオールズの捕手のミットを見ていると、ど真ん中に構えている印象が強い。メジャーのサインは基本的にはベンチから出ている。藤浪投手の100マイルを超えるまっすぐが「細かいコントロールは気にしなくていい。真ん中に投げても打たれない」という大きな信頼をつかんでいる証拠ではないだろうか。

 ポストシーズンは短期決戦の勝負だ。私はレンジャーズ時代に3試合連続本塁打を浴びた苦い経験も、2013年にクローザーとして胴上げ投手になった良い思い出もある。

 中継ぎ、クローザーとして重要だと思ったことは「気持ちの切り替え」だった。レンジャーズのときは、「また打たれるのではないか」とネガティブな思考になり、「もう投げたくない」という気持ちでマウンドに立ってしまった。悪循環から抜け出すことができなかった。ボストンのときは、サヨナラ本塁打も浴びたが、「また、すぐに投げたい」と気持ちが前を向いていた。実はレンジャーズの2年目のポストシーズンでも、オリオールズを相手に3者連続三振を奪っている。

 「気持ちの切り替え」ができるようになったのは、レンジャーズ1年目の苦い思い出を「経験」として活かすことができたからだ。

 藤浪投手にはメジャーのポストシーズンの経験がない。しかし、彼はレギュラーシーズンを崖っぷちから這い上がってきた「経験」がある。オープン戦は先発として評価を得たが、開幕後はアメリカメディアに散々たたかれた。戦力外も覚悟しなければならないような状況から一戦一戦、中継ぎで実績を積み上げた。後がない状況で抑えても、打たれても、次のマウンドに立ち続けた。「気持ちの切り替え」はすでに「経験済み」といえるほど、過酷な環境を生き抜いている。

 ア・リーグ東地区のオリオールズが、レイズとの地区優勝争いを制すれば、さらに勢いつくだろう。メジャーでは、ポストシーズンで大活躍する選手を「ミスター・オクトーバー」と呼ばれ、毎試合出る野手が該当することになるだろうが、藤浪投手は「縁の下」でこれまでのような投球を続けてほしい。

 私も経験があるが、これまで人気選手を追いかけていた日本メディアが、ポストシーズンを戦っている日本選手が絞られてくると大挙して押し寄せてくる。一気に注目度が高まるが、これまでの雰囲気も壊れる。そんなことに振り回されることなく、信頼してくれるチームのために、自分のためにも、一戦ずつ投げていけばいい。優勝争いのチームで積み上げた実績は、オフに自分の評価として必ず返ってくる。このコラムでも、藤浪投手のことはことある毎に取り上げてきた。メジャーに行く前から、あのポテンシャルは環境がうまくはまれば絶対に通用すると思っていた。すげえ選手になると思っていた。

 シーズン序盤に苦しんだ「経験」を財産に前進あるのみ。“シンデレラ・ストーリー”はまだまだ終わらないだろう。

元メジャーリーガー

1975年4月3日生まれ。大阪府出身。98年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目に20勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠、新人王と沢村賞も受賞。06年にはWBC日本代表に選ばれ初代王者に貢献。08年にボルチモア・オリオールズでメジャー挑戦。ボストン・レッドソックス時代の13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇、リーグチャンピオンシップMVP。18年、10年ぶりに日本球界に復帰するも翌19年5月に現役引退。YouTube「上原浩治の雑談魂」https://www.youtube.com/channel/UCGynN2H7DcNjpN7Qng4dZmg

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