すぐそばにいる他者と深く知り合う 東京外大・国際理解サークル「くらふと」 多様性と向き合い20年
6月、外国人観光客の受け入れが2年ぶりに再開した。
新型コロナウイルス感染が拡大した2020年以降、旅行・観光業界関係者や留学生を取り巻く環境は急激に悪化したが、入国制限の緩和に関係者の期待は高まっている。
この2年ほどの間、東京五輪・パラリンピックが延長の末に開催され、観光地としての魅力世界トップに日本が選ばれるといった出来事もあった。2025年には大阪・関西万博が控える。アフターコロナを見据え、外国人との向き合い方、多様性のあり方を学ぶ機運があらためて高まりそうだ。
そうした多文化共生などをテーマに、東京外国語大学のサークル「国際理解教育ボランティア・くらふと」はコロナ禍と抗いながら、地道に活動を続けてきた。今年は昨年にない手応えを感じている。
話を聞いたサークル代表、大学2年の鈴木詩織さんは「国境が開き始めた今こそ、社会の多様性を理解する必要がある」と話す。
マイナー言語でワークショップ
「スラマッシアン(インドネシア語で“こんにちは”の意味)」
「くらふと」が小中学校などで行う国際理解、多文化共生のワークショップの一場面だ。
身振り手振りや表情――。相手に日本語も英語も通じないような状況下、どうしたらうまくコミュニケーションを取れるだろうか。そうしたことを子どもたちに考えてもらいつつ、日本の外側にある世界への扉を開け、視野を広げていく手伝いをしている。
くらふとは関東圏の小中高など地域の学校に出向き、出張授業やワークショップを手掛けて20年ほどになる。ワークショップの目玉は、数多くの人種や民族で構成される何十億という人が200ほどの国・地域に住む地球を、100人の1つの村に見立てた『世界がもし100人の村だったら』を題材とした「100人村」。富める国と貧しい国、資源の偏在、多様な宗教や言語の紹介を通じ、日本での暮らしが当たり前でないことを学んでもらう取り組みだ。
コロナ禍で活動縮小
しかし新型コロナウイルス感染拡大に伴い、活動はことごとく中止になった。小中学校の教室などを使って、実際に対話して目で見たり、触ったりする触れ合いの中で、体感として学んでもらうスタイルが醍醐味だったが、いずれもかなわなくなった。
2020年はほとんど活動ができなかった。続く2021年も一旦は出張授業の予定が組まれるものの、緊急事態宣言の発出などで急きょのキャンセルが相次いだ。
1年から代表
難しい運営を迫られる中、活動の主体となる大学2、3年生は就活や留学に向けた準備で忙しかった。
そうした状況のため、現在20人弱のメンバーが在籍しているが、中心となるのは1、2年生だ。鈴木さんは1年生の冬からくらふとの代表を務めている。
サークルに入って2回目の春を迎えた今年、鈴木さんは「今までにない取り組みをしたい」と意気込んでいる。
従来、小中高の学校に対して出張授業をすることが多かったが、今年は他大学との連携にも力を入れる。まずは都内にある拓殖大学の学生に、くらふとの取り組みを伝え、国際理解を深める活動の参考にしてもらう考えだ。
国際理解にとどまらない活動
「日本国内にいながら、異文化や多様な価値観に気付ける体験ができるワークショップです」とくらふとの魅力を語る鈴木さん。大学ではインドネシア語を学んでいる。中学時代にオーストラリアでホームステイした体験を踏まえ、異なる国や文化に興味を持ち始めた。
サークルには他にもチェコ語やアラビア語を専攻する学生に加え、留学生も多い。多様なバックグラウンドを持ったメンバーが毎週、知恵を絞っている。
コロナの影響で、昨年は3件しかできなかったワークショップも、今年は既に4件が予定されている。
鈴木さんは「サークル名に“国際理解”と付いていますが、くらふとが目指すのは、国際理解にとどまらない、多様性全般についての理解の浸透です。日本人同士でも育ってきた環境や考え方にさまざまな違いがあるように、他者との違いを受け入れ、寛容であり、差別のない世界になってほしいなと願っています」と理念を掲げ、活動を続けている。
(写真はいずれもくらふと提供)
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