『ばらかもん』豊嶋花の子役からの飛躍 「役に引っ張られて苦しむことも含めて演技が好きです」
『ばらかもん』で書道家・半田清舟(杉野遥亮)が暮らし始めた島で、子どもたちのリーダー格の山村美和を演じている豊嶋花。幼少期から朝ドラや大河ドラマなど数々の作品で天才子役として名を馳せ、中学生になってからは『大豆田とわ子と三人の元夫』などでより注目を集めた。今回もリアルに島育ちかのようにハツラツとしながら、随所で心を動かされる。現在16歳にして、観る者を引き付ける演技の根底にあるものは?
普段から女の子らしさが薄まりました
――『ばらかもん』のために髪を切ったそうですが、生活や気持ちの面で変化はありました?
豊嶋 ドライヤーで髪が乾くのは「早っ!」と思います(笑)。髪を切ったからかわかりませんけど、私は役に私生活が引っ張られる傾向があって。美和が男勝りなので、私も普段から女の子らしさが薄まった気がします(笑)。
――どういうところに、それが出ますか?
豊嶋 もともとストリート系の格好が好きなんですけど、それしか着なくなりました。スカートとか穿きたくなくて。
――役作りで意識的にそうしているわけではなくて?
豊嶋 自然に持っていかれる感じです。この夏が終わったら、また女の子らしい服も着るようになると思います。
――やっぱり女優気質なんでしょうね。
豊嶋 そういうところはあるかもしれないです。
島の人たちの温かい結びつきを感じてもらえるように
――長崎の五島列島でのロケには、どれくらい行っていたんですか?
豊嶋 私は2週間くらいです。本当にのどかで、他のものに邪魔されない感じがいいなと思いました。都会だと、私は影響を受けやすいというか、人に合わせてしまうところがあって。でも、独自の世界観を作りたい気持ちはあるので、誰が来ても変わらない島の空気感は良かったです。
――都会育ちの豊嶋さん的には、不便さを感じたりはしませんでした?
豊嶋 何とホテルの近くにスーパーもコンビニもあったんです(笑)! 綱(啓永)さんは撮休の日に「いいお店を発見した」と言ってました。
――劇中の何もないイメージとは違いますね(笑)。
豊嶋 そうなんです。撮影現場とホテルしかいなかったので、あまり不便には感じませんでした。でも、住むとしたら、私には向いてないかもしれません。すごく寂しがり屋なんです(笑)。東京には友だちがたくさんいて、支えてもらっているので、島でそれができなくなってしまうと合わなそう。
――美和を演じるうえで、島の子という部分で意識したこともあります?
豊嶋 島の人たちとの結び付きを強く感じます。私は浅く広くのタイプなので、真逆で深く狭く。親友のタマ(近藤華)や綱さんが演じるひろ兄たちとの繋がりに、温かさを感じてもらうことは意識しました。
餅拾いは本気でやったのに全然取れなくて(笑)
――美和のサバサバ明るく男勝りな感じは「めちゃめちゃ私に似てる」とのコメントもありました。もともと素に近いんですか?
豊嶋 自分の中の最大限に男勝りなところが、美和の普通という感じです。私が幼なじみとかに出てしまうものを、美和は常に見せているんだろうなと。でも、私も男の子っぽい部分のほうが多いと思います。
――2話でやった餅拾いのようなことには燃えますか?
豊嶋 私は運動神経がめちゃめちゃ悪くて(笑)。燃えても「どうせ取れないな」と思ってしまうので、ああいう勝負ごとは俯瞰してます。あのシーンは本気でやるということで、美和は餅をたくさん取る設定だったのに、私は全然取れなくて(笑)。でも、すごく楽しかったです。
――豊嶋さんも学校では、美和のようなリーダータイプ?
豊嶋 学校だけだったら、リーダーをやっていたと思います。現実にはお仕事で休んで迷惑を掛けたらイヤなので、手は挙げないようにしていますけど、やれる状況なら全然リーダーをやります。
面白くなるようにアドリブを追加したり
――美和の話し方や動き方で、気を配るところもあります?
豊嶋 座るときはあぐらと決めています(笑)。歩き方もちょっとガニ股にしてみたり。
――テンションも上げ気味で?
豊嶋 そうですね。美和は面白いシーンが多いので、テンションは高めにしています。3話の東京から来た康介との絡みとか、めっちゃ好きでした。ボケでもありツッコミでもあるのが、美和の良いところなんですよね。
――「半田だけに判断ミス」と言ったりもしてました(笑)。
豊嶋 あれは綱さんたちと、どうしたら面白くなるか打ち合わせをしました。最初はあのダジャレに乗ることも考えましたけど、最終的に、ひろ兄に「つまんねえ」と言われて怒るのがいい、とまとまって(笑)。アドリブを追加したり、力を入れたシーンです。でも、先生の心を動かす場面もあるので、そこは切り替えて、観ている方もウルッとくるようにできたらいいなと。
辛い役だとメンタルをやられてしまって
――豊嶋さんはいじめられる役や病気の役もリアルに演じてきました。そういう作品に比べると、今回は気持ち的には楽ですか?
豊嶋 楽ですね。やっぱり辛い役を演じると、普段のメンタルをやられてしまうことがあるので。とは言っても、今回も原作を好きな方にも楽しんでいただけるようにしながら、実写でしか表現できないものがあったり、悩みはします。
――ヤングケアラー役で主演した『瑠璃も玻璃も照らせば光る』の踏切前で号泣するシーンは、観ていて胸が張り裂けそうでした。「私生活も引っ張られる」ということだと、あのドラマの撮影中は家に帰っても、ずっと重苦しい気分だったわけですか?
豊嶋 踏切のシーンは思い出深いです。電車が来るタイミングもあって、「もう行きます」「えっ? 心の準備が……」みたいな状況で大変でした。私はメンタルが弱いので、ちょっとしたことでハーッ……となってしまうんです。役に引っ張られることもあれば、私生活でイヤな出来事があって落ち込むこともあって。ただ、『瑠璃も玻璃も~』は単発ドラマで、短期間でスパッと撮ったんですね。慌ただしかったせいで、辛さを忘れられたところがありました。連ドラみたいにずっと続いていたら、ウッとなっていたかもしれません。
壮絶な役とほのぼのした作品が重なって
――連ドラで辛い役を演じたこともありますよね。
豊嶋 メンタルに来たのは『教祖のムスメ』です。最初はいじめられていて、いじめていた人がいなくなったと思ったら、救ってくれた人に洗脳されて、今度は交通事故に遭って、意識を失っていたら薬を飲まされて……。壮絶な役でした。それだけならまだしも、ほのぼのした『みなと商事コインランドリー』の撮影と重なっていたんです。切り替えもすごく大変でした。
――胃が痛くなったりも?
豊嶋 疲れが倍増します。でも、役に引っ張られるところも含めて、演技が好きなんです。普段の生活で病むことになったとしても、それも醍醐味と受け止めています。
――それくらいの覚悟で役に入っているから、豊嶋さんの演技は胸を打つんでしょうね。
豊嶋 そんなふうに届いたらいいなと思って、演じています。あと、私はホラーやミステリーが好きで、取材でもずっと「サイコパスの役をやりたい」と言っていて。『教祖のムスメ』はそういう作品で、大変でも楽しかったです。
自分の小さかった頃も思い出しました
――『ばらかもん』で清舟を慕うなる役の宮崎莉里沙さんには、劇中同様に懐かれているんですか?
豊嶋 莉里沙は本当にわんぱくで、なるそのまま。「みわ姉、みわ姉」と寄ってきてくれます。でも、集中しないといけないところではしっかりやってくれて、いい子だなと思います。自分も小さい頃からこのお仕事をしていたので、仮歯を付けているのを見て「私もやっていたな」とか、いろいろ思い出します。
――自分の6~7歳の頃と比べると?
豊嶋 莉里沙はすごく愛嬌があって、私はどうだったかなと思います。大人の方にたくさん迷惑をかけていたかも。当時共演した方やスタッフさんに聞いてみたいです。『ばらかもん』の音声さんが、私が小学5年生のときに撮った『トットちゃん!』の方なんですね。今回の撮影で汗を拭いていたら、「昔も汗っかきだったよね」と言われました。暑いとベチャベチャになっていたのを覚えています。
『大豆田とわ子』は好きすぎて観返していて
――豊嶋さんは5歳のとき、映画『外事警察 その男に騙されるな』でデビューしていますが、記憶にあるのはどの辺からですか?
豊嶋 『外事警察』は最初の作品で、鮮明に記憶にあります。それからちょこちょこ抜けていて、自分の出演作の一覧を見ると「私、これに出ていた?」と思うものもあります(笑)。次に鮮明にあるのは、小学1年生のときに撮った朝ドラの『ごちそうさん』です。ニワトリにつつかれたな、とか(笑)。
――そうした子役時代の作品を、DVDや配信で観ることはありますか?
豊嶋 あまり観ません。恥ずかしくて(笑)。でも、『大豆田とわ子と三人の元夫』は作品が面白すぎて観ちゃいます。坂元(裕二)さんの脚本も好きで、松(たか子)さんを始め出演者の方々の演技も素晴らしくて。
――傑作ですし、豊嶋さんも大人びた娘を演じる年齢になっていました。
豊嶋 自分の受験もあって、いろいろ大変な時期でしたけど、役とも重なりました。
――昔、天才子役と呼ばれていたのは、耳に入っていました?
豊嶋 当時は仕事という自覚がなくて、習いごとみたいな感覚でやっていて。今になって、大人の方々に混じって、すごいことをしていたんだと実感しています。天才なんて「ありがとうございます」とも思いますし、「いいんですか?」という想いもあります。
小5で初めて「やりたい!」と役作りをしました
――女優としての自我が目覚めたのは、何歳くらいの頃でした?
豊嶋 『トットちゃん!』の黒柳徹子さんの幼少期で、初めて役作りをしました。オーディションの前に小説の『窓ぎわのトットちゃん』を読んで、明るく天真爛漫で愛されるトットちゃんになりたいと、強く思ったんです。それまでも仕事は好きでしたけど、「やらなきゃ」という感じだったのが、初めて「やりたい」と。おかっぱ頭で学校に行くのは恥ずかしくても、楽しかったし好評だったので自信も付いて、自分にとって大きな一歩になりました。「よし、やるぞ!」と思ったのは、そこからだったかもしれません。
――小学5年生なりの役作りをしたんですね。
豊嶋 その頃は表面的なものだったかもしれませんけど、厳しい星田(良子)監督に指導していただいて、自分で納得のいく演技ができました。その頃まで、母と二人三脚で考えていたのが、完全に1人で何でもやるようになりました。
――今は役作りの仕方は変わりました?
豊嶋 事前に結構考えつつ、監督に相談することが増えました。「ここはどうすればいいですかね?」とか。自分から「こっちのほうがいいと思うんです」と言ったりもします。自信が付いてきたからこそできることで、成長したなと思っています。
迷っても仕事をやめる選択はできなくて
――小さい頃から仕事をしてきて、やめたいと思ったことはないですか?
豊嶋 あります。全然揺れ揺れでした。最近はないですけど、高校に上がるタイミングとかで「どうしよう?」と思ったりはしました。
――他の道も考えたことがあると?
豊嶋 はい。高校選びも迷いました。でも、この仕事をやめる選択はできなかったです。他の道を考えても、ビビッとくるものがなくて。
――単純に「もっと遊びたい」と思ったりは?
豊嶋 それもありました。小さい頃からやってきたからこそ、仕事ひと筋ではもったいない。この仕事が好きな分、高校生活を充実させないと、高校生役が来たときに大丈夫だろうかと。だから通信制でなく、普通の高校にしました。勉強が大変とかあっても、いろいろ考えられて良かったと思っています。
現場で鍛えられて自然な感情が出るように
――子役からの脱皮みたいなところで、壁はありませんでした?
豊嶋 たぶん自分の小さい頃は、子役演技みたいになっていました。自然な感情から出た演技をできるようになったのは、現場で鍛えていただいたからです。私はレッスンを受けたことはほとんどないので、磨いてくださった監督や共演の方たちに感謝しています。
――観ている分には、『おいしい給食』のとき、豊嶋花さんも制服を着て好きな男の子がいる役をやるようになったんだ……と思いました。
豊嶋 確かに、あれは成長でしたね。中1のときに撮って、初の学園ものだったのかな。クラスメイト役がずっと同じで仲良くなって、この前、その1人と会ってギターを教えてもらいました。思い出深い現場です。
――役も中1の設定で、自然にスライドできたと。
豊嶋 おとなしい役で、私は明るい役のほうが合ってはいるので、素ではなかったですけど、恋したりするのも楽しいなと思って演じていました(笑)。
恋愛ものはイメージが湧かないけどやりたいです
――映画やドラマを観て、刺激を受けることもありますか?
豊嶋 実は私、映像作品はあまり観ないんです。「この場面を撮っていたときは……」とか裏が気になったり、「自分ならこう演じる」と考えてしまって、純粋に楽しめなくて。小説やマンガのほうがよく見ます。
――さっき出た「サイコパスをやりたい」というのは、何かを観て思ったわけではなくて?
豊嶋 湊かなえさんの小説が大好きなんです。伏線がちゃんとあるけど、結末が全然読めない気味の悪さ。意地の悪いミステリーという感じで、ハマりました。『母性』も実写化されて、嬉しさと同時に自分が出てないショックも若干ありました。『豆の上で眠る』とか、もし実写化されたら出演するのが夢です。
――マンガの『薫る花は凛と咲く』のこともよく挙げられています。ああいう恋愛ものもやりたいと?
豊嶋 やりたいです! 私が恋愛ものって、自分でもイメージが湧きませんし(笑)、あまり読んでもいなかったんです。『薫る花は凛と咲く』はまずかわいい絵から入って、ストーリーも王道ラブコメでキュンキュンします。自分にはそういう浮いた話が全然ないので、読んでいて悲しくなることもありますけど(笑)、大好きな作品ですね。
――演じ甲斐もありそうですね。
豊嶋 薫子を演じたいというより、あの作品に携わりたいだけなんです。エキストラの友だちAでも全然いいので(笑)。
――そうすると、映画とかを観て「この女優さんはいいな」と思うことはないですか?
豊嶋 たまに観る作品で刺激を受けることはあります。私が憧れているのは大竹しのぶさん。演技が本当にお上手で。
――大竹しのぶさんのどんな作品を観ました?
豊嶋 『世にも奇妙な物語』だったか、ふと観たら、サイコパスな役をやってらっしゃいました。私はそういう役をやりたいと言ってましたけど、大竹さんの演技は鳥肌が止まらないくらい怖くて。芯に来る感じの気味の悪さがすごかったです。
家でゆっくりギターを弾きたくて
――今は撮影で忙しいかと思いますが、高2の夏休みでもあるんですよね。
豊嶋 コロナ禍も緩和されて、お祭りも再開しているので、撮休にどこか行きたいなと思ってはいます。でも、体調管理にも気をつけないといけないので、家でゆっくりゲームしたり、ギターを弾く時間がほしいです。
――出掛けるより、インドア派なんですか?
豊嶋 いえ、めっちゃアウトドアで、家族と釣りやキャンプに行ったりもします。『ばらかもん』の3話の釣りのシーンでは、ぶっつけ本番で「魚から針を外してくれない?」と言われて。できるかなと思いながらやったら、取れました。
――ギターには力を入れているんですか?
豊嶋 最近すごく頑張ってます。前からずっと弾きたくて、兄のギターを借りて弾き始めたらハマって、エレアコを買いました。あいみょんさんとか椎名林檎さんとか、弾き語りができる曲を練習しています。
友だちと一緒に帰るだけでも青春だなと
――音楽も好きなんですね。
豊嶋 めっちゃ聴きます。邦ロックが大好き。This is LASTさん、Saucy Dogさんとか、ガッツリしたロックバンドがいいですね。ライブやフェスに行きたいんですけど、チケットを取って急に仕事が入って行けなかったら、ショックが大きすぎるので。だから行かないのに、動画を観てコールの練習はしています(笑)。
――家で1人で(笑)。
豊嶋 今もう1本出させていただいている『みなと商事コインランドリー2』のエンディングテーマがリュックと添い寝ごはんさんの曲で、私は元から大ファンだったので、話を聞いただけで感動して泣いちゃいました(笑)。だって、その方たちの曲と一緒に、自分の名前が出るんですから!
――『瑠璃も玻璃も照らせば光る』で「青春らしいことをしてみたい」という台詞がありました。今はどんなときに青春を感じますか?
豊嶋 学校の友だちと制服で遊んでいるときですね。普通の学校に行ったからこそで、仲良くしてくれる友だちがたくさんいて。一緒にいると幸せですし、青春だなと思います。
――遊園地に行ったりするんですか?
豊嶋 それもあります。でも、ただ一緒に帰るだけでも、文化祭の準備をしたあと、みんなでごはんを食べに行くのも、すごく青春で楽しんでいます。
Profile
豊嶋花(とよしま・はな)
2007年3月27日生まれ、東京都出身。
2012年に映画『外事警察 その男に騙されるな』でデビュー。主な出演作はドラマ『ごちそうさん』、『トットちゃん!』、『大豆田とわ子と三人の元夫』、『教祖のムスメ』、『祈りのカルテ~研修医の謎解き診察記録~』、『どうする家康』、映画『真夏の方程式』、『都会のトム&ソーヤ』、『ちひろさん』など。ドラマ『ばらかもん』(フジテレビ系)、『みなと商事コインランドリー2』(テレビ東京系)に出演中。
『ばらかもん』
フジテレビ系/水曜22:00~