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「映画」「水草」が音楽制作の原動力、夏フェス出演が続くバンド・Bialystocksの正体

田辺ユウキ芸能ライター
Bialystocksの甫木元空(右)、菊池剛(左)/写真提供:ポニーキャニオン

「流行りものはふたりとも好きですし、ヒットチャートの音楽も見聞きします。さっきも宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』を観たかどうかという話もしていましたし。でもこのバンドとしては『引き算のなかからなにができるのか』を考えながら、なるべくシンプルなものを目指し、余白のあるものを好んで作っています」

今回のインタビューでそう語るのは2人組バンド・Bialystocksのボーカル・甫木元空(ほきもとそら)だ。その言葉を受けて、キーボードの菊池剛(きくちごう)も「小さい頃から、自分の好きなものを思いっきり表明しても共感が得られづらかった経験がたくさんあったんです。その経験に基づき、真っ直ぐ過ぎる表現へのためらいが生まれるようになったのかもしれません」と頷く。

母親の背中を見ていた甫木元空、水草が好きだった菊池剛

2021年に「I Don't Have a Pen」がNTTドコモ『Quadratic Playground』のWEB CMに、2022年に『差し色』がドラマ『先生のおとりよせ』(テレビ東京系)のエンディング曲に抜てきされるなどし、注目を集めるようになったBialystocks。その結成経緯はほかの多くのバンドとは異なっている。2019年、甫木元空が映画『はるねこ』で監督デビューを果たしたが、その生演奏上映会をおこなうためにBialystocksは立ち上げられた。

「そもそも『バンドを結成しよう』と始まったわけではなくて。友人を介して菊池とスタジオに入ったときに、彼が作った曲を聞かせてもらって、『いつか何かできたらなあ』とふんわり思っていました。『はるねこ』の劇中の曲を再現するにあたって『同世代の人たちとやってみたいな』と思って、彼に声をかけて、他のメンバーを集めてもらって。そのライブのあとに、『せっかくだからオリジナルも1〜2曲録ってみようか』って、ゆるゆると始まった感じですね」(甫木元空/『Rockin’on.com』2023年8月1日掲載記事より

甫木元空は父親が劇作家、母親が作曲家の家庭で生まれ育った。両親の仕事場へ連れて行ってもらうことなどはなかったそうだが、それでも「母親にも作曲を教わることはなかったのですが、その背中を見るなどしていたので、自分でなにかを作るということへのハードルはほかの人よりも低かったかもしれません」と背景を振り返る。そして映像、音楽などをクリエイトすることへの好奇心をふくらませていった。

一方の菊池剛は「水草のレイアウトが好きで、小学生のときもお年玉なんかを水草やその器具に費やしていました。日本庭園の配置も好きなのですが、四角のレイアウトのなかに、なにを、どのように、バランス良く配置するのかということに興味があったんです。カタログとかもずっと読んでいて。いろいろ調べると『水草界のApple』みたいな企業もあったりするんです」と言い、同級生が好きだったカードゲーム、漫画などには興味を持たなかったのだと話す。

菊池剛「作品をどれだけ自分のものと思えるかが重要」

そんなふたりをよりクリエイティブな方向へと加速させた原動力はなんだったのか。

甫木元空は「字幕版の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズですね。親としては英語能力を上げさせるために観せていたんだと思います。でも自分は、いま考えてみると、そこに描かれている家族の話や、過去、未来へ行っていろんな出来事を見に行ったり、記憶を修復・定着させに行ったりするところがおもしろかったのかなって。映画や音楽の制作も物事を記録し、ずっと残そうとする作業。それらって遡れば『亡くなった人の声を残そう』みたいなところから始まっていて、それが表現になっていった。だから自分も『こういうことを訴えたい』ではなく、個人的な記憶などを音楽、映像で残したかったんです」と言う。

菊池剛は「バンド名の由来にもなっている映画『プロデューサーズ』(1967年/※主人公の名前がビアリストック)が転換点になっています。『こういうものを作らなきゃいけない』という気持ちになったんです」と直感が働き、作品づくりをするようになった。

そんなBialystocksが生み出す作品の多くには、明確な答えやエンディングが設けられていない。

甫木元空は「ほとんどの『物語』というものには、ダイナミックに描かれる起承転結があり、そこにはきれいな終わり方が存在する。でも自分は映画、音楽の作品として取り上げられなかった前後の話に興味があるんです。なにかが来る予感、もしくはいろんな物事が過ぎ去ってからの日常。そういう『前後の揺らぎ』を作品にしたい。だから答えをはっきり描いたり、断定させたりして鑑賞者を導いていくやり方を避けるのかもしれません」と自分たちの作品の方向性について説明する。

また菊池剛は、「作品をどれだけ自分のものと思えるかが重要」と語る。

「たとえばビヨンセの音楽って格好良いですが、同じものを作るかと言われたら、似たものを作れたとしても絶対にやらない。自分が住んでいる環境、育った文化、そういうなかにある微妙に共感できる点とか、それを大事にしたいんです」

甫木元空「歌詞であまり引っかかりを持たせない」

7月12日にはデジタルシングル『Branches』がリリースされた。同作についてもやはり、作曲を担当した菊池剛は「具体的なメッセージとか風景とかを思い浮かべながら作ったわけではなく、なんて言うか……もう、気が付いたらあったという感覚」と独特の言い回しをする。

作詞した甫木元空は「菊池から曲が届いたときの第一印象として、『言葉が残らないようにしないと』という気持ちでした。サビなどであまり強すぎる言葉を使わないようにしています。言葉の意味も含めてサビなどが印象的になりすぎても、この曲に関しては不恰好になりそうなので」と、曲として“アクセント”をあまりつけない内容を意識した。

「Bialystocksで歌詞書くときって、あまり意味や言葉が強過ぎないようにしています。音の面で曲を良くするためには、歌詞であまり引っかかりを持たせない、自然と聴いてもらえたら、という。もちろんテーマや言いたいことは少しずつ入れたりはしています。でもそれは結果的に『ハマったらそれで良い』くらいのイメージですね」(甫木元空)

8月19日に『SUMMER SONIC 2023』(東京)、同27日に『SWEET LOVE SHOWER 2023』(大阪)など音楽フェスへの出演が続く。そういった場で、ふたりの独自の表現がどのように受け止められていくのか。

ただ甫木元空は「流れのなかで自分たちができることをやる、というか。目標をはっきり掲げていないんです」、菊池剛も「『この曲ができたから、もう音楽を辞めます』というものができれば良いなとは思ってます。曲作りってしんどいですし、こんな大変なことをやらなくても済むように(笑)。でもそれって永遠にできなさそうでもあるので、そういう意味でも『やり続けることができたら』という感じですね」と、あくまでクールでマイペースだった。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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