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フジテレビのアナウンサーによる「後輩いじり動画」騒動、アナウンサーの「バラエティ慣れ」の影響と勘違い

田辺ユウキ芸能ライター
フジテレビ(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

7月12日に配信された、フジテレビが運営するYouTubeチャンネル『めざましmadia』のなかでのやりとりに非難が殺到している。

動画の内容は、2024年入社の新人・上垣皓太朗アナウンサーに対し、先輩の阿部華也子アナ、生田竜聖アナ、西山喜久恵アナが「2001年(生まれ)?」「信じられない」「絶対嘘つきだ」と容姿の印象と実際の年齢にギャップがあるとからかい、さらに着ているTシャツが「似合わない」などと笑ったもの。いずれも本番中ではなく、CM中のやりとりをピックアップし、再編集・投稿した内容だった。

多くの人は、先輩からの「対応に困る冗談」を受けて表情がひきつった経験が一度はあるのでは?

上垣皓太朗アナは、「Tシャツが似合わない」と言われても「似合う男になります」と場を取り繕い、さらに「甚平とか似合いそう」と話を振られると「確かに作務衣とか一時期、着ようと思った時期はあります」と先輩の揶揄を受け入れた。上垣皓太朗アナは立場上、目上の者には抵抗や反論しづらいところがある。また多くの人は、先輩からのこういう「対応に困る冗談」をしつこく受けて、笑っているつもりでも表情がひきつる経験が一度はあるのではないか。上垣皓太朗アナの反応はそのときのことを思い出し、人ごとのようには見えなかった。

上垣皓太朗アナは23歳の新社会人。そういったからかいを受けて、精神的に傷ついてもおかしくない。なによりいずれもハラスメントにあたるものである。あと先輩アナたちには、容姿いじり特有の「自分の方が、見た目が良い」という考えも無意識に働いていたのではないだろうか。明らかにルッキズムに触れたものであった。

フジテレビは10月31日更新『めざましmadia』の公式サイト上で声明を発表。「上垣アナの奮闘ぶりを伝えたいという事で、OAされていないCM中のやりとりを制作側の判断で編集し公開しました」「この動画を公開した当時から多くの方に視聴して頂いておりますが、公開から3か月が経ち、厳しいご意見など様々なご指摘を頂くようになりました」と説明した。

ただ同動画の存在が本格的に拡散され、炎上の気配をみせはじめたのは10月28日頃。翌日にはネットメディアが記事として取り上げるようになった。そこで“危険”を察したのか、該当動画ではコメントを書き込めないように設定され、阿部華也子アナ、西山喜久恵アナもInstagramのコメント欄を封鎖。これがさらなる悪印象を与えた。

動画が拡散・問題視されてからフジテレビが声明を出すまで2、3日かかり、その間、いくつかの“悪手”も見られた。そう考えると非常に「遅い対応だった」と言えるだろう。

フワちゃんの暴言騒動と重なる、受け手を無視して自分たちの「おもしろい」をぶつけること

動画炎上の一方で、4月20日放送のバラエティ番組『FNS明石家さんまの推しアナGP』での明石家さんまの「いじり方」も話題にあがっている。フジテレビ系列のアナウンサーたちが多数出演した同番組のなかで、上垣皓太朗アナは2024年入社の新人として紹介された。

明石家さんまはすかさず上垣皓太朗アナに目をつけた。そして貫禄十分の雰囲気を見て「入社15年目?」と驚きながら、ツッコミをいれた。ただ番組を見たときの印象は、「彼の存在を視聴者に知ってもらおう」という明石家さんまなりの考えや、新人アナウンサーたちの緊張をやわらげようとする配慮、あとなにより「上垣皓太朗アナウンサーに見せ場を作ってあげたい」という気づかいが感じられた。それらを踏まえた上で「来週火曜日空いてる?」と飲みに誘うオチをつけた。すべて「バラエティ番組」という前提の上での絡みであり、上垣皓太朗アナからも楽しそうな様子が漂っていた。

フジテレビには「バラエティ慣れ」したアナウンサーが多い。明石家さんまらがそうやっていろんな人をいじって笑わせるところを、間近でたくさん見ている。ただ、明石家さんまらはプロの芸人である。そういったいじりも、相手が受けやすいようにワードや言い方を工夫したりするし、逆に自分にツッコミが返ってくる余地も含めている。

たとえば8月、物議を醸したタレントのフワちゃんによる、お笑い芸人・やす子への暴言騒動。あれは「お笑いとは受け手がいて成立するもの」ということをフワちゃんがしっかり認識せず、一方的に「自分のおもしろい」を押し付けたものだった。だから私たちが見ても、つらく感じるものがあった。明石家さんまらプロのお笑い芸人は、そのあたりがきっちりしていて上手い。今回の先輩アナウンサーたちの「容姿いじり」は、どちらかというとフワちゃんの騒動と近いものを感じる。受け手の感情を無視して、ひたすら自分たちにとっての「おもしろいこと」「笑えること」だけをぶつけ続けた。

アナウンサーたちの「バラエティ慣れ」。バラエティを履き違えたノリ

そしてそれらはどこか、アナウンサーたちの「バラエティ慣れ」が良くない影響を及ぼしている気がした。

上垣皓太朗アナをいじった先輩たちも、憎くてそのように言ったわけではないはず。実際、上垣皓太朗アナのアナウンス力を褒める場面もあった。ただ、その場をおもしろくするための、先輩たちのテレビの裏側的なノリがヒートアップしていった。しかしそれらは、「バラエティというものを履き違えたノリ」にも感じられた。あと、そういういじりは今に始まったものではないようにも受け取れた。

いじったアナウンサーたちは、番組を通して多くのお笑い芸人と接し、囲まれ、さらに時には自分たちも「人を笑わせる側」にまわることもあって、知らず、知らずのうちに今回のような良くない「笑わせ方」「いじり方」を覚えてしまったのではないか。

8月11日にはバラエティ番組『アッコにおまかせ!』(TBS系)で、パリオリンピックに出場した選手のことを「なんかトドみたいなのが横たわっている」と言い表して問題となった。和田アキ子は「かわいい」という意味でそう表現した。人の見た目を動物にたとえるのは今に始まったことではない。ただ、現在はそのように「なにかに似ている」「誰かに似ている」という表現も避ける傾向にある。今回の「いじり動画」は、このところの芸能界の問題を詰め込んだようなものだった。

ただ、なにより心配なのが上垣皓太朗アナである。筆者もこういった記事を書きながらこんなことをいうのはおかしいが、騒動がクローズアップされすぎると仕事もやりづらいはず。まわりの目もいつもとは違う風に感じるだろう。フジテレビ、そして先輩アナウンサーは上垣皓太朗アナの気持ちのケアもおこなわなければならない。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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