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島津全日本室内テニス選手権注目選手紹介(4):ダブルス制した内島萌夏18歳。胸に期するは単複での躍進

内田暁フリーランスライター
ダブルスでは連覇の内島(左)と、パートナーの林(右) 撮影:内田暁

 戦績……という意味では、ダブルスでの方がシングルスより結果を残している選手かもしれない。

 17歳にして2018年の全日本ダブルスを制した内島萌夏(もゆか)は、そのときのパートナーである林恵里奈と組み、先の京都6万ドルの国際大会でも頂点に立った。内島は昨年のこの大会でも、ダブルス巧者の穂積絵莉と共にタイトルを手にしている。また林とのペアリングは、2018年のアジア大会日本代表という肩書も獲得積み。来年のグランドスラムにダブルスでの出場を目指す林は、「今後も、萌夏ちゃんさえ良ければ組んでいきたい」とラブコールを送った。

 もちろん内島も、7歳年長のパートナーからのその言葉を、嬉しく聞いて笑みを浮かべる。

 ただ、彼女がより大きな比重を置くのは、シングルス。現在18歳の大器は、「今季の目標はシングルス120位。来年にはランキングで、グランドスラム本戦に出られるようにしたい」と明言した。

 身長172センチの内島の魅力は、フォアの強打や豪快に叩きつけるスマッシュなど、スケール感の大きさにある。日本ナショナルチームの吉川真司コーチも、16歳時の内島のプレーを見たとき、全身を鞭のようにしならせボールをクリーンに打ち抜く姿に、幸福な「衝撃を覚えた」と言った。

 その天与の能力を存分に活かし、彼女は16歳にして国際大会で決勝に勝ち進むなど、結果も次々残していく。ランキング最高位は、昨年1月に記録した357位。現在の女子テニス界では、18歳まで出場大会数が制限されることを考慮すれば、快調な足取りである。

 だが躍進を期した昨シーズンで、彼女は足踏みを強いられた。それは、ジュニアから大人へのプロセスで、誰もが経験する通過儀礼でもあるだろう。とはいえ当事者にしてみれば、初めて突き当たる大きな壁だ。

 人生を懸けて戦うプロが集う戦場は、勢いやセンスだけで勝てるほどに甘い世界では、当然ない。何より大きな悩みの種は、練習拠点やコーチを含めた環境面を、いかに整えるかということだった。

 周囲の助言に耳を傾け、自らも情報収集し、そうした日々を重ねたなかで、昨年8月に遠征先の台湾で一つの足掛かりを得る。その大会に、中国広州を拠点とし多くの選手を指導するコーチのアラン・マーが、複数の選手を連れて訪れていたのだ。以前よりマーの名声や活動に興味を抱いていた内島母子は、このときにマーと親交を持つ。そしてトライアルを経て、正式に彼のチームを拠点と定めた。

 本格的にテニスを始めたのが10歳と比較的遅い内島は、技術面や戦術的にも、これまでは自己流のところもあった。その未完の大器に名伯楽は、次々にメスを入れたという。フォアハンドはテイクバックを小さくし、グリップの握る位置も少し高くするように変えた。サーブに関しては「ほぼ全て直されています」と、内島は苦い笑みをこぼす。

 そこまでの変革を志ざせば、最初は戸惑いとジレンマを覚えのは当然だ。今でも試合に夢中になれば、以前の打ち方が顔を出す。それでも正しい道と感じるからこそ、彼女は信じて進んでいく。昨年末には、トップ100選手が4~5人居る環境でトレーニングと練習に打ち込み、大きな刺激とモチベーションを得た。今回の京都大会でも、同じチームで行動を共にするシュン・ファンインが、シングルスで頂点をつかんだことも刺激となる。切磋琢磨による相乗効果も得られる場所を、ようやく彼女は見つけたようだ。

 昨夏に18歳を迎えたことで、年齢制限も解け自由にスケジュールを組めるようにもなった。

 次々に新たな知識と刺激が注ぎ込まれるなか、大器はしなやかに、そして強く、ひとつの完成形を象っていく。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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